社会保険料が払えない!滞納すると差し押さえられるか【会社法人】
法人には、社会保険料の支払い義務があります。
しかし現在、消費増税、人手不足、海外経済のリスク、原油・素材価格高騰などで業績悪化している中小企業は多く、社会保険料の支払いに窮している会社は少なくありません。
社会保険料の滞納を続けるとどうなるのでしょうか?また、社会保険料滞納の解決はどうしたら良いのでしょうか?
1.法人の社会保険料滞納の実態
法人または常時5名以上を雇用している個人事業主(一部業種を除く)は、健康保険および厚生年金保険、いわゆる「社会保険」への加入が義務付けられています(従業員が5名未満の個人事業所は任意加入です)。
正社員(フルタイム)の他、パートやアルバイトでも条件を満たしていれば加入することができるでしょう。
社会保険料は、経営が赤字でも支払いをしなければなりません。
帝国データバンクの調査によると、2020年の景気が悪化と見込む企業は37.2%、踊り場局面と考える企業は47.1%と、全体の8割以上が景気回復という実感を持っていないことが分かります。
こうした厳しい環境の中でも、人件費や事業に関わる諸経費は待ったなしで支払いをしなければならないのです。
苦しい状況の中で自転車操業を続けた結果、社会保険料の支払いが後回しになってしまう企業が続出しています。
社会保険に未加入だとどうなる?
社長に人事や労務管理に関する知識が乏しい場合は、未加入のままというケースもあるようです。
しかし、例外を除いて法人の場合には、事業に従事している人員が代表者つまり社長一人のみの場合でも、社会保険に加入しなければなりません。
加入義務があるのに加入していないことが発覚した場合は、最大で過去2年分に遡って請求されるだけでなく、追徴金の支払い義務が生じます。罰則もあるので注意が必要です(健康保険法第208条、「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金」)。
2.滞納を続けるとどうなるのか
結論から言えば、社会保険料を滞納し続けると最終的に「差し押さえ」に発展します。
ここでは、実際に社会保険料の滞納から差し押さえになるまでの流れを解説します。
(1) 延滞金が発生する
社会保険料を滞納すると延滞金が発生します。
最初の3ヶ月は年利「7.3%」もしくは「特例基準割合+1%」のいずれか低い方合が適用されます。
3か月を経過した場合は年利「14.6%」もしくは「特例基準割合+7.3%」のいずれか低い方が適用されます。
平成30年以降の特別基準割合は1.6%ですので、実質3ヶ月までの延滞利子は年利2.6%、3ヶ月を経過した場合の延滞利子は年利8.9%と考えておくと良いでしょう。
(2) 督促状が届く
社会保険料の滞納を続けると、延滞金の加算に加えて督促状が届きます。
督促状は納付期限から1ヶ月ほど経った段階で送られます。内容は納付期限、金額、問い合わせ先などが記されています。
また、書面のほかに電話による納付督励も行われます。年金事務所の職員が直接訪問にくることもあるでしょう。
(3) 財産調査
督促状を送っても納付されない場合は、年金事務所の担当職員は会社の財産調査を行います。
調査では、預貯金、不動産、売掛金などが対象となり、必要に応じて取引先金融機関への預金残高の確認や取引先企業への売掛金の確認などが行われます。
調査で虚偽申告を行った場合は罰則があり、健康保険法違反、厚生年金法違反で懲役又は罰金に処されるおそれもあります。
その場しのぎで嘘の申告をするのは非常にリスクが高いので、聞かれたことには正直に答えるようにしてください。
(4) 差し押さえ
督促状で指定した期限までに滞納保険料が完済されない場合、「差押予告通知書(差押予告書)」や「最終催告書」などが届き、最終的に財産の差し押さえ、いわゆる「滞納処分」となります。
差押対象とされるのは財産調査で確認されたものです。
口座の預金や売掛金を差し押さえられると、銀行や取引先にも社会保険料の滞納を知られることになります。
財産を没収されるだけでなく、社会的な信用を落としその後の融資を断られることにも繋がるので、差し押さえは事業の継続の上では大きなダメージとなるでしょう。
3.社会保険料滞納への正しい対応
社会保険料の支払いができなくなったら、納付ができなくなった時点で適切な対応をすることが肝心です。
(社会保険料にも2年という時効は存在しますが、時効成立まで放置されるとは考えにくいため待つのは避けるべきでしょう。)
やむなく滞納してしまいそう・滞納しているときは、次の2つの方法で対応しましょう。
(1) 年金事務所に相談(納付の猶予・換価の猶予
社会保険料の督促状が届いたら、払えないからと放置をするのではなく、まずは年金事務所で相談をしましょう。
事情があって滞納保険料の支払いができない場合には、「納付の猶予」や「換価の猶予」といった保険料納付の緩和制度があります。
一定の要件を満たせば納付を猶予してもらえる可能性・差し押さえを解除してもらえる可能性があるので、社会保険料を期限までに納付できないときは速やかに相談をしましょう。
納付の猶予
納付の猶予が認められるのは、災害、病気、貸し倒れ、盗難、事業廃止および事業の著しい損失などの理由で納付ができないケースです。
納付の猶予が認められれば、当初の納付期限から1年間以内(最長2年)、納付が猶予されます。また、猶予期間に対応する延滞金を免除等してくれますので、かなりの負担を軽減できるでしょう。
換価の猶予
社会保険料の滞納を続けると差し押さえになりますが、既に差し押さえをされている財産についても換価(売却)を猶予されることがあります。
換価の猶予は、「滞納保険料を一時に納付することにより事業の継続が困難になるおそれがある場合」などに、1年以内の期間に限り、滞納処分による財産の換価を猶予する制度です。
換価の猶予が認められれば猶予期間中の延滞金が一部免除されます。
(2) 法人破産
上記の通り、支払いができなくなった時点で速やかに相談を行い、支払いの意思を見せることで状況を改善できる可能性があります。
しかし、社会保険料をどうしても支払えず、納付や換価の猶予をしてもらってもなお支払いができない…という場合は、法人破産をすることで問題解決が可能です。
個人の自己破産の場合には、社会保険料や税金などの「租税公課」は非免責債権として破産をしても支払免除にはなりません。
しかし、法人の破産の場合には、破産手続に伴う法人格自体の消滅に伴い、租税公課の支払義務も消滅します。
つまり、個人の破産の場合には破産をしたあとも滞納保険料の支払義務は残りますが、法人破産の場合には滞納保険料の支払義務もなくなるのです。
会社が破産をする場合には従業員は解雇せざるを得ず、また、破産手続の終了に伴い会社の滞納保険料の支払義務は消滅しますが、これによって従業員の厚生年金加入期間が短くなってしまうなど、雇用期間中の社会保険に関して従業員側にデメリットが生じることはないので、その点は安心です。
しかし、破産に踏み切ることは、会社の代表者にとって苦渋の決断でしょう。
社会保険料を支払えずどうすれば良いか分からない…という方は、お一人で悩まず、一度弁護士へ相談することをお勧めします。
4.法人破産の相談は弁護士へ
社会保険料の支払が厳しいからと滞納を放置していると、最終的に差し押さえに発展するおそれがあります。
そうならないために、社会保険料を納付できないと判断した段階で、年金事務所に相談に行くことをおすすめします。
事情があって納付できない場合は理由を話し、納付の意思を見せることで納付を猶予してもらえる可能性があります。
差し押さえになったとしても、話し合いにより換価を猶予してもらえる可能性があるので、とにかく誠意を示しつつ話し合いに臨みましょう。
もしそれでも支払いができない場合は、法人破産によって社会保険料の支払いを免れることも可能です。
ただ、法人破産は手続きが複雑で、予納金などの費用もかかります。よって、破産手続に踏み切る場合も、できるだけ早めに対処をすることが必要です。
特に、上述した「会社負担の社会保険料」以外の租税公課、すなわち、預かり源泉所得税、消費税、事業税等の納付にも遅延が生じている場合には、年金事務所のみならず税務当局が差し押さえに動くことが想定されますので、迅速な判断が必要です。
もし、社会保険料の支払いで経営に窮して破産を検討している場合は、一刻も早く弁護士にご相談ください。
早期の段階であれば破産以外の解決策を提案できる可能性もあります。滞納を放置するほど状況は悪くなってしまうので先延ばしは得策ではありません。
会社の将来のことも、ぜひ泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。