債権者一覧表の書き方を解説
自己破産や個人再生のときには、様々な書類を作って裁判所に提出しなければなりません。
ここでは数ある書類の中から「債権者一覧表」をピックアップして、その概要や具体的な書き方などを紹介します。
債権者一覧表はなぜ必要なのでしょうか?そして、間違った債権者一覧表を書いてしまうとどうなってしまうのでしょうか?
1.債権者一覧表とは?
債権者一覧表は、文字通り債権者を一覧でわかるようにしたリストです。
書き方を紹介する前に、なぜこの書類が必要なのか説明していきます。
(1) 全ての債権者と債務を明らかにする必要
自己破産や個人再生には「債権者平等の原則」というものがあります。これは「全ての債権者を平等に扱わなければならない」というルールです。
例えば複数の債権者がいるにも関わらず、一部の債権者にのみ弁済してしまうと、他の債権者が割を食って弁済を受けられないおそれがあります。これは「偏頗(へんぱ)弁済」と言って、平等を欠く行為です。
裁判所は全ての債権者を平等に扱って保護する必要があります。債権者を保護するために債権者平等の原則が作られ、自己破産や個人再生をする債務者もそれに従うことになっています。
裁判所が存在を認識できない債権者がいると、裁判所が全ての債権者を保護することができません。
そこで、債務者が債権者の情報を債権者名簿に全て書き記して、裁判所に提出することになっています。その書類が「債権者一覧表」なのです。
(2) 正しく記載しないとどうなる?
債務者の中には「この人への借金は全て返済して、迷惑がかからないようにしたい」と考えて、債権者一覧表に敢えて記載しない人もいます。
あるいは「自動車ローンを整理すると債権者に自動車を回収されてしまうから、債務整理の対象から外したい」という意図で、債権者一覧表に記載しない人もいるかもしれません。
もしくは、単にうっかりして記載漏れをすることもあるでしょう。
いずれにせよ、債権者一覧表に正しく記載しない行為は自己破産でも個人再生でも禁止されています。
自己破産の場合
破産法252条1項7号には「虚偽の債権者名簿(債権者一覧表を含む)を提出したこと」が免責不許可事由に該当する旨が書かれています。
免責不許可事由とは「こういった事情がある人は、自己破産をしても借金を免除しない」という事柄です。
記載漏れを含む虚偽の内容がある債権者一覧表を裁判所に提出することは免責不許可事由に該当するため、露見すると自己破産に失敗するおそれがあります。
[参考記事]
免責不許可事由とは?該当しても裁量免責で自己破産ができる!
記載漏れしたまま自己破産手続きが終了することもあるかもしれませんが、その場合は記載漏れした借金が「非免責債権」となり、免除されません。
せっかく自己破産をしたにも関わらず、対象の借金の支払義務は残ってしまうのです。
個人再生の場合
民事再生法第174条2項には「再生手続又は再生計画が法律の規定に違反し、かつ、その不備を補正することができないものであるとき」は、再生計画不認可の決定をする旨が定められています。
再生計画不認可決定とは、個人再生が認められず失敗に終わるという意味です。
「ただし、再生手続が法律の規定に違反する場合において、当該違反の程度が軽微であるときは、この限りでない」とも書いてありますが、記載漏れなどが悪質だと判断された場合、問答無用で個人再生手続きが打ち切られる可能性があります。
記載漏れや記載した情報に間違いがあった場合は、すぐに裁判所に申し出てください。内容が悪質でない限り、補正が可能です。
ただし自己破産や個人再生の手続きがある程度以上進んでしまうと、補正ができなくなることがあります。
万が一間違いを見つけたら、すぐに弁護士や裁判所に連絡して補正を行いましょう。
2.債権者一覧表の記載例・書き方
(1) 記載例(テンプレート)
債権者一覧表は裁判所に書式が用意されています。
書式はお住まいの地域を管轄する地方裁判所で入手できますし、裁判所によってはネットに公開しているところもあります。
以下に千葉地裁と高知地裁の書式へのリンクを貼りますので、参考にしてください。
ご覧のように、用紙を縦に使っている裁判所もあれば、横に使っている裁判所もあります。差異が大きいので、申立てをする裁判所で配布されている書式を使ってください。
裁判所の他に、各地方の弁護士会などが書式をネットにアップしていることがあります。弁護士に相談して聞いてみることをおすすめします。
(※また、ネットにアップされているものは年号が「平成」までしか記載されておらず、「令和」に対応していないことがあります。裁判所に問い合わせて最新の書式を手に入れましょう。)
(2) 債権者一覧表の書き方
それでは債権者一覧表の書き方を見ていきましょう。書式によって項目が違いますが、できるだけ網羅してご紹介します。
なお、書式はリストになっています。借り入れた時期が昔のものから順番に、リストの上の段から埋めていってください。
同じ債権者から複数回も借り入れている場合は1ヶ所にまとめて書きますが、「最初に借り入れた時期」を基準として、昔のものから書いていきましょう。
債権者名
債権者の名称を書きます。
法人の場合は「株式会社」などが法人名の「先」に来るのか「後」に来るのかを間違えないように記載してください。
親族や友人・知人からの借金についても忘れずに記入します。
債権者の住所や連絡先
借り入れの当初とは違う住所に債権者が移動しているかもしれません。
借り入れ当時の住所や連絡先ではなく、最も新しい住所や電話番号を書いてください。
古い住所を書いてしまうと、債権者に裁判所からの連絡が届かなくなってしまいます。
借入日や返済期間など
借り入れをした日を記載します。
返済期間や期限を書く欄がある場合は、それらも書いてください。
金額
借金の額を書きます。「残高」「債権額」など、書式によって表現はまちまちです。
基本的には残高を書きます。利息や遅延損害金などを含めた借金の総額を、債権者ごとに書いてください。同じ債権者から何度か借りている場合は合計金額を書けば問題ありません。
元金を書く欄がある場合は、元金の額も記載します。
借金の目的や使途
どういった目的で借金をしたのかを書きます。
チェック欄がある場合は、該当する欄にチェックを入れてください。
借金の理由は特に自己破産において重視される部分です。正確かつ正直に記入しましょう。
[参考記事]
自己破産の原因・理由は?低所得・カード破産・ギャンブルなど
最終返済日
最後に返済した日付を書きます。
一度も返済していない場合は該当欄にチェックするか、その旨を書いてください。
保証人
保証人がいる場合は保証人の名前を書きます。
いない場合は「無」と書くか、該当欄にチェックしてください。
当該債務と申立人との関係
その借金をした本人なのか、あるいは他人の借金を保証して生まれた債務なのかを書きます。
他人の借金を保証した債務の場合は、元々の債務者の名前も書いてください。
添付書類
添付書類があればその旨を記載します。
記載したのに書類の添付を忘れると、裁判所から連絡が来て提出することになるため、二度手間になってしまいます。
備考欄
以下のような事情があれば、その旨を記載します。
- その借金に抵当権などの担保が設定されている
- 公正証書で契約している
- 物上保証されている
- 別除権協定がある
- 差押えされている
- 代位弁済されている(元々の債権者名や代位弁済日も併記すること)
「この借金にはこういう事情があるけど書いた方がいいの?」などの疑問があれば、弁護士に相談して記入の是非を決めてください。
備考欄に代位弁済について書くケースもありますが、債権者名の部分に書くことになっている書式もあります。その場合は債権者名の欄に「株式会社◯◯信用保証(現債権者:◯◯銀行)」などと書きます。
また、借り入れ時期は代位弁済を受けた日ではなく、最初に借り入れた日を書きます。さらに、借金の原因や使途、最終返済日なども、代位弁済ではなく元々の借金についての情報を記載します。
債権譲渡等の場合も同じように記載しますが、権利関係が複雑過ぎてどう書いていいのかわからないこともあるはずです。弁護士に相談して解決してください。
3.債権者一覧表を漏れなく記載するために弁護士と協力を
もし債権者一覧表に間違いがあると、大抵の場合は裁判所から指摘を受けてしまいます。裁判所には通帳のコピーその他の書類を提出する必要があるため、辻褄が合わないところが出てくるからです。
債権者一覧表の間違いが悪質だと判断された場合、自己破産や個人再生に失敗する可能性があります。
仮に記載漏れがバレなくても、その部分の借金は減免されないため、返済を続けなければなりません。
こういった事態を防ぐためにも、自己破産や個人再生は弁護士にご依頼ください。
弁護士が債権債務関係を調査して、本人の勘違いなどで漏れていた債権者の情報を見つけてくれるかもしれません。
書き漏らしや間違いを防ぐために、債権者一覧表の作成サポート及びチェックは弁護士にお任せください。