自己破産 [公開日]2018年2月27日[更新日]2022年8月1日

自己破産をすると生命保険を解約される?

生命保険は、自己破産手続に際し解約される可能性があります。

自己破産は、債務者(お金を借りている人)の一定以上の財産を処分・換価して、債権者(お金を貸している人)に配当することにより、残りの借金を全額免除してもらう手続きです。

生命保険に限りませんが、長期間掛け金を積み立てるタイプの保険(積み立てタイプの保険)は、貯金と同様の機能を果たします

よって、破産手続を始める時点で積み立てタイプの保険に入っていた場合、処分(解約)されて、解約返戻金(解約金)を債権者に分配される可能性があります。

しかし、積み立てタイプの保険であっても、その全てが解約されるとは限りません。

ここでは、自己破産前に生命保険を解約しなければならないのかと不安に思っている方へ向けて、自己破産における生命保険の取り扱いについて解説します。

1.解約の危険がある生命保険の種類

(1) 積み立てタイプで解約金が一定以上

まず、「掛け捨てタイプ」の保険は解約の対象にはなりません。
また、「積み立てタイプ」の生命保険であっても、その全てが解約されるわけではありません。

破産手続においては、手続終了後の生活の立て直しのために、一定の金額以下の価値に留まる財産は処分の対象としない扱いがされています。
すなわち、自己破産は破産者の生活の再建を目的としているため、その立て直しのために必要とされる財産は処分されないのです。

例えば、東京地裁の場合は現金が99万円、その他の財産は種類ごとに20万円まで手元に残せることになっています(運用は裁判所によって異なります)。

つまり、東京地裁の場合、生命保険の解約返戻金が20万円以下であれば、生命保険の処分は免れる可能性が高いでしょう。

ただし、生命保険に複数加入しており、それらの保険の解約返戻金の合計額が20万円を超える場合には、一括して全ての保険を解約するよう指示されるでしょう。

(2) 破産者本人が契約した保険

また、問題になるのは、原則として自己破産する方ご本人が契約した保険だけです。

解約した場合に解約返戻金の受け取りができるのは保険契約者ですから、自己破産を申立てた方が保険契約者である場合のみ、破産手続で処分の対象になるのです。
家族が契約者の保険などは解約されないのでご安心ください。

例外的に、保険契約者が親族などの名義になっていても、自己破産を申立てた方が掛け金の全額を支払っていたというような場合には、名義が違っても実質的には破産者の財産であるとみなされ、処分の対象となる可能性があります。

また、「破産申立人が契約者名義であるが親が保険金を払っている」等という場合には、保険料を支払っていなくとも解約返戻金は契約者の財産であるとされることが多いです。

しかし、レアケースではありますが、名義人(破産申立人)が保険料を全く支払っていない・名義人が生命保険に入っていることを認識していなかった等の場合には、破産申立人の財産とはされず、処分しないで済む可能性もあります。
詳しくは弁護士にお尋ねください。

【自己破産後に新たに生命保険に入れるか】
「自己破産で生命保険を解約させられてしまったら、その後二度と生命保険に入れないのでは?」と不安になる方もいらっしゃるでしょう。
これについては、自己破産後も問題なく生命保険に入れます。掛け捨てタイプでも積み立てタイプでも変わりません。
確かに、自己破産後はいわゆる「ブラックリスト」状態となり、新たな借入やローンを組むこと、クレジットカードの新規作成はできなくなります。しかし、生命保険はこのブラックリストとは無関係のため、生命保険の加入の審査でブラックリストが理由で落とされることはありません。
生命保険の審査で見られるのは、健康状態や持病などについてでしょう。自己破産が原因でその後の生命保険の契約を断られることはないので、ご安心ください。

2.生命保険を残す手段

実は、解約返戻金が20万円以上ある自分名義の生命保険を残す手段も存在します。

(1) 解約返戻金見込額相当額を用意

保険を解約するのは、それによって得られる解約返戻金を債権者に分配するためですから、自己破産する方ご本人が解約返戻金と同額のお金を用意し、それを代わりに分配してもらうことで解約を免れる手段があります。

これは、生命保険以外でも、20万円を超えるような財産(たとえば自動車のような生活に欠かせないもの)をどうしても手元に残したいケースの全てにおいて有効な手段です。

ですが、自己破産した方ご本人では解約返戻金に見合うお金を用意できないことは多々あります。

この場合には、保険法の定める「介入権」という仕組みによって、保険契約者の親族や被保険者の親族など、一定の範囲の関係者が代わりに解約返戻金相当額を支払うことができます。

(2) 契約者貸付制度

もう一つ、自己破産を申立てる前に解約返戻金の額そのものを減らすことにより、生命保険の価値を処分対象となる20万円以下にする方法もあります。

これには契約者貸付制度を利用します。

ただし、この方法を取る場合、時期により自己破産申立直前の財産処分とされますので、積み立ててあったお金を取り崩す大義名分が必要になります。

破産申立て費用や、申立準備期間中の生活費、あるいは税金・年金など公租公課の支払いにあてるのが適当でしょう。

契約者貸付によって得た資金を、現金や預金の形で抱えたままにすると、本来は解約して債権者への支払いにあてるべき保険を不当に維持しようとしたとして、破産手続上で不利な取り扱いを受けるおそれがあります。
最悪の場合、自己破産に失敗をしてしまうかもしれません。

契約者貸付制度は独断では行わず、必ず弁護士にご相談ください。

3.保険に関する書面の提出

破産申立ての時点で、裁判所は解約返戻金の有無や現在の資産額の分かる書面を要求してきます。

保険証書に「解約しても返戻金はありません」と明記してある場合は、保険証書のみの提出で足ります。
そうした記載がない場合には、保険会社から「現時点で解約したと仮定して返戻金額を計算した結果」を記した書面をもらい、裁判所に提出しなければなりません。

保険会社は、契約者から要望があればそうした書面を作成する義務を負っていますから、契約者自身が申し込めばすぐに応じてくれます。

「保険会社に書類が必要な理由を聞かれたら何て説明しよう」と身構えると方がいらっしゃるかもしれませんが、正直に破産手続に使うと答える必要もありませんので、「頼まれて保証人になるにあたり財産の証明書を出すよう求められている」などと方便を用いるのも良いでしょう。

なお、前に少し述べた通り、保険会社に自己破産がバレたからといって無条件に解約させられることや、今後の契約を断られることはないのでご安心ください。

【親族名義の保険証書などは?】
提出が必要なのは、原則として破産手続を申立てた方ご自身の名義で契約した保険に限られますが、場合によっては親族名義の保険証書の提出が求められることもあります。
前述で指摘した通り、契約名義人と実際に掛け金を負担する人が違うケースがあったり、(契約者名義を変更処分して財産から逃れようとしたりする可能性もあるため)そうやって隠れている財産がないかを確認するのです。
場合によっては、予想外に多くの書類を用意しないといけないこともありますので、保険関係書類は事前にとりまとめておくのが良いでしょう。

4.自己破産の相談は泉総合法律事務所へ

務整理の各種手続は非常に複雑なため、まずは一度専門家にご相談ください。
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