ハードシップ免責とは?|個人再生後の返済で滞納したら
個人再生の再生計画認可後に、リストラや病気により十分な収入が得られなくなる可能性は0ではありません。
そうなると、再生計画通りの返済が実行できなくなることがあるでしょう。
「個人再生後の返済がどうしてもできない」という方のために、「ハードシップ免責」という制度があります。
これが利用できるのはかなりレアケースですが、要件をクリアすれば再生計画の残務の支払いを免除してもらうことができます。
今回は、ハードシップ免責について解説します。
1.個人再生と再生計画
(1) 再生計画通りの返済で残債務が免除
個人再生手続きは、減額された債務を原則3年で返済する計画を立て、実際に完済した場合に、残債務が免除される手続きです。
減額率は債務額や手持ちの資産額などによって異なりますが、最大で1/10まで債務を圧縮できることから、多重債務に苦しんでいる方にとって大きな救済措置となります。
しかし、債務の免責は返済計画通りに完済できた場合にのみ認められます。返済途中で延滞してしまったり、返済ができなくなってしまったりすると、裁判所から返済の見込みがないと判断され、再生計画が取り消されます。
その結果として、自己破産を選択せざるを得なくなってしまう方は多いでしょう。
なお、個人再生計画が取り消されてしまうと、折角守ることに成功した自宅も手放さなければいけなくなってしまう可能性が高いです。
(2) 再生計画途中で支払えなくなった場合の最初の対応
再生計画通りに返済していても、自分ではどうにもならない事情で返済が難しくなってしまうことはあるでしょう。
例えば、不況によるリストラや、病院に長期で入院せざるを得ない病気が発覚した場合などは、収入がなくなってしまうため、借金の返済も難しくなります。
このような状態になってしまったら、まずはできるだけ早く債権者と話し合ってください。
債権者と話し合う際は、再生計画案の延長を提案することが大切です。債権者もできるだけ多くの債権を回収したいと考えていることから、自己破産されるよりは返済期間の延長を認めた方がメリットは多いと考えるはずです。
基本的には、特別な事情があれば5年までは再生計画案を延長してもらえる可能性があります。また、債権者の同意があれば、これ以上に有利な条件が成立することもあります。
滞納してから交渉すると、心象が悪くなり、返済計画が取り消される可能性が高くなってしまいます。後手に対応するのではなく、先回りして対応することにより債権者が交渉内容に同意してくれる可能性も高くなります。
以上から、再生計画の返済途中で支払えなくなった場合には、できるだけ早い段階で債権者に相談してください。
ご自身で交渉することに抵抗がある方は、専門家である弁護士に相談することがお勧めです。
2.ハードシップ免責について
では、再生計画通りの支払いができなくなった場合の「ハードシップ免責」についてご説明します。
(1) ハードシップ免責とは?
先述した返済期間の延長によって返済が可能となるのであれば問題ありません。
しかし、長期の入院が必要な場合など、返済の見通しが立たない場合は、返済期間を延長しても支払えない可能性が高くなります。
このように、どうしても支払えないという場合に検討できるのが「ハードシップ免責」です。
ハードシップ免責は、個人再生計画認可後、再生計画通りに返済することが極めて困難となった場合に、残債務を免除してもらえる制度です。
しかし、単に「家計が苦しい」「想定していたよりも返済負担が大きかった」という理由では認められません。先にお伝えしたような「病気等により入院せざるを得ない状況」や「リストラで再就職が難しい」など、厳しい条件をクリアする必要があります。
また、ハードシップ免責は、債権者との交渉で叶うものではなく、裁判所に対して手続きが必要です。個人再生を申し立てた裁判所に、免責申立書と返済できないことの証明書類を提出することで、手続きを行います。
申立てが受け入れられたら、裁判所が債権者の意見を聞いた上で、免責するかどうかの判断をします。
手続き自体の負担はそれほど大きくなく、費用は収入印紙代を含めて1,000円程度でできます。
(2) ハードシップ免責の要件
ハードシップ免責は、例外中の例外のようなものですので、残念ながら簡単に認められるわけではありません。
免責には条件があり、全てをクリアしないと免責の判断はおりません。具体的なハードシップ免責の要件は以下の通りです。
- 減額された債務のうち3/4以上を既に返済している
- 再生計画の変更が極めて困難
- 債務者の責めに帰することができない事由で返済が極めて困難な状態になった
- 免責の決定をすることが再生債権者の一般の利益に反するものでないこと
まず、ハードシップ免責は、再生計画で返済すべきとなった金額の3/4を返済していないと認められることはありません。例えば、3年の返済計画で200万円の返済が必要だった場合には、150万円はすでに返済を終えている必要があります。
次に、再生計画の変更が極めて困難である必要があります。先にご説明したように、計画を3年から5年に延長しても返済できる見通しがない場合には、変更自体が困難と言えるでしょう。
さらに、返済が困難となった理由は、債務者がコントロールできない事情であることが必要です。これにはリストラや病気などが含まれますが、転職のための自己都合での退職の場合は厳しいといえるでしょう。
また、ハードシップ免責を認めることにより債権者の一般的利益に反する場合は、免責できません。自己破産した場合の配当よりも少ない場合などはこれに当たるでしょう。
このように、ハードシップ免責の要件は非常に厳しいものとなっています。
3.ハードシップ免責で注意すべきこと
最後に、ハードシップ免責を検討する場合に気をつけるべき注意点をご説明します。
(1) 住宅ローンが残っているマイホームを失う
個人再生手続きを選ぶ方の多くは、住宅資金特別条項を利用し、マイホームのローンはそのままにして他の債務の圧縮を行います。マイホームを守りながら他の借金を大幅に減額できることは、個人再生手続きの特徴でもあります。
もっとも、再生計画の遂行中にハードシップ免責が認められることになった場合は、住宅資金特別条項も認められない結果となってしまいます。
具体的には、住宅ローンの残債が残っている場合には自宅を失うことになるということです。
ハードシップ免責により住宅ローンの残債も免除されることになり、債権者が抵当権を実行することから家を手放さなければいけなくなるでしょう。
ハードシップ免責を検討される場合は、自宅のことも考慮に入れた上で手続きを進めるかどうかを決めましょう。
(2) 自己破産・個人再生がその後7年間できない
自己破産をする場合も、個人再生と同様にいくつかの条件をクリアしないといけません。
自己破産では「免責不許可事由」というものが定められており、これに当たる場合に裁判所は自己破産を原則として認めてくれません。
この免責不許可事由の1つに、個人再生手続きにおけるハードシップ免責が規定されています。
今後また生活が苦しくなっても、7年間は自己破産ができないという覚悟をしておく必要があります。
また、個人再生の「給与所得者等再生」も同様に、ハードシップ後7年間は利用できなくなってしまいます。
4.計画的な返済のために個人再生は弁護士に相談を
最初から現実的に返済可能な計画案を作成するためにも、個人再生をご検討中の方は、債務整理に強い弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
また、個人再生をした後でも、弁護士にご相談いただくことは可能ですので、返済が苦しくなった場合にはお早めにご連絡ください。