破産者名簿とは?自己破産で記載されるデメリット
自己破産は、単に借金をゼロにできる制度ではありません。手続きを行うことでいくつかのデメリットも発生します。
「財産が一部処分される」「ブラックリストに載ってクレジットカードが作れなくなり、ローンの審査にも落ちる」などのデメリットが有名ですが、中には「破産者名簿に載る」という話を聞いたことがある人もいるでしょう。
「破産者名簿に載ったら家族や知り合いに自己破産のことがバレてしまうのでは?」という不安を抱える方がいらっしゃるかもしれませんが、正しい知識を得れば破産者名簿は怖いものではありません。
ここでは「破産者名簿」について解説していきます。
1.破産者名簿とは?
破産者名簿とは、本籍地のある市町村の役場に備え付けられている名簿です。
その名前が示すように、破産者の名前などの情報が記載してあります。
なお、段落2で詳しく説明しますが、自己破産をすれば必ず破産者名簿に載るというわけではなく、現実には9割以上の人が「破産者」となることなく自己破産手続を終えています。
(1) 破産者名簿が作られる目的
法律上、「破産者」が就くことができない仕事というものがあります。
例えば警備員、宅地建物取引士、弁護士をはじめとした士業など、様々な職業がそういった仕事に該当します。
該当する仕事に就く際には、本籍地のある市町村役場から「破産者でないこと」を証明するための「身分証明書」を発行してもらう必要があります。
発行の申し込みを受けた役場の人は、破産者名簿を紹介して、名簿に記載されていなければ「破産者でない」ことを記した身分証明書を発行します。
つまり破産者名簿は、身分証明書を作成する目的のために用意されています。
(2) 破産者名簿に載ることによるデメリット
デメリットは「『破産者ではない』と書かれた身分証明書を発行してもらえない」ということです。
これにより、破産者は該当する仕事に就けなくなってしまいます。
[参考記事]
自己破産と仕事の関係|制限を受ける職業・資格一覧
しかし、デメリットはこれだけです。
「破産者名簿に載ったら他人に見られるのでは?」という不安をお持ちになる方は多いと思いますが、破産者名簿は公開されるものではなく、名簿を見ることができるのは役場の係の人のみです。
公務員には守秘義務があるので、役場の人が「破産者名簿に○○さんが載っていた」などと吹聴して回ることはないでしょう。極度に不安がる必要はありません。
また、他人や企業など、本人以外が勝手に身分証明書を取ることはできません。
自己破産すると「官報」という国の機関紙で名前や住所が公開されます。
官報は官報販売所で購入できますし、大きめの図書館やインターネットなどでも閲覧可能です。
しかし、官報を日々チェックする人はほとんどいませんし、仮に自分の名前が載っていると知っていたとしても、自分で探すのが大変なくらい見つけづらいことがほとんどです。よって、官報のせいで身内に自己破産のことがバレる危険はほとんどないでしょう。
破産者名簿と官報を混同して、「破産者名簿のせいで自己破産のことが公開される」と思っている人もいるようですが、両者は根本的に違うものなのでご注意ください。
参考:自己破産・個人再生で掲載される官報とは何か?
2.破産者名簿に名前が載るケース
前段で軽く述べましたが、自己破産をすれば必ず破産者名簿に載るというわけではありません。
実際は9割以上の人が、破産しても破産者名簿に載らずに済んでいると言えます。
破産者名簿に記載されるのは以下のような場合です。
- 破産手続開始の決定が確定して1ヶ月経っても免責手続が係属していないとき
- 破産手続開始の決定が確定して1ヶ月経過以降に免責許可の申立てがすべて取り下げられたとき
- 破産手続開始の決定が確定して1ヶ月経過以降に、免責許可の申立てのすべてが却下または棄却する裁判が確定したとき
- 免責不許可の決定が確定したとき
- 免責取消しの決定が確定したとき
自己破産は、債務者の財産を換価処分・配当する「破産手続」の開始決定によって始まり、「免責(借金の帳消し)の確定」によって集結します。
この「破産手続開始決定」から「免責の確定」の期間、破産申立人は「破産者」と呼ばれます。
(※過去には、「破産手続開始決定」は「破産宣告」と呼ばれていました。)
過去の運用では、破産者である間は全員が破産者名簿に名前を掲載されていました。
しかし、破産手続開始決定から免責までの数ヶ月の間に身分証明書を取得しようとする人は少なく、開始決定や免責の度に名簿を更新するのは手間がかかり、無駄も多かったようです。
そこで、平成17年に、原則的に「免責を受けられなかった人」だけが名簿に記載されるように改められました。
[参考記事]
自己破産の「免責」とは?決定・確定するとどうなるか
自己破産をすれば大半の人は免責を受けられるよう全力を尽くし、実際に免責を受けます。
そのため、現在破産者名簿に名前が記載される人はほとんどいないのです。
なお、破産者名簿に掲載された場合でも、その後に免責許可を得る・所定の期間が経過するなどして「破産者」でなくなれば、破産者名簿から削除されます。
3.破産者名簿に関するよくある疑問
破産者名簿と官報、その他の書類を誤解する人がいるためか、破産者名簿に関する誤解は多くあります。
最後に、典型的な疑問を3つ紹介し、解説していきます。
(1) 破産者名簿に載った名前は消せる?
「破産者名簿に載っているのは嫌だから消してください」と役場の人にお願いしても、名簿から名前を消してくれることはありません。
免責を受けるなどすれば自動的に削除されるので、自己破産手続きを無事に終わらせることに注力してください。
(2) 戸籍や住民票に破産したことは載る?
戸籍にも住民票にも、破産したことは記載されません。これは破産手続き中でも、破産手続きが終わった後でも同様です。
過去の破産や現在の破産が戸籍や住民票にからバレることはありませんのでご安心ください。
破産手続を開始したこと(破産宣告)が何かしらの身分証明書に残ることもありません。
(3) 免責を受けられなかったらいつまで記載される?
残念ながら、自己破産に失敗して免責を受けられなかったとします。
この場合は、以下のいずれかの条件を満たせば破産者でなくなり、名簿から削除されます。
- 個人再生で再生計画認可決定が確定する
- 破産手続開始決定後に10年経過する(但し、詐欺破産罪の有罪確定判決を受けないこと)
- 破産手続で同意廃止の決定が確定する
同意廃止とは、簡単に言えば「債権者が破産手続きによる配当を受けないことに同意して破産手続きを終わらせる」ことですが、この同意を得られることはないと考えるべきです。
10年の経過を待つことも得策とは言えませんので、現実的には個人再生を試みることになるでしょう。
個人再生が無事に認められれば、破産者名簿から削除されます。
4.破産者名簿は怖くない!破産手続きは弁護士へ
破産者名簿に載る期間は「破産手続開始決定」から「免責許可決定」までの間だけです。
しかし、原則的には「免責を受けられなかった人」が載るため、ほとんどの人は破産者名簿に載りません。過度な心配はせず自己破産をご検討ください。
自己破産で早く免責を受けるためには、自己破産手続きを弁護士に依頼することが肝要です。
自己破産をお考えの方は、泉総合法律事務所の弁護士までご相談ください。