自己破産をしたら退職金も差し押さえ・没収される?
「自己破産をしたら退職金を受け取れない」と考えている方はいらっしゃいませんか?
たしかに、自己破産をすると一定の財産を失います。
自己破産は、全ての借金の返済義務を免除する代わりに、手持ちの財産の一部を換金して債権者に配当する手続きだからです。
処分される財産には、不動産(マイホームなど)や高価な車、有価証券、一定額以上の預貯金、生命保険(解約返戻金)の他に、退職金も含まれます。
しかし、自己破産すると必ず退職金の全額を取り上げられたり、退職を強いられたりするわけではありません。
退職時期まで期間が長い方の場合には、「退職金が没収されない」ことや、「没収の対象となる金額が少額にとどまる」ことも少なくありません。
今回は、自己破産した場合の退職金の取り扱いについて解説します。
1.退職金と自己破産の関係
まずは、自己破産すると退職金が処分される理由を確認しておきましょう。
(1) 処分される財産の種類
自己破産では、「債務者の財産と負債を清算する」ための破産手続を経てから、「借金を免除して良いかどうかを裁判所が判断する」ための免責手続が行われます。
破産手続において処分(没収)される財産(債権者に配当される財産)のことを「破産財団」と呼びます。
「破産手続開始決定のときに破産者が保有していた財産」は、原則として破産財団に組み込まれます。
しかし、破産後の生活のためには、一定の財産を手元に残す必要があります。
この観点から、個人の破産の場合には、破産者が有する財産であっても、次のような財産は破産財団に組み込まれないことになっています。
- 99万円までの現金
- 法律によって差し押さえが禁止されている財産(年金受給権の他、債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具など)
- 破産手続開始決定よりも後に取得した新得財産(破産手続開始決定後の給料など)
- 破産管財人によって破産財団から放棄された財産(換価しても価値が少ないなど)
- 自由財産の拡張が認められた財産
詳細は各裁判所によって異なりますが、上記のような、破産しても処分されずに手元に残せる財産を「自由財産」といいます。
[参考記事]
自由財産とは|自己破産しても財産が残せる!拡張は可能か?
(2) 退職金の扱い
さて、在職中の方が自己破産したときには、退職金は実際には受け取っていません。
したがって、「破産手続決定開始後の給料のように新得財産ではないのか?」と思った方もいるでしょう。
しかし、退職金は「給料の後払い」としての性格をもっており、破産手続き開始決定の時点で「将来受け取れることが既に決まっている債権」といえます。
このような退職金の場合、自己破産の際に換価・処分の対象となってしまいます。
退職金の中でも、受給の可否やその金額が確定しているとはいえないものは、自己破産をしても破産財団に組み込まれる(処分される)対象とはならない場合が多いでしょう。
「退職金という名目の金銭」であっても、このような「賃金の後払いとはいえない」ものや「将来受け取れることが確実ではない」ものは、処分の対象外となります。
2.自己破産で処分される退職金額
とはいえ、自己破産をしても、必ずしも退職金の全額が破産財団に組み込まれる(処分される)わけではありません。
自己破産によりどのくらいの退職金を処分されるかは、「退職時期がいつか」によって異なります。
(1) 既に退職金を受け取っている場合
借金で悩んでいる50代後半の方の中には、「退職金で借金を清算して残ったものを自己破産しよう」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。
また、勤務先に自己破産を知られたくないからと「退職後の自己破産」を考える場合もあるでしょう。
しかし、退職金との関係でいえば、退職後の自己破産は明らかに不利となります。
既に退職金を受け取っている場合には、退職金は現金や預金となっていますから、そのほとんどが破産財団に組み込まれる(処分される)ことになります。
現金や預金となると、それが退職金か否かの判別が難しいためです。
各裁判所の運用にもよりますが、99万円を超える現金や、総額20万円を超える預貯金は破産財団として処分されてしまいます。
裁判所によっては、自由財産拡張によって対応してくれることがありますが、原則として99万円を超える額を手元に残すことはできないと考えるべきです。
よって、退職金を受け取った後に自己破産をすると、退職金の多くを処分されてしまうことになるでしょう。
(2) 退職間近である場合
退職時期が間近に迫っていて、退職金の金額が確定しているときには、退職金の1/4に該当する金額が破産財団に組み込まれます。
ただし、退職金見込額の1/4の額が20万円以下であるときには処分の対象となりません。
現在の裁判所の運用では、20万円以下の財産は処分の対象とはしない運用となっているからです。
つまり、「破産手続開始決定の時点での退職金見込額が80万円を超えないとき」には、自己破産しても退職金を失うことはありません。
なお、自己破産を申立てる際には、勤務先が発行する退職金見込額証明書や退職金規程(就業規則)のコピーなどの必要書類を提出する必要があります。
退職金見込額証明書の取得方法については、以下のコラムの段落4で解説しています。
[参考記事]
退職金は個人再生の減額率に影響するのか?
(3) 当面退職金を受け取る予定がない場合
退職時期がまだ先であるという場合には、退職金見込額の1/8の額が破産財団に組み込まれることになります。
将来本当に退職金が受け取れるかどうかは不確実(途中で退職する場合や会社が倒産するケースもあり得る)ならば、退職間近(受給が確実な場合)よりも負担額は小さくすべきであるという考え方に基づきます。
また、退職間近のケースと同様に、対象金支給見込額の1/8の額が20万円以下の場合には、処分の対象となりません。
したがって、退職金支給見込額が160万円以下の場合には、自己破産しても退職金の破産財団に組み込まれることはありません。
このため、勤続年数の浅い方や20代の方の場合には、自己破産しても退職金に影響がないことも多いのです。
なお、現金や預貯金といった他の財産が乏しいときには、破産財団に組み込むべき退職金の一部を自由財産とすることが認められる場合があります。
これについては統一基準があるわけではなく、それぞれの裁判所の運用に委ねられていますので、お住まいの地域の裁判所での取扱いについては必ず弁護士に直接相談して確認してください。
3.実務的な退職金の処分方法
「退職金なんて実際に退職しないと払えないのでは?」と思われるかもしれませんが、退職金(見込額)を破産財団に組み入れる方法には、次の3つがあります。
- 破産者が退職して受け取った退職金を破産財団に拠出する
- 破産管財人が勤務先に対して退職金の前払いを請求する
- 破産者が退職金(支給見込額)相当額を新得財産などから工面する
自己破産した後の生活のことを考えれば、退職金を拠出するために退職を強いることは好ましいとはいえません。
また、破産管財人が勤務先に退職金の前払いを請求すれば、これからの就業に悪影響がでる可能性もあります。
そこで、実際には、退職金支給見込額に相当する金額を、破産者が新得財産や自由財産から工面して支払ったり(場合によっては分割で積み立てることも可能)、親族などから援助を受けて支払ったりすることで、退職金の処理を終わらせることがほとんどです。
4.退職金見込額の計算や財産処分の不安も弁護士へ
自己破産すると「退職金を失う」、「退職金のために会社を辞めなければならない」と思い込んでいる方は少なくありません。
しかし、実際には退職の必要がないだけでなく、退職金をほとんど失わない場合もあります。
また、自己破産したからといってすべての財産が処分されるわけではありません。生活に必要な家財道具や年金はもちろん、預貯金や生命保険(解約返戻金)も一部は手元に残せることがあります。
自己破産をはじめとした債務整理にはデメリットが生じることもありますが、適切に対応することでそれを軽減・回避できる場合もあります。
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