破産における別除権をわかりやすく解説
自己破産や個人再生などの裁判所を通して行う債務整理には、初めて見聞きするような難しい言葉がいくつも存在します。
ここでは、そういった言葉の中から、「別除権」について解説します。
なお、特に記述のない場合、この記事では自己破産を想定した別除権について述べていきます。
1.別除権とは?
別除権について、破産法には以下の条文があります。
「この法律において「別除権」とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第六十五条第一項の規定により行使することができる権利をいう」(破産法第2条9項)
「別除権は、破産手続によらないで、行使することができる」(第65条1項)
条文からわかる別除権の概要は以下の2つです。
- 別除権は、先取特権、質権、抵当権を持つ人が、破産者の財産(破産財団)から優先的に弁済を受ける権利である
- 別除権は破産手続とは関係なく行使できる
個別にわかりやすく解説します。
(1) 先取特権、質権、抵当権とは?
先取特権、質権、抵当権は「担保権」と呼ばれるものの一種です。
まずは別除権の対象となる権利について、例を挙げながら一つずつ説明します。
先取特権
他の債権者よりも優先して債務者の財産から弁済を受けることができる権利です。
少し難しく言えば「法律で定められた一定の債権者が、債務者と合意をしなくても、債務者の一定の財産から債権回収を行える権利」を先取特権と言います。
先取特権には以下の種類があります。括弧内は先取特権の対象となる費用です。
- 一般先取特権(共有の財産等の管理によって生じた共益費・給与など雇用関係の費用・葬儀に関する費用・日用品の購入に関する費用)
- 動産先取特権(動産の売買などで生じた費用)
- 不動産先取特権(不動産の保存・工事・売買の費用)
- マンション管理費の先取特権(滞納中のマンション管理費の請求権)
債務者に他の債務があったとしても、上記の債権を持つ債権者は、先取特権に基づいて優先的に弁済を受けることができます。
質権
債権者が債務者から担保となる物を受け取って保管し、いざとなったらそれを売却することなどで優先的に弁済を受ける権利です。
例えば債権者が債務者へお金を貸す際に、担保として宝石を受け取るとします。債務者が無事に弁済すれば宝石を返却し、債務者が弁済不能に陥った場合は宝石を売るなどして優先的に弁済を受けます。
いわゆる「質屋さん」と同じ方式で弁済を得る方法が質権です。
抵当権
広く使われている担保権です。わかりやすく表現すれば、主に不動産などを「借金のカタ」とする方法です。
不動産以外でも、自動車・船・漁業権など、登記や登録制度がある物や権利には抵当権を設定できます。
債権者が物を占有する質権と違い、抵当権の対象となった物は債務者が占有して使用収益できます。
例えば住宅ローンを利用して住宅を買うと、基本的に住宅に抵当権が設定されます。買主は住宅を自由に使用収益できますが、住宅ローンの返済が滞った場合、ローンの債権者が抵当権を実行して住宅を競売にかけるなどして債権を回収します。
その他のケース
法律の条文では「先取特権、質権又は抵当権」とありますが、他の方法でも別除権に似た効果を発生させることができます。
例えば「所有権留保」です。自動車ローンなどでよく使われます。
自動車ローンを完済するまでは、自動車の所有権者を買主ではなくローンの債権者に留めておきます。そしてローンが完済されたときに、自動車の所有権はようやく買主へと移行します。
万が一自動車ローンの返済が行われなくなった場合、債権者は自己の所有権に基づいて自動車を回収し、売却するなどして債権を回収します。
この手続きは破産や民事再生などと関係なく可能であり、事実上別除権に近い効果を得られます。
(2) 別除権は債務整理手続きとは関係なく行使できる
例えば自己破産の場合、債務者の財産を破産管財人(破産手続を取り仕切る人)が処分してお金に換え、各債権者が持っている債権額の比率に応じて平等に配当します。これが「破産手続」です。
見方を変えれば、債権者は破産手続によって弁済を受けることになります。
しかし、先取特権・質権・抵当権を持っている債権者まで破産手続を通さなければ弁済を受けられないのであれば、せっかくの他人に優先して債権を回収できる権利が意味のないものになってしまいます。
それを防ぐのが別除権です。別除権を持つ債権者は、破産手続などに関係なく自分の持っている権利を行使して、優先的に債権の回収を図って構いません。別除権には担保権を持つ債権者の権利行使を確保する趣旨があるのです。
例えば抵当権がある債権者は、破産手続の外で抵当権を行使して、独自で債務者の財産を競売することができます。
ただし、別除権には以下のような注意点があります。
別除権を使っても満足な弁済が受けられない場合がある
別除権付債権を持っているからと言って、必ずしも満足な弁済を受けられるわけではありません。
例えば1000万円の債権を持つ債権者が、抵当権を行使して債務者の持ち家を売却しても、700万円でしか売れないケースがあります。
この場合、不足分の300万円については破産手続を通じて弁済を受けることになります。これを「不足額責任主義」と言います。
破産管財人が目的物を売ることがある
破産手続では、破産管財人が担保権の付いたものを担保権が付いたまま任意売却できることになっています。
例えば住宅を任意売却する場合、通常は債務者と債権者が交渉して合意した後に、抵当権を外して売りに出します。
しかし破産管財人は、抵当権が付いた住宅を、抵当権の付いたまま任意売却できます。
この場合、任意売却された住宅は破産財団から外れ、抵当権は従来のまま残った状態となります。抵当権を設定したローンの債権者は、まだ残っている抵当権を破産手続とは別に行使することができます。
別除権が使えない場合がある
破産や民事再生の場合、該当する担保権者は別除権を行使できます。
しかし、会社更生法による手続きでは、たとえ各種担保権を持っていても、会社更生法の手続きを無視して優先的に債権を回収することはできません。会社更生法の手続きの中で債権を回収することになります。
2.別除権への対策
別除権を行使されると債務者は担保にした財産を失ってしまいます。
「できれば財産を残したい」「この財産がなくなると生活や事業が立ち行かなくなる」という場合は、債権者と「別除権協定」というものを合意することで、財産を守ることができます。
(1) 別除権協定について
債権者と交渉して「別除権を行使しない」という旨の合意を取り付けることを別除権協定と言います。個人再生などの民事再生で使われることがあります。
例えば事業に必要な機械を担保にしてお金を借りている場合、担保権を行使されれば機械を失ってしまいます。これでは経済的な再生が難しくなるため、債権者と債務者の間で別除権協定を結んで、別除権の行使を防ぐことがあります。
もちろん何の見返りもなく合意してくれる債権者はめったに存在しません。基本的には債務者が担保となっている物の評価額に相当する金銭を債権者に支払って、担保を解除してもらいます。これを「担保目的物の受戻し」などと呼びます。
(2) 別除権協定に必要なこと
別除権協定が実現するハードルは高く、滅多に合意に至りません。
それには以下の条件が関係しています。
債権者との合意が必要
担保権を外してもらうために、通常はお金を支払う必要があります。しかし一括で払えるケースは少ないはずです。
分割払いにする場合、毎月の返済額・返済期間・利息などについて取り決めることになります。この条件が折り合わないと合意に至りません。
そもそも借金を返せなくなった相手と再び分割払いの契約を結んでくれるのかという問題があるため、交渉が難航して合意に至らない可能性があります。
裁判所の許可が必要
別除権協定は他の債権者にも影響を及ぼしかねない内容であるため、裁判所の許可を取る必要があります。
しかし、許可が出るのは、担保権の対象物が本当に事業の継続などに必要である等、非常に限定された場合です。単に「それがないと生活に不便」程度の理由では許可が出ないと思ってください。
3.別除権のデメリットを避けるには弁護士へ相談を
普通に生活しているときに別除権を意識することは滅多にないため、わからないことが多くて当たり前です。
まずは「債権者が別除権を行使すると、担保にした財産がなくなる」といった程度の理解をしておきましょう。
別除権協定を締結できれば担保にした財産を失わずに済みますが、個人の力でこの協定を結ぶのは無謀です。必ず弁護士に相談して、別除権協定が成立しそうなのか、そうでないなら別の方法はないかなどを検討してください。
債務整理に詳しい弁護士に相談することで解決できることは多いです。
数多の債務整理を手掛けた泉総合法律事務所まで、ぜひご相談ください。