借金返済 [公開日]2018年2月9日[更新日]2019年10月25日

借金の貸主(債権者)が死亡・倒産した場合、借金の返済義務は残るか

借金をしていたけれども、貸主(個人)が死亡してしまったり、企業が倒産してしまったりしたら、借金を返済しなくてよくなるのでしょうか?

結論から言うと、貸主である個人が死亡しても、法人が倒産しても、借金は返済しなければならないことに変わりありません。
(個人から借りている場合とは、たとえば友人、知人、恋人、親族から借りているケース、法人から借りている場合とは、たとえば消費者金融やクレジットカード会社、銀行などから借りているケースを言います。)

しかし、個人の貸主が死亡した場合と貸主が倒産した場合では、考え方が多少異なります。

今回は、借金の相手が死亡したり、倒産したりしたときの対処方法について、弁護士が解説します。

1.借金の貸主が死亡した場合(個人)

まず、貸主が個人であった場合に、その個人が「死亡」したら、借金はどうなるのでしょうか?

貸主は、死亡前に、借主に対し「貸金返還請求権」という権利を有し、その権利に基づいて借金返済を要求することができる状態にありました。
そして、貸主が死亡すると、その権利は貸主の相続人へ相続されます。

こうした金銭債権については、相続開始と共に、相続人らに「当然に承継される」と考えられています。相続人が複数いる場合には、それぞれの相続人が「法定相続分」に従って引き継ぎます。

そのため、借主は各法定相続人に対し、それぞれの法定相続分に応じて債務を返済しなければなりません。

このとき、特定の相続人にだけ全額支払っても返済終了というわけにはいきません。

(1) 返済する前にすべきこと

貸主が死亡したとしても、相続人から支払を督促されますし、督促を無視していれば、裁判をされたり財産を差し押さえられたりするおそれも出てきます。

ただ、返済すべき相続人が誰でどれだけ返済すればいいのかが、必ずしも簡単に分かるケースばかりではありません。
そのため、返済前に確認が必要となります。

①法定相続人の確認

民法には、法定相続人の規定がありますが、法定相続人となるべき者は遺された相続人間の関係によって変動するので、誰が本当の権利者なのかを正確に把握する必要があります。

なぜなら、本来の権利者ではない人に支払いをしても、借金を返済したことにはならないからです。

本来の相続人が借金返済を請求してきた場合、拒絶することができないので、結果的に二重払いになってしまうといったリスクも考えられます。
(なお、その場合、初めに間違えて支払った相手に対しては、不等利得返還請求をすることができます。すんなり返してもらえない場合には、裁判をしなければならないこともあります。)

②相続割合の確認

また、相続人の相続割合も重要です。

同じく民法には、法定相続人ごとに相続分の規定もあります。したがって、ある相続人にその相続割合を超えて支払いをしたとしても、過払いになった分は返済したことにならず、別の相続人に改めて支払いをしなければなりません。

つまり、債権者が死亡した場合には、誰がどのような割合で相続しているのかを確認して、それぞれの相続割合に従って借金を返済することが重要なのです。

(2) 相続人が分からない場合

貸主が死亡した場合、誰も請求してこないことや、権利者かどうかが分からない人が請求してきて困ってしまうこともあります。

借主個人にとっては、本当の権利者を調べることは難しいことが多いものです。
そのようなとき、どう対処すればよいのでしょうか?

この場合、「弁済供託」という方法をとることができます。
弁済供託とは、弁済に代えて、お金を法務局に供託する(預ける)ことです。

弁済供託ができるケースは、以下のような場合とされています。

  1. 債権者が受け取りを拒んだ場合(受領拒否)
  2. 債権者が受け取らないことが明白な場合(不受領意思明確)
  3. 債権者が不明で、誰に弁済したらよいのかが分からない場合(債権者不確知)
  4. 債権者が受領できない状態であり、弁済不可能な場合(受領不能)

借金の貸主が死亡したときに相続人が分からないケースでは、通常3の「債権者不確知」に該当するので、弁済供託することができます。

弁済供託をすると、債務の履行を果たしたことになり、債務が消滅します。供託後、新たに利息や遅延損害金が発生することはありません

債務が消滅するので、供託後に債権者(相続人)が借金の支払い請求をしてきたとしても、それに応じる必要はありません。
相続人の方から法務局に対し、還付申請をしてもらいましょう。

【債権者の資格の確認方法】
債権者の資格を確認する方法として、まずは、相続人であることを確認できる書類の提示を求めましょう。被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本を確認して、誰が本当の相続人で、どのくらいの相続割合になっているかをきちんと把握するのです。書類を提出できないようであれば、支払を拒絶すべきです。
戸籍謄本や除籍謄本を提示されたときに、正しい見方がわからない場合は、弁護士などの専門家に相談するのが良いでしょう。

(3) 借金をまとめて支払いたい場合

貸付金の相続人が複数いる場合には、それぞれの相続人に法定相続分ずつ借金返済しなければならないのが原則ですが、現実的には非常に面倒です。債務者の立場からすると、「まとめて1人に支払いたい」というのが本音でしょう。

こういった場合、以下の2つの対応策が考えられます。

①相続人の1人に債権回収を委任

まずは、相続人の1人を代表者として請求してもらう方法が考えられます。
つまり、他の相続人が、代表者の相続人に対し、債権回収を委任するという外形をとるわけです。

相続人がばらばらに借金返済を請求してきたときには、まずは「代表者を決めて、まとめて請求して欲しい」と伝えてみましょう。

ただし、代表者に実際に支払いをするときには、必ず他の相続人からの「委任状」を作成してもらっていることを確認してから支払いをすべきです。

②請求権が特定の相続人に相続されている場合

また、相続人が、「遺産分割協議書」により、自分一人に請求権があることを証明した場合には、その人に借金を全額支払っても大丈夫です。

相続人が「遺産分割協議」において、貸付金を1人に集中する内容の合意をしている場合にも、特定の1人の相続人が貸付金を全額相続するからです。

その場合にも、遺産分割協議書で相続をした人が請求者本人かどうかを確認する必要があります。必ず運転免許証などの提示を求めて本人確認をしましょう。

2.借金の貸主が倒産したケース(法人)

次に、貸主が法人であった場合の対処方法をご説明します。

会社の場合、「倒産」と言ってもさまざまな方法があります。
会社の倒産手続には「私的整理」「民事再生」「会社更生」「特別清算」「破産」があり、それぞれによって効果や意味合いが大きく異なります。

(1) 私的整理、民事再生、会社更生の場合

私的整理や民事再生、会社更生の場合、「倒産」とは言っても、会社はなくなりません。会社の債務を減額して、会社自身は存続することになります。
そのため、会社の債権もそのまま残ります。

つまり、借入先が私的整理や民事再生などの手続をとっても、債務者は従前通りに債務の返済をしなければならないのです。

また、会社更生の手続がとられると、裁判所から選任された「更生管財人」が会社財産を管理するようになり、従来の経営者は退任します。

更生会社の管財人から借金の支払い請求が行われるので、応じる必要があります。約定通りに支払いをしないと裁判を起こされて取り立てをされる可能性もあるので、きちんと対応しましょう。

(2) 特別清算、破産の場合

一方、特別清算や破産の場合には、会社は消滅します。

しかし、どちらのケースであっても、倒産した会社からの借金は当然にはなくなりません。会社からの借入は、従来通りの条件で返済をする必要があります。

破産のケースでは、裁判所から選任された破産管財人が借金の請求をしてくることになり、もし返済をしなければ、裁判をされて取り立てを受ける可能性もあります。

借金の返済方法などを相談したい場合には、破産管財人と交渉することになります。

(3) 自分から借入先に連絡すべきか?

借入先の会社が倒産したとき、「自分から返済を申し出るべきか」という問題があります。

ケースにもよりますが、毎月返済を続けていて、あるとき突然倒産したという話を聞いたときには、まずは、借入先の会社が、上記のうちでどのような手続をとったのかを確認してから以下を参考に対処しましょう。

①私的整理の場合は引き続き返済継続

私的整理の場合などには、返済にまったく影響しないケースも多いので、その場合には引き続き返済を継続する必要があります。

②会社更生、破産の場合は返済方法の話合い

会社更生や破産などで管財人が選任されるケースでは、手続が開始するとともに、通常、管財人から通知が来ます。

そこで、その通知を受けた段階で、借金返済方法についての話合いをするとよいでしょう。

③債権譲渡の場合は譲り受け会社との相談

また、債権譲渡が行われたら、債権譲渡通知が届きます。その後、譲り受け会社から支払いの連絡が来るので、その時点で支払方法についての相談をしましょう。

【債権譲渡について】
債権者自身が債権回収を進めることが煩雑でコストがかかりすぎる場合などには、債権回収業者などの第三者に債権譲渡してしまうケースもあります。
債権譲渡が行われると、債権が譲受人に移転するので、そのあとは譲受人が借金の請求をしてくることになります。
債権譲渡が行われる場合には、必ず譲渡人である元の債権者(破産会社や管財人)から債権譲渡通知書が届きますので、その内容を確認してから、譲り受け会社に支払いをしましょう。
債権譲渡が有効でないのに第三者に支払いをしても、借金返済したことにならず、免責してもらえないので注意が必要です。
参考:「債権譲渡通知書」が届いた!どのように対処すれば良い?

3.まとめ

以上の通り、借金の貸主が死亡したり倒産したりしても、返済義務はなくなりません。

貸主が個人の場合、相続人に支払うか供託する必要がありますし、貸主が法人の場合には、旧来通りもしくは管財人に借金全額を支払う必要があります。

どうしても支払いができない場合には、債務整理によって解決するほかありません。放っておくと訴訟を提起されて取り立てが行われる可能性もありますので、お困りの場合には、お早めに泉総合法律事務所の弁護士までご相談ください。

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