時効の援用を自分でやろうとして失敗してしまったら…
消滅時効を成立させるには「援用」という手続きが必要です。
借金問題の場合、消滅時効の期間が経過した上で、「時効の援用」という手続を経ることで、初めて借金から解放されます。
消滅時効の援用は、一般人が自分で行うことも可能です。
しかし、実際には援用ができない場合や、援用に失敗してしまうケースも多々あります。
果たして、援用に失敗するとどうなるのでしょうか?
また、失敗をした場合、その後はどう借金問題に対応していけば良いのでしょうか?
本記事では、時効の援用の失敗に関して解説していきます。
1.消滅時効の援用の効力
「消滅時効の援用」とは、「消滅時効の期間が経過しているので借金は支払いません」と債権者に主張することです。
これによって消滅時効が成立し、借金の支払い義務もなくなります。
つまり、「消滅時効になる期間が経過するだけ(援用をしない状態)」では、消滅時効は成立していないのです。
援用のやり方は特に決められていませんが、口頭で主張しても、後で「言った、言わない」の水掛け論になるので、「内容証明郵便」というもので時効援用を通知するのが一般的です。
内容証明郵便とは、同じ内容の文書を3通作り、1通を相手方に送り、1通を自分で保存し、そして最後の1通を郵便局が保管するものです。
郵便物を送付した事実と文書の内容が郵便局に保存されるので、後で「送った、届いてない」「言った、言わない」という争いを防ぐことができます。
[参考記事]
消滅時効援用通知書の記載内容・書式・書き方について
2.消滅時効の援用に失敗するケース
では、消滅時効の援用ができない(失敗してしまう)のは、一体どういったケースなのでしょうか。
(1) 時効期間のカウントを間違えた場合
まずは、時効期間が経過してないのに「経過している」と勘違いして援用をしてしまうケースです。
消滅時効までの期間は、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間」または「権利を行使することができる時から10年間」です。
債権者が権利を行使することができることを知った時〜を「主観的起算点」、権利を行使することができる時〜を「客観的起算点」と言います。
このような時効の起算点(「いつ」を基準に消滅時効がスタートするか)を分かっていないことが、カウント間違えの理由として挙げられます。
通常、債権者は、自分の権利を行使できる時点(履行期の到来など)を知っていますから、主観的起算点と客観的起算点は一致するケース多いでしょう。
したがって、多くの場合、5年の消滅時効が適用されると思われます。
消滅時効の期間・起算点については、以下のコラムで詳しく解説しています。
[参考記事]
2020年の民法改正による消滅時効の変更点とは?
なお、借金をしたのが2020年3月31日以前であれば旧法が適用されます。改正前では、通常「客観的起算点から10年」が時効期間です。
(2) 時効の更新があった場合
法律には「時効の更新」というものが定められています(改正前民法における「中断」のことです)。
消滅時効が成立する(援用をする)前に「時効の更新」が行われたら、そこから再び5年待たなければ、消滅時効の期間になりません。
時効が更新される理由には、主に以下のようなものがあります。
①借金の存在を「承認」した
たまに債権者から「利息だけでも払ってください」「今払える分だけ支払ってもらえれば大丈夫です」などと言われる人がいるようですが、それは時効の更新を狙ったものです。
借金の一部分でも支払ってしまうと、時効が更新してしまい、消滅時効が援用できるまでの期間が伸びてしまいます。
これを「承認」といいます。
また、債権者から借金を返済するよう請求を受けて、「今お金がないので、後日払います」「支払期間を伸ばしてください」などと交渉しても、同様に時効の更新が起きてしまいます。
これも借金があると認めることになり、「承認」になってしまうからです。
仮に長い間放置していた借金の支払いを請求されたら、「一度確認してみます」などと言って、その場をかわすなどの対策を講じる必要があります。
②(裁判上の)請求を受けた
消滅時効の進行は債権者からの請求によっても更新します。この場合の「請求」とは「裁判上の請求」である必要があります。
代表的な例は「訴訟」や「支払督促」です。
単なる郵便や電話による請求では時効更新の効果はありません。
また、訴訟を受けても裁判で時効を主張することができるため、「訴訟=更新」というわけではありません。
裁判上の請求を受けた場合は必ず弁護士に相談してください。
仮に連絡もせず放置してしまった場合、借金を認めることになり全面敗訴となってしまいます。
また、貸金業者が「お金を返してほしい」と裁判外で請求することを「催告」と言いますが、催告をしてから6ヶ月間は時効期間を延長することが可能となります。
(催告はあくまでも暫定的な措置なので、時効の更新をするにはその6ヶ月間に、新たに裁判上の請求をするか、支払督促の申立などをする必要があります。)
③差し押さえ、仮差押え、仮処分
「差し押さえ」とは、債務者の財産を取り立てて債権を回収することです。
例えば、給料が差し押さえられると、毎月一定額が自動的に債権者に支払われるようになります。
[参考記事]
借金滞納で給与差し押さえ!解除・回避のために必ず知っておくべき事
これに対して「仮差押え」や「仮処分」は、債務者が財産を隠すのを防ぐ目的で行われます。
仮差押えや仮処分を受けた債務者は、自由に財産を処分できなくなるのです。
これらが行われた場合は時効が更新しますが、もし、差し押さえなどが取り消された場合、時効更新の効果はなかったことになります。
3.時効の援用に失敗してしまった場合
「消滅時効の起算点を間違えたため、まだ5年経過していなかった」
「時効の更新に関する事柄があったので、時効の援用ができなかった」
こういった場合は、消滅時効が成立していないため、借金を支払わなければなりません。
しかし、現実問題として支払えないこともあるでしょう。
何年も借金を放置し続けた結果、利息や遅延損害金が膨らんで、当初よりも支払い額が増えていることがあるからです。
そういった場合は弁護士に相談して「債務整理」を検討してください。
債務整理には「自己破産」「任意整理」「個人再生」など様々なものがありますが、弁護士に相談すれば個別のケースで最適なものを提案してくれますし、債務整理の手続も代理してくれます。
[参考記事]
債務整理とは?わかりやすく解説!|方法・種類・メリット
4.消滅時効の援用は自力で行わず弁護士へ相談を
消滅時効援用通知書は自分で書くことも可能です。
しかし、できれば時効を援用するときにも弁護士に相談して、時効成立に必要な期間を経過しているのかなどを確認しておくと安心です。
弁護士は消滅時効にも詳しいので、援用ができるか・できないかの判断も正確にしてくれます。
[参考記事]
時効の援用のおすすめ依頼先|弁護士・司法書士・法テラス・自分で?
そのうえで、消滅時効の援用ができるなら時効の援用を、できない場合は債務整理を検討するといいでしょう。
借金で困っていることがあれば、お気軽に泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。