借金返済 [公開日]2018年5月10日[更新日]2019年11月29日

医療費による借金で生活が苦しい人の為の公的制度

近年では、高齢者の借金や貧困が注目されるべき問題となっています。

高齢者が借金・貧困に陥る大きな原因として、医療費や介護費用の負担が挙げられます。
厚生労働省の調査によれば、65歳以上の高齢者の5割近くが「病気やケガの自覚症状がある」と認識しているようです。

これらの医療費・介護費用を、貯金の切り崩しで賄っている人は少なくありません。

しかし、平均寿命が80歳を超えるいまの日本では、病気と付き合う期間(医療費・介護費用を負担する期間)も長くなります。

病状などによっては、潤沢だったはずの貯金が医療費でなくなってしまった、ということだって有り得ます。

そこで今回は、高齢者が医療費の負担を軽減するための公的制度や、万が一医療費の工面に行き詰まってしまった場合の対応策(債務整理など)について解説していきます。

なお、老後破産についても以下のコラムで解説しています。

[参考記事]

老後破産の不安も弁護士へ相談を

1.高額な医療費の自己負担を減らす対策

まず、高齢者はもちろん、突然高額な医療費が必要となったときには、負担を軽減できる制度が用意されています。

(1) 医療費控除

一定額以上の医療費を支払ったときには、「確定申告」することで、所得控除を受けることができます。これを「医療費控除」といいます。

控除を受けることができる医療費は、次のとおりです。

  • 納税者が、本人または本人と生計を一にする配偶者やその他の親族のために実際に支払った医療費
  • その年の1月1日から12月31日までに支払った医療費
  • クレジットやローンを利用して決済をした場合には、信販契約成立時の年において、元金のみが控除対象となる(手数料・利息は控除対象外)
  • 未払いの医療費については、翌年以降支払った年の控除対象となる
  • 死亡後に支払った医療費は相続人等(実際に支払った者)の医療費として取り扱われる

所得から控除される医療費の額は、「実際に支払った医療費の年間合計額」から「生命保険や医療保険で支給された金額」+「10万円(所得が200万円以下の場合は所得の5%)」を差し引いた金額となります。

つまり、持ち出しの医療費が年10万円(所得の5%)を超えたときには、医療費控除を受けることができます。

ただし、控除額の上限は200万円とされています(所得税法73条)。

(2) 高額療養費制度

高額療養費制度は、病院の窓口で支払う医療費を一定限度でとどめる(もしくは、窓口で支払った医療費が一定額を超えたときに還付される)制度です。

高額療養費制度を利用するためには、健康保険に加入する必要があります。

適用対象となる医療費は、健康保険が適用される費用と同じです。したがって、差額ベッド代や食事代などは、すべて自己負担となります。

また、高額療養費制度の適用判定は「月ごと」になされます。
たとえば、月末から翌月初めに入院した場合などは、それぞれの月ごとの医療費が基準額に達しない場合もあるので注意が必要です。

高額療養費制度で自己負担すべき医療費の上限は、年齢や収入に応じて決められています。

(3) 高額医療・高額介護合算療養費制度

高齢者世帯にとっては、医療費だけでなく介護費への不安もあります。
たとえば、自身の医療費に加えて、配偶者の介護費の負担が重なるようなことになれば、家計への影響を無視できなくなります。

このような場合には、「高額医療・高額介護合算療養費制度」によって医療費・介護費の負担を軽減できます。

高額医療・高額介護合算療養費制度とは、毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間にかかった医療保険と介護保険の自己負担額が限度額を超えた場合に、その超過分を支給する仕組みです。

上で紹介した高額療養費制度が「月単位」での制度であるのに対し、「高額医療・高額介護合算療養費制度」は「年単位」で負担を軽減する仕組みである点で違いがあります。

高額医療・高額介護合算療養費制度の自己負担限度額は、高額療養費制度と同様に、所得や年齢に応じて設定されます。

高額医療・高額介護合算療養費制度の支給対象となるのは、健康保険が適用される医療費、介護保険が適用される介護費用に限られます。
したがって、入院時の食事負担や差額ベッド代は含まれません。また、高額療養費や高額介護サービス費から支給を受けた分も控除されます。

なお、費用合算は、加入している医療保険ごとになされます。
したがって、同一世帯であっても異なる医療保険に加入しているときには合算できないので注意が必要です。

2.自己負担分の支払いも難しい場合

高額な医療費を負担したときには、ここまで解説してきた制度で負担を軽減することができます。
しかし、ギリギリの生活をしていて貯金にも余裕がない高齢者の方には、医療費や介護費の自己負担分すら支払うことが難しいという人もいるでしょう。

また、現在は何とか自己負担分を支払えていても、今後も支払い続けていけるか心配に感じている人もいると思います。

そのような場合は、以下のものを検討してみてください。

(1) 公的融資を活用する

高齢者の方が医療費の自己負担ができないときには、公的機関の(緊急)融資を活用する方法があります。

公的機関の融資には「生活福祉資金貸付制度」と「年金担保貸付」がありますが、年金担保貸付は様々な問題が指摘されたことで廃止が決定し、令和4年3月末の予定で申込受付を終了することになっています。

[参考記事]

年金担保貸付制度のリスク|自己破産しても免責されない

よって、ここでは「生活福祉資金貸付制度」のみ解説します。

生活福祉資金貸付制度は、低所得世帯、障害者世帯または高齢者世帯に対し、資金の貸付・相談支援によって、安定した生活と経済的自立を図るための制度です。

各都道府県の社会福祉協議会が実施主体となっていて、各市町村の社会福祉協議会が相談・申請の窓口になっています。

生活福祉資金貸付制度にはいくつかの種類があり、厚生労働省ウェブサイトに掲載されています。

なお、融資には審査があり、総合支援金と緊急小口融資の貸付は、自立相談支援事業を利用することが原則として必要です。

(2) 債務整理を行うのも選択肢の1つ

医療費・介護費の負担が重たいときには、銀行カードローン等から借金をしてしまう高齢者も増えています。

そのため、日本弁護士連合会の調査によれば、70歳以上の自己破産者の割合が増えているようです。

高齢者の方でも借金を債務整理で解決することは不可能ではありません。

債務整理をしても、年金の受給・受給資格には一切影響がありません。
また、現在入っている生命保険についても、必ず解約をしなければならないというわけではありません(契約者貸付や介入権行使などによって、自己破産した場合でも生命保険を解約せずに済ませられる場合があります)。

さらに、自宅についても、任意整理や個人再生で解決できるときには、マイホームを処分せずに借金を解決できる可能性があります。

万が一、借金でお困りの場合には、できるだけ早い段階で弁護士に相談することが大切です。

なお、金融機関からの借金のような金銭債務は相続の対象となります。
したがって、借金を残したまま死亡すれば、借金は相続人である子などに引き継がれるのが原則です。

3.苦しい借金生活は一度弁護士にご相談ください

高齢者の方にとって、現在・将来の医療費・介護費負担は、大きな不安材料です。
医療費や介護費の負担を軽減するための公的制度や、緊急の公的融資を上手に利用することは、非常に大切です。

しかしながら、限られた年金生活で入通院が長期にわたれば、家計が破綻をしてしまうケースも実際には少なくありません。

高齢者の方は、若い方よりも借金の問題を1人で抱え込んでしまうことも少なくありません。
万が一、借金でお困りのとき、生活が苦しい時には、できるだけ早く泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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