自己破産者から債権回収はできる?債権者は泣き寝入りなのか?
例えば、あなたが知人や友人に100万円を貸していて、その知人・友人が自己破産をすることになったとします。
この場合、「古くからの仲なのだから、自分から借りた借金くらい優先的に返済してほしい」と思うことでしょう。
しかし、自己破産をした相手に対し、そのような理由で優先的に債権(借金)を回収することはできないのが現状です。
自己破産では破産者の財産から一部弁済が行われますが、この金額は大した金額にならず、ほとんど泣き寝入りのような状態になってしまうでしょう。
今回は、自己破産者からの債権回収(債権者に対する返済の優先順位)について、弁護士が解説していきます。
1.自己破産では「債権者平等」の理念がある
自己破産手続においては、単に申し立てをすると借金が0になるわけではありません。
破産者が一定の価値がある財産を所有している場合、裁判所はそれらをお金に変え(換金)、そのお金を各債権者に配当していきます。そして、それでも残った分の債務を免除してもらうのが、自己破産手続の大まかな内容となります。
さて、自己破産手続は、「債権者の平等」を理念としています。
よって、複数の債権者がいる場合には、すべての債権についてその債権額(借金額)に応じて平等に配当を受けることになります。
故に、例え債務者と親しい友人や親戚・家族であろうとも、それが理由で優先的に返済を受けるということはできないのです。
しかし、破産法は、公平性や一定の政策上の目的を実現するため、破産者に対する債権につきその返済の順番に一部優劣を設けています。
この返済の順番の優劣は、債権回収ができるかどうか?という点で債権者にとって気になると思いますので、事項で詳しく解説します。
2.自己破産手続における返済の優先順位
結論から言うと、破産手続(資産の配当)における返済の優先順位は、以下の順番となります。
- 別除権(破産法2条9号、同法65条1項)
- 財団債権(破産法2条7号、同法151条)
- 優先的破産債権(破産法98条、同法194条1項)
- 一般の破産債権(破産法194条1項)
(1) 別除権
別除権とは、「抵当権」のように、破産者の特定の財産に対する担保権などの優先弁済権のことです。
このような担保権は、破産手続によることなく、担保物につき優先的返済を受けることができます。
たとえば、仮に破産者が唯一800万円の不動産を保有しており、その不動産に対して1,000万円の債権について抵当権が設定されているとします。
この時、不動産を売却して得られる800万円は抵当権を設定した債権者の返済に充てられ、他の債権者は、破産者が高額な財産を保有しているにもかかわらず、一切返済を受けることができないのです。
(2) 財団債権
財団債権とは、破産開始決定後の破産債権者の共同の利益のために生じた債権や一定の政策上の目的を実現するために認められたもので、破産手続によることなく、通常の債権より優先して随時弁済を受けることができる債権のことです。
具体的には、破産の手続に要する費用、破産管財人の報酬、1年以内の税金、破産手続開始前3ヶ月間の破産者の使用人の給料などです。
したがって、たとえば、1年以内の税金を100万円滞納している破産者が、唯一100万円の価値のある別除権のない自動車を保有している場合には、自動車を処分して得た100万円は税金の滞納の解消に充てられるわけです。
また、勤めていた会社が倒産(法人破産)した場合には、直近(破産手続開始前の3ヵ月間)の給料は優先してもらうことができます。
[参考記事]
会社倒産(破産)すると従業員の給料未払い分はどうなるの?
(3) 優先的破産債権
これ以外の債権は「破産債権」といい、破産手続において破産者の財産から返済を受けることになります。
もっとも、そこでも一般の破産債権に優先して返済を受けることのできる債権があり、これを特に「優先的破産債権」といいます。
具体的には、日用品の供給に関する債権のように、破産者の財産に対する一般の先取特権その他一般の優先権が認められる債権です。
また、先の財団債権には含まれない税金や給料についても、同様に優先的破産債権として扱われます。
(4) 一般の破産債権
上記のどれにも当てはまらない債権は「一般の破産債権」となり、平等に扱われます。
冒頭にあった例のように、お金を貸していた知人が自己破産した場合は、その知人がよほど多くの財産(別除権のない不動産や車、高価な物品など)を所有していない限り、 (1)~(3)の債権の返済により配当金は0となり、自分に対しての返済は一切ない可能性があるのです。
3.同じ種類の複数債権における返済の優先順位
このように、破産の手続においては、債権の種類に応じて返済の優先順位が決められています。
それでは、同一種類の複数の債権が存在する場合における返済の優先順位はどのようになっているのでしょうか。
(1) 別除権
別除権は、通常の担保権の順位に従い、順次余剰のあるかぎり返済を受けることになりますから、破産手続との関係から特に優先順位の問題は起きません。
たとえば、800万円の不動産について、被担保債権額600万円の第1順位の抵当権者と、被担保債権額300万円の第2順位の抵当権者がいる場合には、まずは第1順位の抵当権者が600万円全額の返済を受け、第2順位の抵当権者は300万円のうち200万円につき返済を受け、残り100万円は一般の破産債権となるのです。
(2) 財団債権
財団債権は破産手続によることなく弁済期に従い随時返済されます。
この時、全ての財団債権に対して返済できる財産のある場合には、特に優先順位は問題にはなりません。
しかし、全ての財団債権について返済できない場合には、基本的には、その額に応じた平等の返済を受けることになります(破産法152条1項本文)。
要するに、原則、複数の財団債権については平等であり優劣はありません。
ただし、破産管財人の報酬など、破産債権者の共同の利益のために生じた債権や破産の手続費用については、その共益性を重視して、優先して返済を受けることができます(破産法152条2項)。
(3) 優先的破産債権
複数の優先的破産債権相互の優先順位は、民法、商法その他の法律の規定に従うことになります(破産法194条1項、同法98条2項)。
たとえば、優先的破産債権である一般の先取特権の優先順位については(民法329条1項の規定に従い、民法306条各号に掲げる順番となるため)給料と葬儀費用が併存する場合、給料は葬儀費用に優先することになります。
(4) 同一順位の破産債権の優先順位
最終的に同一順位として取り扱われる複数の破産債権は、その額に応じて平等に返済を受けることになります(破産法194条2項)。
4.借金の問題はお早めに泉総合法律事務所へ
以上のとおり、破産手続は債権者平等を原則としているものの、個々の債権に対する返済についてはさまざまな理由から優先順位があります。
通常、自己破産に至っている状況の破産者にはめぼしい財産など皆無ですから、結局、多くの債権者は返済を受けることができず泣き寝入りするしかないことが多いです。
[参考記事]
お金を貸した相手が自己破産したら泣き寝入りしかない?
とはいえ、借金の総額が余計に増える前に自己破産の決断をし、手続きを開始すれば、債権者の負担も少なくなります。
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