会社倒産(破産)すると従業員の給料未払い分はどうなるの?
「勤務先からの給料が遅れたり、支払われなかったりしていた。社長からは待ってくれと言われていたのに、突然会社が倒産(破産)してしまい、結局給料がもらえなかった」という話を、実際耳にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
万が一、自分の会社が倒産してしまった場合、従業員は、「住宅ローンや家賃の支払い、それに生活費をどう工面していけばよいのか?」と、底知れぬ不安に駆られてしまうことでしょう。
また、倒産した会社の社長様は「社員・従業員の給料だけは何とか払いたい」という気持ちになるのではないでしょうか。
ここでは、「会社が倒産した場合に、従業員の給料はどうなるのか?」について説明していきます。
なお、「もしかして自分の会社は倒産寸前なのでは?」と気になっている方は、以下のコラムもご覧ください。
[参考記事]
会社が倒産しそう?予兆やタイミングは事前に分かる?
1.破産時の給料の取り扱い
まず、会社が労働の対価として従業員へ支給するものを、総じて「労働債権」と言います。
給料は、この労働債権の一部です。給料の他に、賞与や退職金もこれに含まれます。
実は、会社が破産しても、この「労働債権」は支払いを受けることができる場合もあります。
ただし、支払いを受けられるのは、労働債権の全額であるとは限りません。
また、支払いを受けるためには、様々な要件が整っていることが必要とされます。
では、どのような場合に、どのくらいの支払いを受けられるのでしょうか。
2.会社に資産が残っている場合
破産する会社に資産が残っていて、その残った資産によって労働債権を支払うことができる場合には、未払い給料を支払ってもらうことができます。
しかし、残った資産額では全額支払うことができない場合には、以下の通り、債権の優先順位によって支払われます。
(1) 破産手続き開始前3ヶ月間の給料
財団債権とは、破産配当に先立って、優先的に弁済を受けることができる債権です。
財団債権は、一番優先的に支払われます。
財団債権には、破産手続き開始決定までに生じた3ヶ月間の労働債権が含まれます。
つまり、破産手続き開始決定の直前3ヶ月間の給料は、会社の資産額の中から優先的に支払ってもらえるのです(給料の全額になるとは限りません)。
この他、財団債権には「破産手続の申立費用」「税金・社会保険料(納期限が近いもの)」が含まれます。
なお、給料支払い日によって財団債権の範囲が異なりますので、詳しくは弁護士にお尋ねください。
(2) 3ヶ月より前の未払い給料
優先的破産債権は、財団債権以外の債権で、破産財団から優先的に弁済を受けることができる債権です。
財団債権には劣りますが、他の債権よりも優先的に支払ってもらえます。
優先的破産債権には、破産手続開始決定の3か月より前の未払い給料が含まれます。
上の図では、水色の部分より前が(2年の消滅時効にかからない範囲で)優先的破産債権となります。
このように、労働債権は財団債権として認められる範囲が優先的に支払われ、優先的破産債権がその次に優先的に支払われます。
財団債権や優先的破産債権について、詳しくは以下のコラムをご覧ください。
[参考記事]
自己破産者から債権回収はできる?債権者は泣き寝入りなのか?
(3) 退職金はいくらもらえる?
これまでは未払い給料についてお話ししましたが、実は、労働債権には給料や退職金、解雇予告手当も含まれ、労働者は給料のみならず、退職金等についても請求できます。
退職金は、大まかには「3か月分の給料相当額」が、まず財団債権として優先的に認められ、それ以外は優先的破産債権として認められることになります。
3.会社に資産が残っていない場合の制度
一方、会社に資産がない場合は、例え財団債権・優先的破産債権であっても、会社が未払い給料を支払うことができません。
しかし、だからと言って従業員が泣き寝入りをする必要はありません。会社以外から未払い給料の支払いをうけることができる制度があります。
未払い給料については、「未払賃金立替払制度」といった救済制度の活用をおすすめします。
(1) 未払賃金立替払制度の活用
未払賃金立替払制度とは、国(実施主体は独立行政法人労働者健康安全機構)が行っている制度で、会社から給料が支払われない場合、会社に代わって給与の一部を支払ってくれる制度です。
立替払の範囲は概ね8割ですが、未払い金額や年齢などでも上限額の定めがあります。
また、未払期間が長期にわたっていた場合でも、対象となるのは退職日からさかのぼって6ヵ月前の分までとなります。
さらに、対象となるのは給与・退職金のみで、解雇予告手当・賞与・経費の立替金などといった、臨時で支給されるものは対象外となります。
(2) 未払賃金立替払制度の要件
未払賃金立替払制度の要件は以下のとおりです。
①使用者側の要件
・1年以上事業活動を行っていたこと
・倒産したこと②労働者側の要件
・破産の日、または事実上の倒産の日の前6ヶ月から2年以内に退職した労働者であること
必ずしも全ての方が未払賃金立替払制度を受けられるわけではないという点にご注意ください。
詳しくは、労働者健康安全機構に問い合わせすることをおすすめします。
神奈川県川崎市中原区木月住吉町1番1号
労働者健康安全機構 医療企画・賃金援護部 審査課内
電話番号:044-431-8663
参考:独立行政法人労働者健康安全機構「未払賃金の立替払事業」
ちなみに、未払賃金の立替制度については、統計をみますと、倒産件数・立替払額は年々減少傾向にあるようです。
平成30年度
・適用企業数:2,134件
・支給者数:23,554人
・立替払額:86億9,584万円令和元年度
・適用企業数:1,991件
・支給者数:23,992人
・立替払額:86億3,779万円令和2年度
・適用企業数:1,791件
・支給者数:23,684人
・立替払額: 84億1,100万円※厚生労働省のホームページ|未払賃金立替払制度の概要と実績から抜粋
4.会社側(社長)の対応
会社に資金がなく、従業員の方への給与が支払えないのは、会社側としては悔やみきれないことだと思います。
しかし、先に述べたように、破産などの法的手続をとり、また、未払賃金の立替払制度を活用することなどによって、従業員の方が給与などの一部を受領できる可能性があります。
そのために、社長・代表取締役としてできることは、労働基準監督署の状況調査へ協力したり、弁護士に依頼の上で早期に破産などの法的手続を行なって会社を整理したりするなどでしょう。
会社が法人破産の申立をしなくても、労基署への申請によって、従業員は未払賃金立替制度を利用することができます。
ただ、会社が法人破産を申立すれば、労基署の認定をとる手間が省けますから簡明で、立替払いの実施も早まります。従業員の利益を考えれば、早めの破産申立が望ましいといえます。
なお、立替払制度や倒産手続によっても支払いきれなかった給与などについては、社長が個人的に支払義務を負担させられることは、原則ありません。
[参考記事]
会社が破産・倒産した場合の社長・代表取締役の責任は?
5.会社破産も泉総合法律事務所へご相談ください
依然として泉総合法律事務所には、会社倒産についての相談が数多く寄せられ、世の中には給与支払いが困難な会社がまだまだたくさん存在していることを痛感させられます。
泉総合法律事務所では、会社破産の取扱実績が豊富にございます。また、社長様の不安が少しでも解消されるように、それぞれの状況に適したアドバイスを差し上げております。
倒産寸前のご相談すなわち会社の経営状態が極めて悪化してしまった状況でのご相談では取り得る対応策も少なくなってしまいます。
従業員への給料の支払いや、資金繰りが厳しい会社の社長様は、是非ともお早めに泉総合法律事務所へご相談ください。