個人再生の「不動産の評価額」とは?家・土地は没収されるか
個人再生は、自己破産のような財産の処分なしで借金を大幅に減額してもらえる債務整理手続きです。
また、「住宅ローン特則」を利用すれば、住宅ローンの残ったマイホームでも手放さずに他の借金を整理できるというメリットがあります。
しかし、住宅ローンの残高によっては、個人再生を利用することが難しい場合があります。
不動産の評価額と住宅ローンの残額によっては、個人再生を申し立てても借金が全く減額されない場合もあるのです。
今回は、個人再生の減額率(返済額)と不動産の評価額との関係について解説します。
1.個人再生の返済額を決める3つの基準
個人再生は、裁判所の認可を受けた「再生計画」に基づいて、借金の一部を3年程度かけて返済する手続きです。
返済計画を無事に遂行すると、残った借金の返済義務が免除されます。
再生計画に基づいて返済すべき額(計画弁済総額)を算出するための基準には、「最低弁済基準額」「清算価値」「法定可処分所得の2年分」の3つの基準があります。
計画弁済総額がこの3つの基準を下回るときには、再生計画は「不認可」となります(民事再生法174条2項4号・231条2項3号4号・241条2項7号)。
(1) 最低弁済基準額
「最低弁済基準額」は、民事再生法231条2項3号および4号に定められている金額です。
返済額は、負債額に応じて異なります。詳細は下の表の通りです。
基準債権額 | 最低弁済基準額 |
---|---|
100万円未満 | 全額 |
100万円~500万円未満 | 100万円 |
500万円~1,500万円未満 | 借金の1/5の額(100万円~300万円) |
1,500万円~3,000万円未満 | 300万円 |
3,000万円~5,000万円 | 借金の1/10の額(300万円~500万円) |
(2) 清算価値
清算価値とは、個人再生を申し立てた債務者が、「自己破産したときの債権者配当の見込み額」のことをいいます。
個人再生による債務(借金)の免除を際限なく認めたのでは、債権者にとってあまりにも酷といえます。
そこで、個人再生では、債務者が「個人再生申し立てのときに仮に破産した場合、債権者に配当可能な金額」以上の返済をする必要があります(清算価値保障の原則)。
この金額(財産価値)のことを、清算価値といいます。
つまり、清算価値以上の金額を返済することで、「自己破産による財産の処分を免れた上で、借金の減額を受けられる」ということです。
清算価値に計上される財産の具体的な例は下記のとおりです。
現金 | 99万円を超える金額 |
---|---|
預貯金 | 20万円を超える金額(全口座の合計)。 ただし、相殺される額は控除される |
貸付金 | 回収可能な金額 |
積立金 | 社内預金・財形貯蓄など |
有価証券 | 時価で計算 |
自動車・バイクなど | 評価額から所有権留保分を控除した額 |
高価な動産 | 貴金属などの20万円を超える価値の財産 |
不動産 | 評価額からローン残額を控除した額 |
その他 | 回収可能な過払い金がある場合など |
(3) 法定可処分所得の2年分
個人再生には、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2つのやり方があります。
[参考記事]
小規模個人再生とは|個人再生手続きの種類を解説
給与所得者等再生においては、上記の最低弁済基準額、清算価値に加え、「民事再生法241条が定める可処分所得の2年分」という弁済基準が追加されます。
可処分所得とは、ご自身の収入から「所得税」「住民税」「社会保険料」を控除し、そこから政令で定める生活費を差し引いた余剰金になります。
ポイントは「政令で定める生活費」であって、実際にかかっている生活費ではないということです。
この法定可処分所得の2年分の金額が最も高額となることが多いため、実際の個人再生のほとんどは小規模個人再生によって申し立てられています。
[参考記事]
個人再生の最低弁済額|月々の支払いはいくらになるの?
2.不動産の評価額と清算価値
不動産を保有している方が個人再生をするときには、その不動産の評価額は非常に重要です。
不動産は、「清算価値」に含まれる財産のなかでも特に高額な財産なので、その評価額によって計画弁済総額が大きく変わることがあるからです。
(1) ローン完済済みの不動産の場合
住宅ローンをすでに完済していて、他にも不動産を担保にしたローンが全くない場合には、不動産の評価額がそのまま清算価値に計上されます。
清算価値の算出のための評価方法としては、不動産業者の査定によることが原則です。
清算価値という仕組みの趣旨にしたがえば「実際に売却(配当)される金額」がベースにされるべきだからです。
実際にも、東京地方裁判所の個人再生では、複数の不動産業者による査定が必要となります。
[参考記事]
個人再生の「清算価値」|マイホームの価値はどう算出する?
(2) オーバーローンの場合
住宅ローンを抱えているときには、住宅ローンの残額が不動産の評価額よりも大きい場合(オーバーローン)と、その逆の場合(アンダーローン)で算出される清算価値が大きく異なります。
オーバーローンであれば、「評価額<ローン残額」という状態なので、個人再生における財産価値は全くありません。
住宅ローンの債権者は、住宅に抵当権を設定しているため、個人再生とは別に抵当権を実行できるからです。これを別除権といいます。
自己破産した場合にも別除権は認められているので、オーバーローンの場合には、不動産の売却金が他の債権者の配当に充てられることはありません。
そのため、オーバーローンの不動産は清算価値に組み入れないのです。
なお、裁判所によっては、「オーバーローンが明白である」ときには、固定資産税評価額による査定でかまわないというところもあります。
オーバーローンのときには、「住宅ローンの返済にも延滞がある」場合や、「住宅ローンの返済が苦しい」場合が少なくありません。
住宅ローン特則付きの個人再生を利用すれば、住宅ローンの残ったマイホームを手放すことなく、他の借金を整理することができます。
また、住宅ローンを延滞している場合でも、住宅ローン特則によって、「競売の停止」や、「失った期限の利益の回復」が可能な場合があります。まずは弁護士にご相談ください。
(3) アンダーローンの場合
住宅ローンの残高よりも不動産の評価額が高い(評価額>ローン残額)ときのことを「アンダーローン」と呼びます。
この場合、「不動産の評価額から住宅ローンの残高を差し引いた金額」を清算価値に計上しなければなりません。
そのため、住宅ローンが完済間近というタイミングで個人再生すれば清算価値が非常に高額になってしまうこともあります。
なお、アンダーローンの不動産を保有している人が自己破産すると、不動産を売却してまずは住宅ローンの返済に充てて、住宅ローン残額を差し引いた残額が他の債権者への配当に充てられることになります。
(4) 清算価値が高額になった場合の対処方
ローンを完済している不動産を保有している場合だけでなく、住宅ローン返済中でもアンダーローンであるときには、個人再生が難しい場合があります。
個人再生には「清算価値保障の原則」があるため、清算価値が高額になれば、「借金の減額を受けられない」ことがあるからです。
たとえば、「負債総額(基準債権額)よりも清算価値の方が高額なケース」であれば、借金は1円も減額されません。
この場合に個人再生を利用すれば、利息のみを免除された借金の全額を原則3年で返済することになります。
しかし、これでは個人再生を申し立てるメリットがありません。
したがって、個人再生を申し立てる際には、事前に清算価値を正しく算出して、他の債務整理を行った場合と比較することが大切です。
なお、不動産の評価額が高いために個人再生が利用できないときには、次のような方法を選択することも考えられます。
- 任意整理で解決する(不動産は残せる)
- 自己破産を申し立てる(不動産は残せない)
- 任意売却で不動産を処分し借金を返済(圧縮)する(不動産の売却が必要)
- 不動産を担保に現在よりも低金利で借り換える(借金が減らない場合もある)
どの方法が最善かは、ケースによって異なります。個人再生の申し立てを検討している方は、早い段階で弁護士に相談することを強くお勧めします。
4.まとめ
個人再生はメリットの大きい手続きですが、その分手続きが複雑です。
特に清算価値の問題は、借金の免除額にも大きな影響を与えます。
個人再生に限らず、債務整理は、負債と財産の状況を適切に把握し、最善の手続きを選択することがとても大切です。
泉総合法律事務所の無料相談では、個人再生をした場合に借金がいくら減るのかを計算した上で、他の整理との比較しながら最善の方法をご提案させていただきます。
借金でお困りのことがある時には、借金問題の実績豊富な弁護士が所属している泉総合法律事務所までどうぞお気軽にご相談ください。