自己破産における破産者の復権とは?
自己破産における「復権」という単語はご存知でしょうか。
復権とは、自己破産することで生じる制限が、免責許可決定の確定(=自己破産手続きの完了)などにより法律上解除され、元の状態に戻ることを意味します。
引っ越し・旅行の制限や資格制限など、自己破産で生じる制約には様々なものがあります。
自己破産をする際に一定期間制限されるそれらの権利は、破産手続の終了や「復権」により制限が解除されるのです。
つまり、復権とは「自己破産からの復活」と考えて良いでしょう。
自己破産における復権は、破産者の法的地位を復活させるための制度で、ほとんどは特別な手続きをすることなく自己破産手続き終了後に復権することが可能です。
しかし、中には別途復権の手続きが必要なケースもあります。
今回は、この自己破産における「復権」について解説します。
1.自己破産による制限・制約
まず、復権により解除できる「自己破産をすると受ける様々な制限」には、どのようなものがあるのでしょうか?
代表的なものを以下で説明します。
(1) 財産管理処分権の喪失
管財事件の際に受ける制限です。
一定以上の財産を持っている場合、財産処分権は破産管財人に移るので、自ら財産を処分する権限が失われます。
これにより、例えば所持している車を勝手に売り払ったり、マイホームの名義を他の家族に移したりすることができなくなります。
(2) 居住・移動の制限
管財事件の場合、破産者の逃亡や財産隠しを防ぐために、免責許可決定まで裁判所の許可を得ずに勝手に住所変更することができません。
また、長期旅行などする場合も、裁判所の許可が必要です。
とはいえ、引っ越しができないというわけではありませんし、長期の外出についても、出張や友人の結婚式などしっかりと理由を述べれば裁判所がこれを不許可にすることはありませんのでご安心ください。
[参考記事]
自己破産後に引っ越しができないという噂は本当?
(3) 通信の秘密の制限
管財事件に限り、破産者に宛てられた郵便物は破産管財人に転送され、中身をチェックされます。これは、申請から漏れている負債や資産がないかどうかを郵便物から確認するためです。
免責決定までの間、郵便物に関するプライバシーは保たれなくなると考えて良いでしょう。
ただし、開封されるのは本人の郵便物のみで、家族の郵便物まで開けられることはありません。
また、宅配便などは対象外です。
(4) 職業についての資格制限
自己破産の申立をすると、資格制限を受ける職業があります。
資格制限を受けるのは、弁護士、弁理士、公認会計士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、宅地建物取引業者、警備員、生命保険の募集人などの職業です。
こうした職業は、復権を得ない限りその仕事に就くことはできません。
「破産者で復権を得ないものは従事ができない」といったことなどが法律で定められているので、休職する・部署異動をするなどの対応が必要になるでしょう。
勘違いされがちですが、一般的な公務員の方はこれまで通り勤務することが可能です。
また、国家資格保持者でも、医師や歯科医師、看護師などの医療従事者は影響ありません。
なお、破産者だからといって、復権後にもなれない職業があるというわけではありませんので、その点はご安心ください。
復権をすれば、どのような職業であっても再就職・再登録が可能です。破産や資格制限が理由で懲役解雇になることもありません。
士業、警備員、生命保険の募集人などの仕事は、復権すれば元通りに仕事をすることは可能です。ただし、復権するまでには半年程度の時間を要するので、顧客離れについても対策をしておかなければなりません。
また、急に事務所を閉めると、一時的にせよそこから悪い噂が広まる可能性もあります。職業柄、自己破産をしたことが外部に分かってしまうことを避けたいという場合は、資格制限のない個人再生や任意整理など、別の方法での解決を検討することもおすすめします。
[参考記事]
自己破産と仕事の関係|制限を受ける職業・資格一覧
(5) 民法上の資格制限
破産者は、復権するまでの間は後見人、後見監督人、保佐人、補助人、遺言執行者などにもなれません。
これは、経済的破綻者に人の財産をゆだねることは適当ではないとされるためです。
この他にも、破産者の制約としては、「破産管財人や債権者の求めに応じて破産に関する説明をする義務」を負ったり、「官報に住所・氏名が掲載」されたりします。
[参考記事]
自己破産のメリット・デメリット|破産後の生活はどうなる?
(6) 引致・監守
管財事件の場合、財産隠しや逃亡を防ぐために必要に応じて身柄が拘束されることもあり、また監視下に置かれることもあります。
しかし、これが実際に行われたことはないようです。
2.復権するには?復権までの期間は?
では、上記のような制限を解除するための「復権」について説明します。
復権には「当然復権」と「申し立てによる復権」の2つがあります。
(1) 当然復権
当然復権とは、何もせず、その事由が発生した場合に自然に復権することを指します。
当然復権の場合は、復権に際して特別に何かする必要はありません。
当然復権するタイミングは以下の4つです。
- 免責許可決定の確定時
- 破産手続同意廃止決定確定時(同意廃止事件の場合)
- 個人再生計画認可決定確定時(免責許可が下りず、個人再生に移行した場合)
- 破産手続開始決定後、詐欺破産罪により有罪判決を受けることなく10年経過後(自己破産失敗後に放置した場合)
自己破産をした場合、通常は免責許可決定が確定した時(自己破産手続きが無事に終了して借金が免除された時)に復権するでしょう。
通常、管財事件の自己破産手続きが終了するのは、申立てをしてからおおよそ4~6ヶ月程度です。
よって、先述の資格制限などは、裁判所への申し立てから数えて4~6ヶ月程度継続するということになります。「復権まで何年もの期間がかかる」ということはないのでご安心ください。
一方、同時廃止事件では、裁判所への申し立てから数えて3~4ヶ月程度で復権するでしょう。
そもそも同時廃止では、居住・移動、通信、職業の制限などは発生しないので、手続中も受ける制約は少なく済むでしょう。
[参考記事]
自己破産の期間の目安|長い?最短は?ケース別に紹介
(2) 申し立てによる復権
申し立てによる復権は、当然復権するのを待たずに、裁判所に「復権してください」と申し出て、復権を果たすことです。
復権するのに時間がかかるのは、前項最後の「自己破産が認められなかった後、何もしないで10年経過を待つケース」です(当然、このように放置をすることは望ましくありません)。
この場合、当然復権する10年の間に以下のことが起これば、10年を待たずに申し立てによる復権も可能です。
- 破産者が借金の完済をする
- 借金の消滅時効が完成する
- 債権者が債務免除して返済義務がなくなった
例えば、最初で言うと、自己破産を申し立てたものの残念ながら免責の許可が下りなかった後に親が死亡し、相続でまとまったお金が手に入り、借金を完済できた場合などがこれに当たります。
こうしたケースでは、破産者が裁判所に申し立てることで破産者でなくなり、復権の決定をもらうことができるのです。
ただし、このような手段で復権を得られるケースは稀であり、通常は再度の自己破産を申し立てるか、個人再生に移行して当然復権を得ることになるでしょう。
3.自己破産者の復権に関するよくある質問
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復権後はクレジットカードを使える?
残念ながら、復権後も一定期間はローン・クレジットカードの利用ができません。
自己破産後は、5~10年は信用情報機関に金融事故情報が登録(ブラックリスト入り)されるので、新たな借入は一切できないことになっています。
この登録は、例え復権があっても抹消されません。復権というと、自己破産で生じるデメリットが全て消滅するようなイメージがあるかと思いますが、復権と借入の可否は全く関係のない話なので、自己破産後にお金は借りられないという前提で生活をする必要があるでしょう。
なお、借金の消滅時効が完成して援用の手続きをすれば、ブラックリストから削除されるだけでなく、申し立てによる復権も可能です。
[参考記事]
信用情報機関とは?|信用情報機関の違い(CIC・JICC・KSC)とブラックリスト
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復権を確認する方法はある?
自分が復権したのかどうかを確認したいという方は多いかと思いますが、残念ながらこれを確認する方法は特別にはありません。
どうしても知りたいという方は、市役所で「身分証明書」を取得すれば、あなたが破産者かどうかを確認できます。
「一、破産宣告の通知を受けていない」などと記載されていれば、復権しているということになります(資格制限がある職業に就く際にも、この身分証明書が必要となります)。
4.自己破産のお悩み・不安は泉総合法律事務所へ相談を
自己破産をすると、一生「破産者」の烙印を押されるのでは?と不安になる方もいらっしゃるかもしれませんが、破産手続きが終わって復権すれば様々な制限も解除されますのでご安心ください。
とはいえ、自己破産をすると実際にどのような制限があるのか、私生活には具体的にどのような影響があるのか、自分の場合はそれが何年続くのかなどの不安や疑問がある方は、一度弁護士に相談してみてください。
泉総合法事務所にご相談いただければ、自己破産を始め、借金問題に詳しい弁護士が責任もってサポートさせていただきます。
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