在留外国人は自己破産できる?
最近は、日本への外国人の流入が増えており、定住者も増加傾向にあります。
また、昔から日本で居住している外国籍の方もいらっしゃるでしょう。
そうした在留外国人の方が借金をしてしまったとき、日本で自己破産をすることは認められるのでしょうか?
また、自己破産をしたことにより、ビザに影響が生じたり、強制帰国させられたりするケースはあるのでしょうか?
以下では、在留外国人の自己破産について解説します。
1.在留外国人の日本での自己破産
在留外国人の日本における破産手続の利用については、破産法3条に規定があります。
破産法3条
外国人又は外国法人は、破産手続、第12章第1節の規定による免責手続(以下「免責手続」という。)及び同章第2節の規定による復権の手続(以下この章において「破産手続など」と総称する。)に関し、日本人又は日本法人と同一の地位を有する。
つまり、外国人や外国籍の企業であっても、破産手続や免責手続については、完全に日本人と同じ扱いを受けるということです。
ただし、破産法4条には、以下のように規定されています。
破産法4条1項(抜粋)
債務者が個人である場合には日本国内に営業所、住所、居所又は財産を有するときに限り、法人その他の社団又は財団である場合には日本国内に営業所、事務所又は財産を有するときに限り、することができる。
換言すると、個人の場合には日本国内に住所や財産があること、外国法人であれば日本国内に営業所や事務所、財産などがあることが必要になります。
つまり、旅行者やホームステイをしている外国人は対象外ですが、日本で暮らしている在留外国人であれば、日本人と変わらず自己破産をすることができるということです。
【自己破産で必要な「住民票」の発行について】
日本人が自己破産をするときには、戸籍謄本や住民票が必要となりますが、外国人の場合、これらをどのようにして用意したら良いのかが問題となります。
まず、在留外国人の場合、戸籍謄本はありません。戸籍は日本人だけに認められるものだからです。
一方、一定の外国人については、日本人と同様に住民票が発行されることになっています。住民票が発行される外国人の要件は以下の通りです。
・中長期の日本滞在者(在留期間が3ヶ月以上)
・入管特例法によって定められる、特別永住権者
・出生または日本国籍を失ってから60日以内の人
これらの要件を満たす方は、日本人と同じように市町村役場に行くと「住民票」を発行してもらうことができるので、それを裁判所に提出して自己破産の手続を進めます。
なお、自己破産をしたことにより、住民票に破産した事実が記載されることはありません。
2.在留外国人が自己破産する際の注意点
日本人(日本の法人)と同じく自己破産が可能と言っても、在留外国人が自己破産する際には注意するべき点があります。
(1) 海外資産も換価と配当の対象になる
在留外国人が自己破産する場合に問題となりやすいのは、海外に有する財産の取扱い方法です。
日本で生まれ育った場合には海外資産がないケースもありますが、移住してきた方などの場合、本国に不動産や車、預貯金、その他の資産を有していることも多いです。
破産手続を利用するときには、破産者名義のすべての財産を換価して、債権者に配当する必要がありますが、外国にある資産もその対象になります。
そこで、外国に資産のある在留外国人が日本で自己破産をすると、本国の財産も換価して債権者へ配当しなければなりません。
しかし、外国の資産をすべて把握することは大変です。日本のように、各種機関に照会したり郵便物の転送を受けたりして、簡単に財産を発見することは難しいためです。
また、海外の預貯金や生命保険を解約するとき、不動産や車を売却しようとするときには、言語の壁がある中で海外の取引相手と交渉する必要があります。
そういった事情により、本国に様々な資産のある在留外国人が自己破産すると、日本人が自己破産した場合よりも長い時間がかかってしまう可能性が高まります。
(2) 外国籍の債権者も申告が必要
外国籍の債権者がいるケースでは、日本の自己破産手続においてもその外国人や外国企業の債権者まで手続きの対象にしなければなりません。
本国で親族などから借金をしている場合「できれば迷惑をかけたくないので、申告をせずに済ませよう」「支払ってしまおう」とする方がいらっしゃいますが、そのようなことをするとそれぞれ、「虚偽の債権者名簿の提出」「偏頗弁済(へんぱべんさい)」という免責不許可事由ですので、免責が受けられない可能性もあります。
なお、外国籍の債権者も、日本の他の債権者と同様に、破産管財人によって破産者の財産から配当を得ることができます。
(3) 日本と本国で自己破産が必要になることがある
すべてのケースではありませんが、在留外国人が日本で自己破産した場合、本国でも破産手続が必要になる可能性があります。
本国の規定で「外国で破産したときには、本国でも破産手続が開始する」と定められていることがあるためです。
なお、本国でも借金している場合などには、本国で債権者から破産申立てされる可能性もあるでしょう。
仮に破産手続が日本と本国で競合した場合には、どちらの手続をどのように進めていくか、調整が必要となります。
3.自己破産による在留資格等への影響
在留外国人の方が自己破産をするときに、最も気にされるのが在留資格の問題です。
自己破産をすると、在留資格が取り消されたり、更新ができなくなったりするのでしょうか?
(1) 強制送還されることはない
まず、自己破産したことによって本国へ強制送還されることを心配される方がいらっしゃいます。
しかし、自己破産によって強制送還されることはありません。
強制送還されるケースは、ほとんどが犯罪を犯したケースです。
たとえば、薬物取締法違反や売春禁止法違反、不法入国やその他の刑事罰を受けて有罪が確定した場合などに送還されます。
単に自己破産したというだけでは、強制送還の理由になりません。また、裁判所などから任意の帰国を促されることもありません。
(2) 永住権などの在留資格も残る
次に、在留資格を取り消されるのではないか、と心配される方も多いです。
この点についても、永住権を持っている方はもちろんのこと、長期や短期の在留資格によって日本に在留している場合でも、その資格はなくなりません。
永住権が取り消されるのは、犯罪を犯した場合や6年以上日本に居住していない場合などであり、自己破産は取消事由になっていません。
しかし、問題になる可能性があるのは、これから永住権を取得しようとしている方のケースです。
永住権を取得するためには、「独立して生計を立てるだけの資産や技能」が必要です。
自己破産するということは、「日本で自活できなかった」ことを意味するので、この要件を満たさなくなってしまう可能性があります。
そのため、自己破産をすると、永住権取得への影響を避けることは難しくなります。
近日中に永住権を取得したいのであれば、永住権を先に取得してから自己破産の申立をした方がよいケースも考えられます。
(3) ビザ更新に影響しない
在留外国人にとって重要なのが、ビザの更新手続です。
自己破産によってビザを取り消されることがなくても、更新されなくなってしまっては結局本国に戻らなければなりません。
ですが、ご安心ください。自己破産によってビザの更新に悪影響がおよぶことはありません。
また、日本で自己破産したことが、本国の政府や関連機関、金融機関などに通知される制度もないので、本国に戻ったとしても基本的に不利益を受けることはないでしょう。
ただし、日本人の配偶者としてビザを取得している場合は、事情が異なります。
配偶者である日本人が自己破産してもビザの更新に影響はありませんが、日本人の配偶者としてビザを得ている外国人本人が自己破産をすると、ビザの更新に多少の影響がおよぶ可能性があります。
この場合でも、自己破産によってビザが取り消されることはありませんが、「生活が不安定で、経過を観察する必要性が高い」と判断されることがあるためです。
通常、日本人の配偶者として日本で居住する場合、在留資格が1年、3年、5年と順番に延長されていくものです。ただ、その途中で自己破産をすると、在留期間を延ばしてもらえずに短期の更新を繰り返され、様子を見られる可能性があります。
ただし、このことによっても在留資格が取り消されることはありません。自己破産後は問題を起こさずに落ち着いて生活をしていれば、だんだんと在留資格が延びていきます。
(4) 本国での自己破産の事実が日本に伝わることはない
在留外国人の方の場合、日本ではなく本国で自己破産することがあります。
すると「本国で自己破産をすると、そのことが日本に伝わって不利益な取扱いを受けるのか」と心配される方もいらっしゃいます。
しかし、日本の裁判所や政府が各国の裁判所や関係機関と連絡を取り合って、自己破産の情報を交換している事実はありません。
本国で自己破産したことが日本の在留資格に影響したり、日本での在留資格取消事由になったりすることはないので、ご安心ください。
4.自己破産に迷う外国人の方も泉総合法律事務所へ
以上のように、在留外国人であっても、基本的には日本人と同じように自己破産することができます。
ただし、海外に不動産などの資産を所有している場合や、海外の債権者が入る場合などには、日本人のケースよりも手続が複雑になり、時間がかかります。
また、永住権申請前なら自己破産のタイミングを考えた方が良いケースがありますし、本国における破産手続との調整が必要になることもあります。
自己破産による不利益を最小限度に抑えてスムーズに進めるためには、専門知識が必須であると言えます。
自己破産についてお悩みの方は、一人で悩まず、専門家である弁護士にご相談ください。