自己破産 [公開日]2021年6月23日[更新日]2021年6月23日

破産における破産財団の放棄

「破産」をすると、税金などを除くほとんどの借金の返済義務がなくなります。過大な債務を負った人にとっては夢のような話でしょう。

しかし、裁判所を介して行う手続きということもあって、その手続きは煩雑で、破産に関係する用語は馴染みのないものが多いです。

ここでは、「破産財団」とその放棄についてピックアップして解説します。

1.破産財団とは?

ここで言う「財団」とは、財団法人ではなく、「財産の集まり」という意味です。
破産財団については、破産法には下の条文があります。

「破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする」(第34条1項)
「この法律において「破産財団」とは、破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するものをいう」(第2条14項)

破産者とは、裁判所に破産の申立てをしてこれから破産する人のことです。
そのため、第34条1項の「破産財団」をわかりやすく表現すれば、「これから破産する人が持っている財産」となります。

そして2条14項にある通り、破産財団を管理または処分する権限は、破産者ではなく破産管財人にあります。

破産管財人とは、裁判所から選任されて破産手続きの実務を行う人です。破産管財人は破産財団に組み入れられた財産を競売するなどしてお金に換え、そのお金を破産者の債権者へ配当します。これが「破産手続」です。

[参考記事]

破産管財人とは?権限・報酬などをわかりやすく解説

2.破産財団の例

破産法の通りに解釈すると、破産者の財産は全て破産財団となるはずです。

しかし実際に破産財団に組み入れられるのは、以下の条件を満たしている財産です。

  • お金に換える価値がある
  • 破産手続開始時の破産者に属している
  • 差し押さえ可能な財産であること
  • その他、自由財産でない財産

(1) お金に換える価値があるもの

現金や有価証券類はもちろん、不動産や自動車など、売却してお金に換えられるものが破産財団に組み入れられます。

その他、解約返戻金のある保険や、売掛金や請負代金請求権などの債権類も、破産財団に組み入られます。

(2) 破産手続開始時点で破産者に属している

破産財団に組み込まれるのは、破産手続開始時に破産者が持っていた財産に限られます。

例えば破産手続開始後に働いて得た賃金や労働債権などは、破産財団に組み入れられません。

反対に、破産手続開始後に新しく獲得した財産は「新得財産」と呼ばれます。

(3) 差し押さえ可能な財産であること

差し押さえできる財産のみが破産財団に組み入れられます。裏を返せば、差し押さえを禁止されている財産は破産財団となりません

例えば以下のような財産は差し押さえが禁止されています。

  • 給料や賞与、退職金の4分の3に該当する部分(給料の手取り額が44万円を超える場合は、33万円のみ差押禁止)
  • 生活必需品(衣服、寝具、台所用具、家具家電類、畳や建具類)
  • 食料や燃料(1ヶ月分程度)
  • 職業に必要なもの(農具や漁具など)
  • 国民年金や厚生年金、健康保険や生活保護給付金など社会保障のために受給する権利

(4) その他、自由財産でない財産

自由財産とは、破産財団に組み込まれない財産のことです。新得財産や差し押さえ禁止財産なども自由財産です。

裁判所の運用などにもよりますが、以下のようなものが自由財産として扱われます。

  • 99万円までの現金
  • 20万円までの預貯金口座の残高(全口座の合計)
  • 単独の評価額が20万円を超えない動産や不動産

その他、破産者の申立てによって自由財産の範囲を広げてもらえることがあります。これを「自由財産の拡張」と言います。

[参考記事]

自由財産とは|自己破産しても財産が残せる!拡張は可能か?

3.破産財団の放棄とは?

破産手続の間に、破産管財人が「この財産は破産財団から外そう」と判断することがあります。この措置を「破産財団からの放棄」と呼びます。

例えば、破産管財人が破産者の不動産を競売にかけて、お金に換えようと考えたとします。しかしその不動産が辺鄙な場所にあるなどすると、買い手が見つからない可能性もあります。

いつまでも買い手がつかないと破産手続きを終わらせることができないため、破産管財人の判断でその不動産を破産財団から除外して、破産手続きを円滑に進めることができるようになっています。

また、破産財団の中には売っても大した金額にならず、むしろ売るための費用の方が高くなる品物があるケースも考えられます。保管費用が高額なものもあるでしょう。

これらの費用は破産財団から賄われますが、破産財団が減ってしまうと債権者への弁済額が減ってしまいます。こういった場合、破産管財人は「割に合わない」と思った財産を破産財団から外して、過大な費用の発生を防ぐことができます。

破産財産から放棄された財産は、競売などの処分を免れて破産者の元に戻ってきます。戻ってきた財産の管理や処分は破産者が行うことになります。

【破産財団から放棄された財産の注意点】
「破産財団から財産が放棄されたから、処分されるはずだったものが戻ってきてラッキーだ」と思う人もいるでしょうが、実際には以下のような問題点があります。
・動産の場合、固定資産税などがかかる:放棄された財産が不動産の場合、破産者は従来通りの固定資産税などを納付する義務を負います。破産をしても税金は帳消しになりません。滞納している税金は継続して督促されますし、不動産を保有している限り毎年固定資産税などが発生することになります。
・破産者の負担が増えることもある:破産財団から放棄された財産に相当する金銭の支払いが破産者に命じられることがあります。

4.破産財団から外してもらう方法はあるか

破産財団に組み入れられなかった財産や、破産財団から放棄された財産は処分を免れるため、財産を守ろうと「破産財団から財産を放棄してもらう方法はない?」「破産財団に財産を組み入れられるのを避ける方法はない?」と考える人もいるはずです。

そういったことは可能なのでしょうか?

結論から言うと、自由財産と認められるなどしない限り、任意の財産を破産財団から放棄してもらうことはできません。

どの財産を破産財団から放棄するかは、破産管財人が裁判所の許可を得て決定します。

また、以下のような方法も避けるべきです。

(1) 財産の価値を減らせば放棄できる?

「お金に換える価値のない財産なら破産財団から放棄されるのでは?」と考えて、財産の価値を故意に減らそうとする人もいるかも知れません。

例えば自動者の処分を免れるために、自動車の一部を壊して査定額を低くする方法が考えられます。

しかし、破産法第252条1項1号には「債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為」が禁止事項として記されています。これに抵触すると自己破産に失敗するおそれがあります。

財産を傷つけて価値を減らすだけでなく、財産を他人名義に変更する、無償または安く譲る、財産を隠して申告しないことなども禁止されています。これをしてしまうと免責がされなくなる可能性が高いので、これらの行為は絶対に行わないでください。

[参考記事]

自己破産で財産隠しは絶対NG|タンス貯金も調査される?!

(2) 破産財団になる財産自体を減らす方法は?

「放棄が難しいなら、はじめから破産財団に組み入れられる財産を減らしておけばいい」と考える人もいるでしょう。

しかし前述の通り、財産を隠したり他人に譲ったりする自己破産に失敗する可能性が高くなります。そういった考えは捨ててください。

【退職金の受け取る時期で破産を考えることは有効】
敢えて1つ方法を挙げれば、退職金を受け取る時期を考えて破産することが考えられます。
破産手続開始決定前に受け取った退職金は、全額が「現金」としてカウントされるため、99万円までしか手元に残すことができません。しかし、退職が間近である場合、退職金の4分の1のみが破産財団に組み入れられます。しかも退職金の4分の1に当たる金額が20万円未満の場合は、破産財団に入りません(つまり80万円未満の退職金であれば、全てが自由財産となります)。
退職金を当面受け取る予定がない場合は、退職金見込額の8分の1のみが破産財団に組み入れられます。その金額が20万円未満の場合は、退職金見込額の全てが自由財産となるため、退職金見込額が160万円未満ならば全額を守ることが可能です。
ただしこの方法も裁判所の運用などによっては使えないことがあります。事前に弁護士と相談して確認が必要です。
参考:自己破産をしたら退職金も差し押さえ・没収される?

5.最もデメリットが少ない債務整理をしたいなら弁護士へ!

破産者の財産は自由財産を除いて破産財団に組み入れられ、債権者への配当に使われます。これを避けるために財産を隠す・壊す・譲るなどすると、厳しいペナルティが待っています。基本的に免責がされなくなってしまいます。

破産財団から財産が放棄されることもありますが、放棄について破産者が関与できることはありません。

財産の処分を始め、破産にはいくつかのデメリットがあります。このできるだけデメリットを減らすためにも、弁護士と相談して自分の事情に合った債務整理を検討してもらいましょう。

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