個人再生 [公開日]2018年2月26日[更新日]2023年5月24日

住宅資金特別条項(住宅ローン特則)の利用要件

「個人再生」には様々なメリットがあります。
借金を大幅に減額した上で3年程度の分割払いにリスケジュールできるだけでなく、自己破産と違って財産を処分する必要は基本的にありません。

そして、マイホームを手放したくない人にとって一番のメリットとなるのが「住宅資金特別条項」という制度があることです。
通称「住宅ローン特則」というこの制度ですが、これを使うことで住宅ローンを支払い中のマイホームを手元に残したまま他の借金を減額することができます。

この記事では、個人再生特有の制度である、住宅資金特別条項について詳しく説明していきます。
多額の借金を抱えて困っている住宅ローン支払中の人はぜひお読みください。

1.住宅資金特別条項(住宅ローン特則)とは?

一般的に、住宅ローン支払中の家には抵当権が設定されています。

債務者がローンの支払いをできなくなった場合、債権者は抵当権を実行するために抵当権を設定した住宅について裁判所に競売の申立てをします。
競売により住宅が別の誰かに買い取られることで、債権者は少しでも多くの債権を回収できます。

債務者が債務整理を行うと、大抵の場合債権者は抵当権を実行します。
そして、競売で住宅が売りに出され、債務者は住む家を失ってしまうでしょう。

さて、個人再生をすると、減額されるとは言え債務の支払いが継続します。
そこで生活の本拠である住宅を失ってしまっては、継続した債務の支払いに支障がでるかもしれません。

何より個人再生には債務者の救済という目的があり、いたずらに生活の本拠を失わせるのは本旨にそぐわない面があります。

そこで「住宅ローンを支払い続けることを条件に、持ち家を処分されないようにする」という制度が設けられました。
これが住宅資金特別条項、通称「住宅ローン特則」の概要です。

2.住宅資金特別条項を利用する要件

「住宅ローンを支払い続けることを条件に、持ち家を処分されない」ことが住宅資金特別条項のポイントです。
しかし、この制度を利用するには、「住宅ローンを支払い続ける」以外の要件も満たさなければなりません。

以下の要件を満たさない場合、個人再生で住宅ローン特則は使えないと考えましょう。

(1) 居住用の住宅である

これは「住むための家」ということです。戸建てかマンションかは問われません。
しかし、例えば事業用の建物や店舗、投資用の不動産などは住宅資金特別条項の対象になりません。

店舗兼住宅の場合は、床面積の2分の1以上が居住用である必要があります。

(2) 個人再生を申立てする本人所有の住宅である

個人再生の申立てをする人を「再生債務者」と言います。
住宅ローン特則の対象となる住宅は、再生債務者本人が所有しているものに限られます。

配偶者などと1つの住宅を共有している場合は、再生債務者の持分に抵当権が設定されていれば住宅資金特別条項を利用できます。

(3) 再生債務者が居住しているか、居住予定の住宅である

対象の住宅には、再生債務者自身が既に住んでいる、あるいは住む予定であることが求められます。
別荘などたまにしか利用しない住宅は、住宅資金特別条項の対象外です。

普段から人が住んでいる場合でも、例えば離婚した元配偶者だけが住んでいる住宅は対象となりません。

一方、単身赴任などで一時的に他人に住宅を貸し、数年後に戻る予定のケースなどであれば、住宅資金特別条項を利用可能です。

(4) 対象となる住宅に抵当権が設定されている

住宅ローンの抵当権が設定されていない住宅には住宅資金特別条項が適用されません。

通常の抵当権であれば問題ありませんが、抵当権の一種に「根抵当権」というものがあります。

根抵当権の場合は、根抵当権で担保される債権が住宅ローンのみであれば、問題なく住宅資金特別条項が適用されます。

(「リバースモーゲージ」を契約した際には根抵当権が設定されることが多いですが、一般の住宅ローンの借入として設定されることはほとんどないでしょう。)

(5) 借り入れが「住宅ローン」である

借りたお金が住宅の取得などを目的とする、いわゆる「住宅ローン」である必要があります。

なお、リフォームローンのように住宅の取得ではなく改良などを目的とした借り入れは、抵当権が設定されているのであれば住宅ローン特則の対象となる可能性があります。

借り入れが住宅ローンであるかどうかは、最終的には裁判所が判断しますが、予め弁護士に相談して、どういった判断が下される見込みなのかを聞いておくことをおすすめします。

(6) 対象の住宅に住宅ローン以外の抵当権がない

抵当権は1つの住宅に複数設定することができます。
例えば住宅を購入するときに住宅ローンの抵当権を設定した後、住宅を担保にして事業用資金を借り入れるときに抵当権が設定されることがあります。

住宅資金特別条項で住宅ローンの抵当権を実行できないようにしても、他の債権者が抵当権を実行すれば、再生債務者は結果的に住宅を失ってしまいます。

そのため住宅ローン以外の抵当権が住宅に設定されている場合は、住宅資金特別条項を利用できないことになっています。

(7) 税金などの滞納で対象の住宅が差し押さえされていない

税金などの公租公課を支払っておらず、住宅に差押登記がされている場合は、住宅資金特別条項は原則的に利用できません。

住宅ローンに関する抵当権が実行されなくても、税金を回収するために差し押さえが実行されれば、やはり再生債務者が家を失ってしまうからです。

例外的に、滞納した公租公課の支払方法について徴税側と話し合い、分割払いなどの合意を既に取り付けていて、なおかつ実際に納付できそうな見込みがあれば、住宅資金特別条項を利用できる可能性があります。

(8) 保証会社による代位弁済から6ヶ月以上経っていない

住宅ローンを滞納すると、保証会社が債務者の代わりに住宅ローンの支払いを行います。
これを「代位弁済」と言い、以後は保証会社が新しい債権者となって取り立てを実施します。

[参考記事]

代位弁済をされたら弁護士に相談を!|住宅ローン・カードローン

代位弁済から6ヶ月経つと住宅資金特別条項が使えません(6ヶ月以内なら、「住宅ローンの巻き戻し」が可能です)。
早めに個人再生の手続きをしましょう。

[参考記事]

住宅ローンの巻き戻しとは?|個人再生

3.個人再生後の住宅ローンの支払い条件

住宅資金特別条項は、基本的に「従来通り住宅ローンを支払うことで住宅を残せる」制度です。
しかし、債権者と事前協議することで、支払い条件を変えられる可能性があります。

(1) 約定型(そのまま型)

個人再生後も、住宅ローンの契約内容通りに支払いを続ける方法です。
基本的にはこの方法が原則であり、約定型にする場合は特に事前協議は必要ありません。

ただし、個人再生の再生計画案が認可されるまでの間に住宅ローンの滞納がある場合は、基本的にこの約定型は利用できません。

(2) 期限の利益回復型

滞納の回数が契約に定めた回数を超えてしまうと、分割払いができなくなり一括払いを求められます。
分割払いができなくなることを「期限の利益の喪失」と呼びます。

しかし、債権者と事前協議をすることで、再生計画で定めた期間内に滞納額(元本・利息・損害金)と約定の債務(当初の住宅ローンの内容での支払)を弁済することで、一括払いになってしまった住宅ローンを再び分割払いに戻すことができます。

これを期限の利益回復型と呼びます。

(3) 弁済期間延長型

「リスケジュール型」とも呼ばれ、利息・損害金を含めた住宅ローンの全額を弁済することを前提に支払期限を延長するもので、期限の利益回復型では再生計画が認可されない見込みの場合に選ばれます。

このタイプを選択すれば、支払期間を最大で10年まで延長できます。

ただし、支払いが終わる時の再生債務者の年齢が70歳を超えるようなリスケジュールはできません。

(4) 元本猶予期間併用型

弁済期間延長型に加えて、さらに一定期間返済額を減額してもらう方法です。再生計画期間内(3~5年)において、元本の一部の弁済猶予を受けることができます。

期限の利益回復型や弁済期間延長型では再生計画認可を得られない場合に使われます。

(5) 合意型

上記のいずれとも違う条件で合意をするものです。

支払終了が70歳を超える返済期間を設定したり、返済額の減額をしたりします。

4.個人再生の住宅資金特別条項に関するよくある質問

  • 住宅資金特別条項が使えないケースは?

    住宅資金特別条項を利用するには、以下の要件を満たさなければなりません。
    逆に言えば、以下に該当しない場合は住宅資金特別条項が使えないとされることが多いでしょう。

    • 個人再生手続き後も住宅ローンを支払い続けることができる
    • 居住用の住宅である
    • 個人再生を申立てする本人所有の住宅である
    • 再生債務者が居住しているか、居住予定の住宅である
    • 対象となる住宅に抵当権が設定されている
    • 借り入れが「住宅ローン」である
    • 対象の住宅に住宅ローン以外の抵当権がない
    • 税金などの滞納で対象の住宅が差し押さえされていない
    • 保証会社による代位弁済から6ヶ月以上経っていない
  • アンダーローンの場合は個人再生できないの?

    個人再生では「清算価値保障の原則」があり、「個人再生のときに破産すれば債権者に配当されるであろう金額」は最低限返済をしなければなりません。
    ここで、手元に残す住宅ローンの価値(資産価値)も問題になります。

    つまり、残債務がマイホームの資産価値よりも少ないケース(アンダーローン)のときには、清算価値が跳ね上がり、個人再生自体が難しい・減額後の返済額が大きくなるというリスクがあります。
    (アンダーローンのケースでは「査定額からローン残債務を差し引いた額」が計上されます。)

    しかし、個人再生が利用されるケースでは、「オーバーローンが明らか」なケースがほとんどですので、過度な心配は要りません。
    もちろん、債務整理が得意な弁護士は、マイホームの資産価値についても加味した上で最適な債務整理方法を提案してくれます。

    [参考記事]

    個人再生の「清算価値」|マイホームの価値はどう算出する?

5.住宅資金特別条項付きの個人再生は弁護士へ

個人再生には小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類がありますし、ここに住宅資金特別条項が関わってくると手続きはさらに複雑になります。

住宅資金特別条項を利用するときは債権者との事前協議も必要であり、個人が自力で対応するのは難しいでしょう。

個人再生は弁護士に任せるのが確実かつ安心です。
裁判所での手続きも、債権者との交渉や合意書の作成も、弁護士なら滞りなく行ってくれます。

個人再生をしようと思ったら、泉総合法律事務所の弁護士までご相談ください。
当事務所には、住宅資金特別条項を使い住宅を守った事例が多くあります。

個人再生の解決事例

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