個人再生における共益債権とは?
返済できない借金を抱えても、個人再生手続で返済額を大幅に減らすことができます。
もっとも、あらゆる債務を減額できるわけではなく、個人再生でも減額できない借金があり、その一つが「共益債権」です。
この記事では、共益債権の概要や具体例を紹介していきます。
1.民事再生法における債権の区分種類
個人再生手続によって多数の債権者の権利内容に法的な影響が及びますが、各債権者が有している債権の性質・内容には様々なものがあり、すべてを同じに扱うわけにはいきません。
そこで民事再生法では、債権をいくつかの種類に区分したうえで、区分の異なる債権の取扱いには差異を設ける一方、区分を同じくする債権は平等に取扱うこととしているのです。
この観点から、民事再生法では以下の債権が区分されています。
- 再生債権
- 一般優先債権
- 共益債権
(なお、この他に「開始後債権」という区分もありますが、知識としての重要性は低いのでこの記事では触れません)
再生債権とは、個人再生手続開始「前」の法的な原因に基づいて発生していた債権で、後述の「一般優先債権」や「共益債権」に該当しないものであり、個人再生手続内で処理される対象となる債権です(84条1項)。
例えば多くの個人再生のケースでは、支払不能の原因となったクレジットカードで作った借金や、銀行または貸金業者などからの借入金、事業をしている人の買掛金などが該当するでしょう。
これらは、債権者の平等を確保するために、個人再生手続外で個別に弁済することや強制執行は禁止され、再生計画の認可によって減額されたうえ、原則3年間の分割弁済をすることになります(85条1項)。
ただし、再生債権なのに減額されない債権もあります。これを「非減免債権」と言います。いずれも債務者の経済的更生よりも債権者の保護を優先するべきで、減額免除が不適当とされるものです。
非減免債権には、次の3つがあります(229条3項)。
(ⅰ)債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
(ⅱ)債務者が故意または重大な過失で人の生命又は身体に加えた損害の賠償請求権
(ⅲ)婚姻費用、養育費、扶養義務など親族関係に基づく金銭請求権
非減免債権は、再生債権として裁判所に届出を行いますが、減額はされません。
非減免債権のうち、内容に問題がない債権(債務者及び債権者からの異議がない債権や裁判所の査定によって評価済の債権)については、分割弁済期間内は他の再生債権と同一の減免割合にしたがった分割弁済をさせ、分割弁済期間が終了した段階で残余の非減免債権を一括弁済することとされています(232条4項)。
他方、これ以外の非減免債権は、分割弁済期間内の弁済は認められず、分割弁済期間後に一括弁済しなくてはなりません(232条5項)。
次に一般優先債権ですが、債権の中には、もともと個人再生手続以前に他の債権よりも優先的して回収することを法が認めているものがあります。
例えば、租税債権は国家と地方自治体の存立基盤であり、国民・住民から平等かつ確実に徴収する高度の必要性があるので、優先権が与えられています(国税徴収法8条、地方税法14条)。
同様の趣旨から、健康保険料、年金保険料、労働保険料にも優先権があります(健康保険法82条、年金保険法88条、国民年金法98条、労働保険の保険料の徴収等に関する法律29条)。
このような優先権を認めた趣旨は、個人再生手続においても尊重されなくてはなりません。
そこで個人再生では、これらを一般優先債権という区分とし、手続外で随時支払うべきものとされています。もちろん、減額や分割払いとなることはありません(122条)。
一般優先債権とされるものには、他にも、①最近6ヶ月間の日用品の費用(光熱費など)、②葬儀費用、③雇用に関する費用(債務者が雇傭する従業員の給与など)などがあります(民法306条~310条)。①②は、債権者を保護することを通じて債務者が社会生活に支障を来さないように配慮したものです。③は端的に労働者保護を目的とします。
2.共益債権
債務者の債務負担が債権者全体の利益に役立つものであるならば、個人再生手続によらず、他の債権に優先して随時弁済することを認めても構わないはずですし、他の債権と同様の減額免除は受けないとしても公平には反しません。
これが共益債権という区分です(119条、121条)。
(1) 共益債権の具体例
再生手続に必要な費用(119条1号)
個人再生手続が行われることによって、債権者らは、債務者が自己破産してしまった場合に予想される配当金以上の金額を回収するという利益を得ますから、個人再生手続に要する費用は債権者全体の利益となるものと言え、共益債権に区分されます。
債権者が個人再生を申し立てた場合の申立手数料、個人再生委員への報酬、弁護士報酬、財産の保全手続の費用など、再生手続の遂行上、裁判所が行う活動に必要なものであればこれに含まれます。
個人再生開始後に発生した水道光熱費や家賃など(119条2号)
個人再生は債務者に分割弁済をさせる制度ですから、債務者の生活を破綻させずに、きちんと働いて収入を得てもらうことが必要です。
そこで、その生活に必要な債務で、個人再生手続の開始決定「後」に生じたものは共益債権に区分され、手続外でその都度支払う必要があります。
なお、個人再生開始決定「前」に発生した債務でも、生活に必要な光熱費などは、最近の6ヶ月分は一般優先債権に当たるので、やはり手続外で随時支払うことが可能です。
再生債務者の事業に必要な費用(119条2号)
個人再生では、債務者に仕事を続けてもらって分割弁済をしてもらいます。
そこで例えば、債務者が個人商店などの事業で収入をあげている場合には、個人再生手続の開始決定「後」に、その事業のために店舗や工場の家賃を負担したり、商品や製品の原料を仕入れたり、事業資金を借り入れたり、従業員の給与を負担したりして債務を負担したとしても、それは分割弁済を行うに必要なものであって、債権者らの共同の利益となる債務と言えます。
このため、これら再生手続開始決定後の業務に関する費用は、共益債権に区分されます。
また、事業継続のための原材料購入や資金借り入れが個人再生開始決定「前」であっても、裁判所の許可等があれば共益債権として取り扱うことが許されます(120条)。
開始決定前であっても、債権者共同の利益と認められる場合はあるので、柔軟に対応しているのです。
別除権協定が認められた場合の弁済金
例えば、事業に必要な自動車の所有権が販売会社に留保されている場合のように、財産に付された担保権を実行されてしまうと事業を継続できなくなるというケースがあります。
もちろん、その債務を弁済できれば良いわけで、そのための制度(担保権消滅許可制度・148条)もありますが、担保価値に見合う相当な金額を用意しなくてはならない難点があります。
そこで、裁判所の許可を得た上で、担保権者との間で、再生計画の分割弁済とは別個に、一定額の分割支払いをする代わりに担保権の実行を待ってもらう合意をする場合があります(41条1項9号)。この協定を「別除権協定」と言います。
別除権協定は事業の継続に役立つものとして許可されるのですから、別除権協定が認められた場合に支払われる弁済金は、債権者全体の利益となるものとして、共益債権に区分されます。
[参考記事]
破産における別除権をわかりやすく解説
個人再生開始決定「後」の養育費
子どもの養育費は、通常、離婚時の合意等に基づいて、毎月一定額の支払義務が発生します。
個人再生手続の開始決定「後」に発生する月々の養育費は、債務者の生活に必要な負債として共益債権に区分され、手続外で毎月の支払をすることになります。もちろん、再生計画による減額の対象ではありません(119条2号)。
養育費は、実質的な債権者である子どもを保護するべき要請から、共益債権に区分されているのです。
他方、同じ養育費でも、個人再生開始決定「前」から滞納していた部分は共益債権には区分されず、再生債権に区分されます。
ただし、前述したとおり、再生債権ではあるものの減額されない「非減免債権」という扱いになります(229条3項3号ハ)。
【具体例】
例えば養育費が毎月5万円で、個人再生開始決定前に1年分、60万円を滞納していたとします。
再生債権を5分の1に減額して3年間分割払する再生計画が認可された場合、滞納養育費も、60万円の5分の1である12万円を3年(36ヶ月)かけて、毎月3333円ずつ分割返済します。
3年間の分割返済期間が終了したら、滞納養育費の残債務(60万円から12万円を引いた48万円)を一括返済することになります。
また、これも前述のとおり、個人再生手続の開始決定「後」の毎月の養育費5万円は共益債権ですから、3年間の間も支払い続けなくてはなりません。つまり養育費に関して言えば、結局、返済総額は変わらないのです。
3.共益債権を滞納しているとどうなる?
共益債権は再生手続中でも随時支払う必要があるため、債権者から当然のように督促が来ます。
督促を無視して支払わないと、一体どうなってしまうのでしょうか?
(1) 電気・ガス・水道を止められる
水道光熱費を滞納した場合を紹介します。
個人再生開始決定「前」の最近6ヶ月よりも前に滞納していた水道光熱費は再生債権ですから、再生計画認可後に減額した分割金を支払います。
個人再生開始決定「前」の最近6か月の滞納分は、一般優先債権ですから、随時、弁済する義務があります。
水道光熱費のような継続的な供給契約においては、個人再生開始決定「前」の料金滞納を理由として供給を拒否することはできないと定められています(50条1項)。
一方、個人再生申立「後」、開始決定「前」に供給した水道光熱費の料金は、本来再生債権のはずのところ、例外的にこれを共益債権と扱うことにして、供給側の利益にも配慮してバランスを図っています(同条2項)。
さらに、個人再生開始決定「後」に供給した水道光熱費の料金は、当然に共益債権です。
したがって、これらの支払を怠れば、供給を拒否される危険があります。
(2) 賃貸借契約が解除されるおそれ
個人再生開始決定「後」に発生した自宅、工場、店舗などの賃料は共益債権ですから、個人再生手続外で随時支払をしなくてはなりません。
長期間滞納すると、債務不履行によって賃貸借契約を解除され、強制的に退去させられるおそれがあります。
個人再生開始決定「前」に滞納した家賃については、これを再生債権と理解する通説的な考え方と、民事再生法49条1項及び4項を適用して共益債権と理解する有力な考え方(※)に分かれます。
※伊藤眞「破産法・民事再生法(第3版)」有斐閣・876頁、362頁
前者とすれば再生計画にしたがって減額された金額を分割弁済することになり、後者とすれば再生手続外で全額を支払うことになります。
ただ、前者であっても、支払うべき金額は減額されているものの、賃貸借契約どおりの賃料支払をしていない事実まで消え去るわけではないので、契約違反を理由に契約を解除される危険があります。
(3) 強制執行される
個人再生の手続中は再生債権による差押えなどの強制執行を受けませんが、共益債権については別です。
再生債務者が共益債権の支払いを滞納した場合、共益債権の債権者は強制執行をして、再生債務者の財産を差し押さえすることができます。
ただし、その強制執行が債務者の再生に大きな悪影響を及ぼし、しかも再生債務者が換価の容易な財産を持っているときは、裁判所が強制執行の中止や取り消しを命じることができます(121条3項)。
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以上のように、個人再生においては、再生計画で認められた分割金だけを支払えば良いというわけにはいかないのです。
一般優先債権・共益債権といった、手続外で支払い続けるべき債務があることを前提として再生計画を立てないと、再生計画が認可される可能性も低いでしょうし、万一計画が認可されても、計画通りの支払ができず個人再生に失敗する危険性が高いです。
このため、一般の方が自分の考えだけに基づいて個人再生手続を行うことは、絶対にお勧めできません。
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