個人再生に通らない(失敗する)場合の対処法
個人再生は、借金を減額するために有用な手続きです。
裁判所に申立てをして行いますので手続きは複雑ですが、個人再生に成功すれば借金が平均して5分の1〜最大で10分の1まで圧縮されます。
減額を受けた後は、残った借金を原則3年程度かけて返済していきます。
債務者にとってメリットが非常に大きい制度ですが、残念ながら個人再生に通らない(失敗してしまう)ケースも少なくありません。
では、どういったケースだと個人再生に通らないのでしょうか?
また、通らない場合の対処方法にはどのようなものがあるのでしょうか?
1.個人再生に通らないケース
まずは個人再生に通らないケースをご紹介します。
「通らない」と言っても2つのパターンがあります。
1つは「申立てをしたのに裁判所に手続きを始めてもらえない場合」です。「申立てが認められない(棄却される)」と言い換えることもできます。
もう1つは「申立てが認められて手続きが始まったのに、途中で廃止(中止)される場合」です。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
(1) 裁判所に申立てが認められないケース
まずは申立てが認めらない場合をご紹介します。いわゆる「門前払い」のケースです。
負債総額が5,000万円を超える
個人再生を利用できるのは負債総額が5,000万円までの人です。この5,000万円には元本だけでなく、利息や遅延損害金なども含みます。
ただし、後に説明する住宅ローン特則を利用する場合は、住宅ローンの残額を除いた債務額がカウントされます。
また、滞納中の税金や国民健康保険料など公租公課に分類されるものも、5,000万円のカウントから除外されます。
この5,000万円について判断されるタイミングは、「個人再生の手続を開始するかどうかを裁判所が判断する時点」と、「再生計画を認可するかを裁判所が判断する時点」の2回です。
ただし判断されるのは、あくまでも「再生手続開始決定時に債務総額が5,000万円を超えていたかどうか」です。
もし再生手続が始まった後に利息のせいで5,000万円を超えてしまった場合でも、手続き開始時に総債務額が5,000万円を超えていなければ、手続きは問題なく続行されます。
再生手続が始まった後で精査した結果、債務総額が当初から5,000万円を超えていたことが判明するケースがあります。そういった事態を想定して、判断のタイミングが2回設定されているのです。
住宅ローン特則を希望したが要件を満たしていない
住宅ローン特則とは、個人再生を希望する債務者に住宅ローン債務がある場合に使える制度です。
住宅ローンがある状態で債務整理をすると、住宅に設定された抵当権を実行されて、住宅が競売にかけられるのが通常の流れです。
しかし住宅ローン特則を利用すると、住宅ローンの支払いを続けることを条件に抵当権の実行を阻止できます。
[参考記事]
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)の利用要件
住宅ローン特則(正式には「住宅資金特別条項」)は、利用するにはいくつかの条件を満たさなければなりません。
もし条件を満たしていないならば、申立ては棄却されてしまうでしょう。
書類に不備がある
当然ですが、書類に不備や不足があると個人再生の申立てを受け付けてもらえません。正確な書類を用意しましょう。
予納金が払えない
ここで言う「予納金」とは、個人再生委員への人件費です。
個人再生委員とは、裁判所がその地域の弁護士から選任する人のことです。個人再生に必要な手続きを行います。
個人再生委員の人件費については、個人再生の申立人に支払う義務があります。
例えば東京地裁の場合、以下の費用が発生します。
- 弁護士に依頼している場合:原則15万円~
- 弁護士に依頼していない場合:原則25万円~
※あくまで原則の金額です。ケースによって金額が変動することにご注意ください。
弁護士がいると金額が安くなるのは、弁護士が個人再生委員の仕事の一部を肩代わりするため、個人再生委員の仕事が少なくなるからです。
[参考記事]
個人再生委員とは?|つく場合とつかない場合の違い
(2) 申立てが認められても手続きの途中で廃止されるケース
無事に申立てが認められて、再生手続開始決定がなされたとします。
一安心と思いたいところですが、一定の事由があると手続きが途中で廃止されてしまいます。
廃止されるケースは主に以下の2つです。
債権者から反対される(小規模個人再生のみ)
個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2つの手続きがあり、申立人はどちらかを選択して申立てすることができます。
このうち小規模個人再生は、以下のどちらかに該当すると手続きが廃止されてしまいます。
- 債権者の過半数が個人再生に反対している
- 個人再生に反対している債権者の保有する債権額が、申立人の総債務額の過半数
注意すべきは2つ目の項目です。反対する債権者の数が1人だけであっても、その債権者の持つ債権額が総債権額の大半を占めている場合は、個人再生に失敗してしまいます。
[参考記事]
小規模個人再生とは|個人再生手続きの種類を解説
「返済能力がない」と裁判所に判断される
個人再生の目的は、申立人が提出した「再生計画案」を裁判所に認めてもらうことです。
再生計画案とは、平たく言えば個人再生後の借金返済計画案です。
申立人の収入と支出に見合った返済計画を裁判所に提示し、裁判所が「この計画は現実的に実行できそうだ」と判断すれば、再生計画案の認可を受けられて、個人再生は成功します。
反対に、裁判所が「申立人の返済能力などを考慮すると、この計画案には無理がある」と判断した場合、個人再生は失敗に終わります。
[参考記事]
再生計画案とは|記載例や提出後について解説
2.個人再生に通らない場合の対処法
個人再生に通らないときは、以下の方法で対処してください。
(1) 書類を精査して再提出する
申立てをしても再生手続開始決定を受けらない場合は、書類を修正するなどして再提出する必要があります。
法的手続きに慣れていない一般の方が書類の準備を行うと、書類の作成にどうしても手間と時間がかかってしまい、再提出、再々提出などの憂き目を見ることになりかねません。
これではいつまで経っても個人再生が進まず、借金問題が解決できないことになります。
弁護士に依頼して書類を用意してもらい、不備や不足のない状態で申立てをするのが最良の方法です。
また、手続きの途中で不備や不足が発覚することもないわけではありません。
指摘を受けたらすぐに補正するなどの対応をして、再提出しましょう。この点も弁護士に任せれば安心です。
特に注意が必要なのは再生計画案です。
弁護士とよく相談して、現実的に実現できる再生計画案を作ってください。
(2) 給与所得者等再生を利用する
債権者が反対する見込みが高い場合は、小規模個人再生でなく給与所得者等再生を選択した方が良いかもしれません。
ただし、給与所得者等再生を選ぶと、個人再生後の返済額が高くなる可能性があります。
返済額が高くなった結果、自身の返済能力を超えてしまっては意味がありません。再生計画案の認可を受けられないからです。
事前に弁護士と相談して綿密にシミュレーションなどをしながら、どうするべきかを選択してください。
(3) 他の債務整理に切り替える
個人再生に通らない、または通りそうにない場合は、個人再生以外の方法を検討してみましょう。
例えば自己破産をすれば、借金は帳消しになります。
住宅や自動車などの高額な財産が裁判所によって処分されますが、自己破産は申立人の返済能力を問われないため、無収入でも利用できるというメリットがあります。
また、任意整理に切り替えるという手もあります。
任意整理は、裁判所を通さずに債権者と債務者の交渉で行います。裁判所に納める費用が発生しないため、低額で行えるのがメリットです。
ただし、減額効果は限定的なので、債務額が過大な場合は焼け石に水となってしまいます。
弁護士に相談して、最適な方法を選んでもらいましょう。
[参考記事]
債務整理とは?わかりやすく解説!|方法・種類・メリット
3.個人再生に失敗しないためにも最初から弁護士へ相談を
個人再生の手続きは非常に複雑で、個人が自力で行うと失敗する可能性が非常に高いです。
裁判所も弁護士への依頼を前提として個人再生の制度を運用している部分があります。
個人再生のことは、弁護士にお任せください。
そもそも本当に個人再生で借金を解決できそうなのか、他の方法で解決した方が効果的なのかなども含めて、弁護士にご相談ください。
弁護士は借金解決の専門家です。最適な方法をご提案し、書類の準備から手続きの終了までしっかりとサポートいたします。