家賃滞納で「夜逃げ」は可能?どうしても支払えない場合の正しい対応
「家賃を何か月分も滞納してしまい、どうしても支払えないから夜逃げして踏み倒せないか?」と考えている方はいらっしゃいませんか?
確かに、家から逃げればしばらくは取り立てがなくなるかもしれません。
しかし、いつまでも逃げ続けるのは現実的ではありません。また、そのまま家賃債権の時効を狙っても、時効を成立させるのは非常に大変です。
それよりは、きちんと大家さんと話し合ったり、債務整理を行って借金を減額させたりするなどの適正な方法で解決しましょう。
今回は、家賃滞納をしたときに夜逃げや踏み倒しをすることの困難性・リスク、また、その他の適切な解決方法について、弁護士が解説します。
1.家賃滞納後の簡単な流れ
家賃を支払わず、3か月分、4か月分と溜まってきたら、総額数十万円やそれ以上の金額になるケースも多数です。
大家さんや管理会社からは毎日のように支払いを求められ、最終的には内容証明郵便で一括請求書が届き、訴訟を起こされるケースもあります。
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しかし、ここまできても「とても払えないからどうすることもできない」と感じるケースも多いでしょう。
そんなとき、「夜逃げ」をすれば取り立てから逃れられるのでしょうか?
2.滞納家賃を夜逃げによって免れることは不可能
確かに「夜逃げ」して、大家さんや管理会社に引っ越し先を教えなければ、支払い請求の書面や電話がかかってくることはなくなります。
家に訪ねてこられることもなく、裁判所からの書類も届かなくなるでしょう。
しかし、夜逃げには以下のような困難がつきまといます。
(1) 住民票を異動できない
夜逃げによって家賃を踏み倒したいなら、引っ越し先に住民票を異動できません。異動すると、大家さんや管理会社が新しい住民票を取得して、引っ越し先を特定する可能性が高まるからです。
引っ越し先を知られると、夜逃げをした先に請求書が届いたり、滞納家賃の支払い請求訴訟を起こされたりするので、以前と同じ状態に戻ってしまいます。
しかし、住民票を異動できないと、非常に暮らしにくくなります。
地域における行政サービスは「住民票単位」となっているので、住民票のある場所にさまざまな連絡が来ます。
たとえば、子どもが学校に上がるとき、健康保険に加入するとき、住民税の通知、プレミアム商品券などの連絡、防災関係の連絡など、すべて住民票を基準に行われるので、異動しないと非常に不便ですし、一部の行政サービスを受けられなくなる可能性もあります。
印鑑登録も住民票を単位とする制度なので、異動しないと居住地の役所で印鑑登録証明書を取得できません。
(2) 仕事も変わる必要がある
仮に夜逃げをするなら、転職が必須です。勤務先が同じだと、勤務先に連絡されたり、訪問されたりする可能性があります。
無理に転職すると、給与等の条件は下がるでしょう。
夜逃げが原因でせっかく積み上げてきたキャリアを失い、収入も低くなるというのは、あまりにリスクが高いのではないでしょうか。
(3) ネットから引越し先がバレる可能性がある
夜逃げしたら、大家さんや管理会社に見つからないように慎重に生活する必要があります。
特に最近では、ネットを通じて居場所がバレやすいので注意が必要です。
SNSやブログなどで不用意に居住エリアを書いたり、近隣の写真・動画を投稿したりしたために居住地を特定される可能性もあります。
良い意味でも悪い意味でも「ニュース」になるような行動をしたら、それをきっかけに現住所地を知られる可能性があるでしょう。
今のネット社会で「絶対に居場所を知られないようにこっそり生活し続ける」のは、簡単なことではありません。
3.家賃の時効
(1) 家賃の請求権は5年が時効
上記の通り、滞納家賃を夜逃げによって免れることは困難です。
とはいえ、「家賃が時効にかかって支払わなくて良くなるまで我慢すれば良い」と考えるかもしれません。
確かに、家賃の請求権には消滅時効が適用されます。
では、どのくらいの期間が経過したら家賃が時効消滅するのでしょうか?
家賃の時効期間は「5年間」です。家賃の支払時期が来てから5年が経過すると、支払い義務は消滅します。
(2020年4月から民法が改正されて各債権の時効期間が変わりますが、家賃については変わらず5年のままです。)
それであれば、夜逃げして5年が経過すると、家賃の支払い義務は消滅時効によってなくなるといえそうです。
しかし、家賃の時効には「中断」があるので注意が必要です。
(2) 時効の中断とは?
時効の中断とは、「時効期間中に一定の事情が発生したときに時効の進行が止まること」です。
時効が中断すると、また当初の期間に巻き戻り、あらためて時間が経過しないと時効が成立しなくなります。
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借金の時効が成立する条件と、時効の援用ができないケース
家賃の時効が中断する事由は、以下の通りです。
裁判上の請求
大家さんなどから訴訟を起こされると時効が中断し、判決が確定した時点から10年間時効が延長されます。
家賃のもともとの消滅時効期間は5年ですが、裁判されると10年に延びるので要注意です。
住所を知られなかったら裁判はされないと思っている方もいますが、実は、住所を知られなくても裁判される可能性があります。「公示送達」という方法を使えば、債務者の住所がわからなくても訴訟を起こせるからです。
公示送達の場合、被告であるあなたのもとには裁判所から呼出状が届きません。しかし、全く知らない間に裁判所で滞納家賃と遅延損害金の一括支払い命令が出ます。
このように訴訟を繰り返されると、時効は永遠に成立しません。
債務承認
債務者が債務を認めると時効は中断します。
例えば、夜逃げしても見つかって一部を支払ってしまったら、その時点で時効は中断します。
仮差押、差押え
訴訟前に仮差押をしたり公正証書等にもとづいて差し押さえたりすると、時効が中断します。
中断とは少し異なりますが、大家さんなどに居場所が見つかって内容証明郵便で家賃の請求をされると、その時点から6か月間だけ時効が延長されます。
その間に訴訟を起こされると確定的に時効が中断し、判決によって時効期間が10年間延びます。
4.家賃を滞納したときの正しい対処方法
このように、家賃を滞納したときに夜逃げをしても、効果的な解決方法にはなりません。
家賃を滞納したら、夜逃げや踏み倒しではなく以下のような方法で解決しましょう。
(1) 大家と話し合う
まずは、大家さんと話し合うのが最優先です。「どうしても払えない」現状を説明し、何とか猶予・分割払いさせてくれるようにお願いしましょう。
通常、何か月分も家賃を滞納していたら、大家さんは明け渡しを求めてきます。それであれば、明け渡しの期限などについての話し合いも必要です。
場合によっては期限内に任意で確実に明け渡す代わりに滞納家賃を免除してもらったり、遅延損害金などの一部をカットしてもらったりする交渉も可能です。
賃借人が自分で話し合うと大家さんが応じてくれない場合でも、専門家が代わりに交渉すると解決しやすくなります。
(2) 債務整理する
家賃以外にも借金があるなら、債務整理を検討しましょう。
「任意整理」を行えば、家賃以外のカードローンなどの負債の利息をカットすることによって、状況を改善できます。
滞納している家賃そのものが高額すぎる場合、個人再生や自己破産をすれば(手続き後に引っ越す必要が出てくる可能性もありますが)、支払うべき滞納家賃の金額を大きく減らす(免除する)ことができます。
もちろん、他の負債も元本ごと大きく減額されます。
ちなみに、債務整理後も別の賃貸物件を借りて生活できますし、仕事を辞める必要もありません。
なお、家賃を滞納している場合の自己破産・個人再生については、以下のコラムで詳しく解説しています。
[参考記事]
自己破産すると賃貸アパートは借りられない?賃貸保証会社の注意点
5.借金問題でお悩みの方は弁護士にご相談ください
滞納家賃や携帯電話代なども、状況に応じた適切な債務整理をすれば解決できるケースがほとんどです。
しかし、その後も家に住み続けたり、携帯電話を使い続けたりするには、様々な工夫をした上で債務整理を行う必要があります。
このような場合、是非とも一度弁護士までご相談ください。弁護士に相談の上で債務整理を行えば、様々な不利益を回避した上で借金問題を解決できる可能性が高まります。
借金問題でお悩みの方は、泉総合法律事務所の無料相談をぜひご利用いただければと思います。