奨学金の返還期限猶予が満了しても払えない場合の対処法
奨学金を利用して大学などに通っている人は多いです。
全国大学生活協同組合連合会が2018年秋に行った調査によると、1万人以上の学生のうち、何らかの奨学金を受給している学生の割合は30.5%に及んだそうです。
この記事を読んでいる人の中にも、過去に奨学金を利用していた人がいるかもしれません。
そしてあるいは、現在奨学金の返還に苦しんでいたり、返還を滞納して督促を受けたりしている人もいるでしょう。
奨学金の返還ができない場合は、申請すれば返還猶予などの措置を受けることができます。
しかし、支払いの猶予期間は永遠ではありません。期限を迎えても支払うあてがない場合はどうすればいいのでしょうか?
ここでは、奨学金の返還ができない方のために、解決策を紹介していきます。
1.奨学金を返還しないとどうなる?
「貸与型」の奨学金は、卒業後に返還しなければなりません(冒頭に挙げた全国大学生活協同組合連合会の調査では、全体の25.4%が『日本学生支援機構(JASSO)』の「貸与型」奨学金を受給していることがわかっています)。
貸与型の奨学金には、無利息のものと利息付きのものがあります。最高に利息が高い年度でも年利2%未満であり、令和に入ってからは高くても年利0.2%程度ですが、低賃金化や就職難の影響などもあるためか、返還を滞納する人は多いです。
JASSOの2019年度末の資料によると、全債権に占める延滞債権数は7.3%となっています。
しかし、支払えないからと言って奨学金の返還を放置していると、以下のようなことが発生します。
(1) 信用情報への登録
まず、滞納状態であることが「信用情報」という組織に登録されます。
ここに登録された情報は銀行や貸金業者、クレジットカード会社などが随時参照でき、主にローンやカードの審査に利用されます。
審査で滞納が発覚すると、返済能力に問題があるとされて、審査に落ちてしまいます。
この結果、お金を借りたりクレジットカードを使ったりすることができなくなるため、生活に不便が生じるおそれがあります。
(2) 連帯保証人に督促が行く
奨学金を受け取る手続きの際に「連帯保証人」が必要になることがあります。
連帯保証人はお金を借りた本人と同じ支払義務を持っているため、奨学金の支払いを放置していると、連帯保証人へ督促が行くようになります。
放置期間が長い場合は分割払いではなく一括払いで請求されるため、かなりの高額請求が予想されます。
学生の場合、大抵は親などが連帯保証人になっているはずです。いきなり高額請求を受けた家族が驚くことは間違いでしょう。
子供を心配した親が自分で借金をしたり、自らの財産を処分してお金を工面するなど、新しい問題が発生するかもしれません。
[参考記事]
連帯保証人が自己破産した場合の主債務者への影響
保証機関による機関保証制度を利用している場合は、保証機関が代わりに滞納した奨学金の支払いをしてくれます。そして、保証機関は支払った金額分を、本人へ一括請求します。
つまり単純に債権者が変わっただけであり、支払いを免れることはできません。
そして保証機関が支払いをしたということは、JASSOとしては債権を回収しているということです。奨学金を受けていた人とJASSOの間には、もはや関係性がなくなっています。そのためJASSOが行っている猶予制度などを利用できなくなってしまいます。
保証機関からの督促は続くのに救済制度は使えないため、事態は悪化したと言わざるを得ません。
2.JASSOの救済制度について
上記のような滞納による不利益に対し、JASSOは以下の救済制度を設けています。
(1) 減額返還
これは、毎月の支払額を減らしてもらえる制度です。
1回の申請につき12ヶ月の間は月々の支払いが減額され、最長15年(180ヶ月)まで延長できます。
支払うお金の額が2分の1または3分の1に減額されるので、毎月の支払いは楽になります。
その代わり、減額に応じて返還期間が伸びてしまいます。また、トータルの返還額が減るわけではありません。
(2) 返還期限猶予
一定期間返還を猶予してもらう制度です。猶予中は支払いをしなくて済むので、その間にお金を貯めることができます。
猶予期間は「通算で10年」が限度と定められています。
ただし、既に10年の猶予期間を使い切ってしまった人でも、特例的に「新型コロナウイルス感染症拡大の影響で返還が困難となった場合」に限って、緊急的に12ヶ月までを限度に追加の猶予期間を願い出ることができます。
また、以下の理由で返還ができない人には10年という上限がありません。
災害・傷病・生活保護受給中・産前産後休業および育児休業・一部の大学校在学・海外派遣
(3) 猶予年限特例又は所得連動返還型無利子奨学金の返還期限猶予
貸与終了後、一定の収入を得るまで返還を猶予してもらえます。適用期間に制限はありません。
ただしこの制度を利用できるのは、無利息型の奨学金を受け取った人のうち、「猶予年限特例」または「所得連動返還型無利子奨学金」を貸与された人に限ります。
3.救済制度が使えない場合の対処法はある?
奨学金の返還ができなくて、猶予制度や減額制度を利用したとします。
しかし、猶予制度は10年、減額制度は15年が基本的な上限です。この期間を使い切った場合はどうすればいいのでしょうか?
(1) 免除制度を利用する
死亡または「一定の条件」を満たした場合は返還を免除してもらえる制度があります。
一定の条件とは、「精神若しくは身体の障害により労働能力を喪失、又は労働能力に高度の制限を有し、返還ができなくなった場合」です。
この制度を利用するには収入を証明する書類や返還が難しい事情を証明できる書類、医師による診断書などが必要となります。
特に医師の診断書はJASSO所定のものでなければならないなど、注意点が多いです。
事前にJASSOに問い合わせて、詳しく確認することをおすすめします。
(2) 債務整理をする
JASSOの制度が利用できない場合は、債務整理をすることで奨学金の滞納問題を解決できます。
債務整理には3種類あるので、それぞれの概要と有効性を簡単に説明していきます。
任意整理
債権者と交渉して将来の利息や遅延損害金をカットしてもらう債務整理です。一括払いを求められている借金を分割払いにしてもらうこともできます。
しかし、JASSOは基本的に交渉に応じてくれません。そもそも奨学金は利率が低いので、減額効果は限定的です。有効な解決手段とは言いづらいでしょう。
個人再生
裁判所に申立てをして、借金をおおよそ5分の1、最大で10分の1に減額してもらいます(どれくらい減額してもらえるかは、債務総額や保有している資産の額等により決まります。)。
減額された借金は、原則3年間の分割払いで毎月支払っていくことになります。
しかし、返済が前提となるため、返済が可能な収入が将来にわたって継続する見込みのある人でなければ利用できません。
また、個人再生の手続は極めて複雑で、法律の専門知識を持たない一般人が自力で行うのは事実上不可能という声もある程です。
個人再生を行う場合は弁護士に依頼して手続を代行してもらうことを強くおすすめします。
[参考記事]
個人再生で奨学金滞納を解決|保証人への影響は?
自己破産
裁判所に申立てをして借金をゼロにしてもらう手続きです。個人再生と違って収入がなくても利用できますが、自分が持つ一定以上の財産が裁判所によって処分されてしまいます。
とは言え99万円までの現金や家具家電類、寝具や衣類など多くの財産は処分されずに済むので、当面の生活には困りません(その反面、持ち家や高価な自動車などは処分されてしまいます)。
デメリットに目をつぶれば、かなり現実的な解決方法と言えます。デメリットの程度は人によって違うため、弁護士に相談して個別に判断してもらうといいでしょう。
[参考記事]
返済できない奨学金|自己破産をするとどうなる?
どの債務整理をするにしても、先述した信用情報機関に債務整理をした情報が登録されてしまいます。そのため、5~10年はローンやカードの審査に落ちてしまいます。
また、債務整理によって債権を回収できなくなった債権者は連帯保証人へ支払いの請求を行います。場合によっては連帯保証人も連鎖的に自己破産などをしなければいけなくなるので、事前に相談をしておきましょう。
4.債務整理のことは弁護士へ相談
各種救済制度を利用しても奨学金の返還ができない場合、最終的には債務整理が現実的な解決方法と言えます。
「債務整理をする必要があるのか?」「どの債務整理をすべきなのか?」など、少しでも疑問に思ったら弁護士にご相談ください。弁護士が最適な解決方法を導き出し、手続きも代行いたします。
弁護士は借金問題解決のプロです。どうぞお早めに弁護士に相談して、一刻も早く借金生活から抜け出しましょう。