法人の私的整理とは|メリット・デメリットを簡単に解説
会社の経営が苦しくなった場合、裁判所に申立てをして「破産」などをするケースが多いです。
しかし、裁判所を介さずに会社の負債・借金を解決する方法も存在します。それが「私的整理」です。
私的整理とはどういった手続きなのでしょうか?
どのような注意点があり、メリット・デメリットにはどんなものがあるのでしょうか?
この記事では、法人の私的整理について解説していきます。
1.私的整理とは
倒産状態の法人の借金を解決する手段には、「法的整理」と「私的整理」の2種類があります。
このうち「法的整理」とは、裁判所を通して行う法人の倒産手続きを指します。
法人破産・会社更生法に基づく更生手続・民事再生法に基づく再生手続・特別清算などは、全て法的整理に分類されます。
一方「私的整理」とは、冒頭で述べたように裁判所を通さずに行う方法です。
私的整理には以下の特徴があります。
(1) 債権者と協議して会社の借金等を整理する
法人が行う私的整理では、債務者が債権者と話し合いをして、利息の減額や支払いスケジュールの見直しなどを行います。
(2) 法律の規制を受けず、柔軟かつ迅速に物事を進められる
法的整理は手続きの方法や内容が法律で決まっています。
また、裁判所で行う手続きはとにかく時間がかかるため、手続きの終了まである程度の期間を見込まなければなりません。
しかし、私的整理は裁判所を介さないため、当事者間の合意があれば柔軟な方法で解決できます。
話し合いがスムーズに進めば、迅速に手続きをして解決に至ることも可能です。
(3) 再建を目指す中小企業で採用されることが多い
私的整理は、費用の都合などもあり中小企業で採用されるケースが多いです。
2021年の6月には、新型コロナ対策の一環として、中小企業の私的整理を政府が後押しするための新しい指針を検討するという報道もありました。
経営難の中小企業の方にとっては一考の価値がある会社再建方法なのです。
2.私的整理の流れ
次に、私的整理の一般的な流れをご紹介します。
(1) 弁護士に相談
私的整理は、会社対会社の交渉なので、個人対会社(任意整理)の場合よりも契約関係等が複雑なことがあります。
そのため、まずは弁護士に相談して、私的整理を行うのが妥当なのかを検討してもらうべきです。
もし私的整理で解決できそうであれば、どの債権者とどういった交渉をすべきなのかなどを検討します。
(2) 債権者を決めて、交渉を行う
どの債権者と交渉するかを決めた後は、弁護士を通じて連絡し、交渉の場をセッティングして話し合いを行います。
自分だけで交渉してもうまく行かず、そもそも交渉の機会さえ得られないことも多いので、弁護士に依頼して実行してください。
基本的には銀行などの金融機関と交渉し、返済額の減額や返済スケジュールの変更などについての話し合いがメインとなります。
(3) 新たな支払い条件について合意書を締結
話し合いがまとまったら、その内容を書面に残す必要があります。
弁護士が法律的に問題のない合意書を作ってくれるので、よく確認して署名捺印し、大切に保管しておきましょう。
(4) 合意書の内容に従って債務の支払いをする
交渉が終わり、合意書を締結したら私的整理は完了です。
その後は合意書の内容に沿って支払いを行っていきます。
3.私的整理のメリットとデメリット
法的整理にメリットとデメリットがあるように、私的整理にもメリットとデメリットがあります。
(1) 私的整理のメリット
先にメリットをご紹介します。
会社を存続できる
第一のメリットは、なんと言っても会社を存続できるということです。
法的整理の中にも会社を存続できるタイプのものがありますが、費用が高額で手続きが複雑などのデメリットが多いです。現実的に利用できないケースも少なくありません。
私的整理は、そもそも会社の存続を前提とした手続きなので、会社の存続を第一に考えたい方は、私的整理を借金解決方法の有力候補として検討してみると良いでしょう。
費用が安い
法的整理の際には裁判所へ所定の金額を納付しなければなりません。特に会社更生を利用する場合、会社規模や内容によっては、数千万円もの費用がかかってしまいます。
最も費用を抑えられる破産の場合でも、100万円近い費用が必要なケースが多いです。代表者と共にであれば100万円以上となるでしょう。
経営難の会社にとって、こういった負担は大きいでしょう。
一方、私的整理は裁判所を使わない方法なので、裁判所に納める費用がありません。費用を抑えて借金問題を解決できます。
手続きが簡易で迅速
法的整理の準備から終結までは、おおよそ半年程度、場合によっては1年以上の期間がかかることもあります。
しかし私的整理は裁判所を使わない分、迅速な解決が可能です。
早く借金を解決できれば、それだけ早く安心して、経営と会社の再建に集中できます。
信用不安の回避が可能
法的整理を行うと全ての債権者が平等に扱われます。
銀行からの借り入れも取引先への負債も一緒に整理されるため、多くの債権者に迷惑をかけてしまいます。
結果として重要な取引先や顧客の信用を失って、会社の存続が危ぶまれる事態に陥るかもしれません。
しかし私的整理の場合、交渉の相手を選ぶことができます。
重要な取引先には交渉せず、他の取引先との借金のみを整理することで、取引先を確保しながら会社を立て直せるかもしれません。
(2) 私的整理のデメリット
続いてデメリットを紹介します。
法的な強制権がない
私的整理は当事者間の交渉で物事を進めます。
そのため、交渉がまとまらないとどうしようもありません。そもそも交渉に応じてもらえない可能性もあります。
法的整理は裁判所が強制力を持って手続きを進めるため、私的整理に比べて債権者の意思が関与する局面が圧倒的に少ないです。
債権者と交渉の余地がないと見込まれる場合は、法的整理をするしかないでしょう。
大幅な債務減額は期待できない
法的整理をすれば借金の大幅な減額が期待できます。
特に破産や特別清算をした場合、法人は消滅するものの、借金を全て消滅させることが可能です。
しかし、私的整理は交渉で物事を解決するため、過大な減額を迫りづらい実態があります。
大きく減額してもらおうと要求しても、そのせいで交渉がまとまりづらくなってしまえば意味がないからです。
減額幅が意外と少ないことも多いため、あまりに過大な債務を抱えている場合は、私的整理をしても焼け石に水となる可能性があります。
4.適切な倒産方法を模索するためにも弁護士へ
私的整理は任意の債権者と交渉して、迅速かつ柔軟に法人の借金を解決する方法です。
様々なメリットがある方法ですが、あくまで債権者との交渉次第なので、失敗に終わるリスクもあります。
特に債務が過大な場合や、支払遅延を何度もしている場合などは、交渉が難航するかもしれません。
債務がまだ比較的少ないときや、支払遅延をする前であれば、債権者が交渉に応じてくれやすくなる可能性があります。
手遅れになってしまう前に、ぜひ弁護士までご相談ください。