自己破産と他の債務整理の違い
多額の借金の返済に困ったとき、「自己破産」をしようと考える方は多くいらっしゃるでしょう。
しかし、自己破産は借金問題を解決するための方法の1つに過ぎません。実際には、自己破産以外にも債務整理の方法はあります。
今回は、自己破産とそれ以外の債務整理の方法について、手続き内容の違いや、どれを選ぶべきかについて解説します。
1.債務整理の3つの種類
借金の返済に困ったときの「債務整理」の方法としては、概ね以下の3種類があります。
(1) 自己破産
裁判所に申し立てを行い、借金の返済を続けることは不可能であると認めてもらった上で借金を0にしてもらう手続です。
その代わり、破産の申立の時点において保有している高額の財産は原則処分・換価され、借金の返済に回されることになります。
なお、生活必需品や当面の生活に必要な財産は処分されませんので、その点はご安心ください。
(2) 任意整理
債権者との個別の交渉により遅延損害金や将来の利息の支払を免除してもらい、分割で無理なく返済できる内容に変更する和解を成立させる手続です。
自己破産や後に説明する個人再生が裁判所を通した手続きなのに対し、任意整理は任意の交渉ですので、債務を整理したい特定の貸金業者を選ぶことができます。
この結果、保証人に迷惑をかけずに他の借金だけを整理したり、ローン支払い中の財産の支払いは続けて手元に残したりできるのです。
(3) 個人再生
裁判所に申し立てを行い、借金を1/5〜1/10程度に圧縮した上で、原則3年間の分割支払により返済する再生計画を認可してもらう手続きです。
その計画に従い借金を完済すれば、残りの借金については返済義務が免除になります。
自己破産のような財産の処分はありませんが、再生計画に基づいた債務の返済が前提になるので、継続的に収入を得られる人でないと利用することができません。
2.自己破産と債務整理(任意整理・個人再生)の違い
次に、自己破産と他の債務整理(任意整理・個人再生)の具体的な相違点について見ていきます。
(1) 自己破産と任意整理の違い
自己破産と任意整理は、主に以下の点が異なります。
- 手続後の借金の返済の有無
- 整理の対象となる借金の範囲が選べるか否か
- 裁判所の関与の有無
- 保有財産の処分の有無
- 周囲へのバレやすさ
- ブラックリストへの掲載期間
手続後の借金の返済の有無
自己破産と任意整理の決定的な違いは、手続き終了後の借金返済義務の有無です。
自己破産の場合には借金を返済する責任を免れるのに対して、任意整理の場合にはなお借金の返済は続きます。
整理の対象となる借金の範囲が選べるか否か
自己破産の場合、全ての債権者は平等に扱われるため「ある借金は0にして、他の借金はそのまま返済する」ということはできません。
よって、家族や親戚を保証人にしている借金を整理することで保証人に請求がいってしまったり、ローン支払い中の車を債務整理することで車を引き上げられてしまったりします。
これに対して、任意整理の場合には、整理する対象の借金を自由に選択できます。
裁判所の関与の有無
自己破産手続は裁判所の関与する手続であり、厳格な法律上のルールに従った清算手続が行われ、最終的には裁判所の判断により借金を0にします。
これに対して、任意整理は裁判所が関与せず、債務者(代理人弁護士)と貸金業者との私的な話し合いにより、借金の返済方法について和解する形で手続が完了します。
そのため任意整理は、自己破産に比べて必要書類が少なく、手続自体も簡易的で、債務者の費用負担も小さいです。
保有財産の処分の有無
自己破産では、高額な財産は処分の対象になり、借金の返済に充てられます。
他方、任意整理の場合には、そのような財産の処分はありません。
ただし、住宅ローンや自動車ローンについて、自宅不動産(マイホーム)や自動車(マイカー)をローンの担保にしている借金を任意整理すれば、任意整理でも担保権の実行によりその財産を失うことになります。
周囲へのバレやすさ
債務者としては、できる限り債務整理の事実を他人に知られたくないでしょう。
この点、自己破産においては、自己の財産や同居人の収入等に関する資料、退職金の額に関する資料などを提出する場合があるため、そうした資料を収集する過程において他人に破産の事実を知られる可能性があります。
他方、任意整理の場合には貸金業者との個別交渉により手続は完了するため、他人に知られることはほとんどありません。
ブラックリストへの掲載期間
債務整理である以上、自己破産でも任意整理でも、信用情報の事故情報として登録(ブラックリストに掲載)されますから、将来のローンの審査や新規のクレジットカード作成に支障を生じさせます。
ただし、自己破産や個人再生の場合、その影響は〜約10年と長期であるのに対して、任意整理の場合は〜約5年と比較的短期です。
[参考記事]
ブラックリストとは|何年で消える?掲載のデメリットと確認方法
(2) 自己破産と個人再生の違い
自己破産と個人再生との大きな違いは以下の通りです。
- 手続後の借金の返済の有無
- 保有財産の処分の有無
- 住宅ローン返済中の自宅を残せるかどうか
繰り返しますが、自己破産は借金を原則0にするため、手続き後に返済は続きません。
一方個人再生は、返済額は大幅に減額するものの返済自体は3年程度続きます。
また、自己破産も個人再生も裁判所を通じた手続ではありますが、個人再生の場合は自己破産と違い、保有している財産を強制的に処分されることはありません。
(その代わり、保有している財産の金額が多いと、個人再生後に返済しなければならない債務の金額が大きくなってしまいます。)
さらに、自己破産の場合は、住宅ローン返済中の自宅を残すことはできませんが、個人再生の場合は、住宅ローン特則という制度を利用すれば、住宅ローン返済中の自宅を残すことが可能です。
[参考記事]
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)の利用要件
3.自己破産と他の債務整理どちらを選択するか
自己破産を含めた3つの債務整理方法はそれぞれ違いがあり、メリット・デメリットも様々です。
では、一体どの債務整理方法を選択するべきなのでしょうか。
(1) 自己破産のデメリットを考慮する
まず、「自己破産をすると自分にとってどんなデメリットがあるのか」を考えてみましょう。
自己破産のデメリットは、以下のようなものです。
- 高額な財産は強制的に処分される
- すべての借金が債務整理の対象になる
- 手続期間中に就業を禁止される職種がある
- 周囲にバレる可能性がある
- ブラックリストの掲載期間が長い
たとえば、日常生活において必要となるマイホームや自動車などを維持したいときには、自己破産は避けるべきでしょう。
個人的に借金をしている人や、債務の保証人に迷惑を掛けたくないため「特定の債務を整理の対象から外したい」というときは、任意整理を選択するしか方法がありません。
この他「士業や警備員などの制限職種に従事しているため仕事に影響が及んでしまう」「家族に絶対にバレたくない」というケースでは、自己破産以外の方法を検討してみるべきかもしれません。
[参考記事]
自己破産と仕事の関係|制限を受ける職業・資格一覧
[参考記事]
自己破産すると家族に影響はある?
(2) 毎月の返済のために回せる金銭を考える
個人再生と任意整理は、手続き後も借金の返済を続けなければなりません。
個人再生や任意整理においては、約3年の分割払いになることがほとんどです。
任意整理では利息などを免除した借金の元本を、個人再生では大幅に圧縮した借金を継続的に支払っていく必要があります。
このため、「借金が大きすぎて3年の分割でも払えない」「定職についておらず収入がない」という場合には、そもそも個人再生や任意整理を選択することは不可能であり、自己破産を選択することになるでしょう。
(3) 最善の選択をするには弁護士へ
債務整理方法の選択については、借金の総額・家計の状況・それぞれの債務整理をしたときのデメリットなどを考慮して決定しなければなりません。
しかし、債務整理に関する専門的な知識と経験を踏まえなければ、適切な方針の決定は難しいでしょう。
ですから、債務整理の方法について決める際には、必ず、専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士ならば、相談者様の置かれた状況や希望を踏まえて、最善の選択をできるようアドバイスが可能です。
4.まとめ
このように、借金の返済に困ったときにどのような債務整理の方法を選択すべきであるかについては、様々な事情を踏まえて判断すべきであるため、一概に決めることはできません。
たしかに、自己破産は借金を0にできるため「返済に困ったなら自己破産すれば良い」との考えになりがちですが、あくまで自己破産は債務整理の方法の1つに過ぎず、デメリットもあります。
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