借金返済 [公開日]2018年1月29日[更新日]2021年4月2日

遺言で債務(借金)の負担を指定することは可能?遺言書の書き方とは

借金をしている方は、将来「借金が子供達や配偶者に相続されるのではないか」と心配されることが多いです。
また、複数の相続人がいる場合、特定の相続人に借金を集中して相続させたいと希望されることもあるでしょう。

たとえば遺言を残すことで、借金を特定の人に継がせることは認められるのでしょうか?

今回は、債務の基本的な相続方法と、遺言によって特定の人に借金を引き継がせる方法について解説します。

1.借金の相続方法について

被相続人が借金などの債務を残して死亡した場合には、債務はどのように相続されるのでしょうか?

前提として、被相続人の債務は相続人に相続されます。死亡をきっかけに債務を支払わなくてよくなるわけではありません。

カードローンや銀行ローンなどの借金だけではなく、未払の家賃や買掛金債務、交通事故などの損害賠償債務、他人の保証人になっている場合の保証債務なども相続の対象となります。

そして、これらの債務を相続するのは「法定相続人」です。特に遺言がない場合、各法定相続人が法定相続分に応じて債務を相続し、それぞれが債権者に対して返済義務を負います

法律上は、相続が開始するとともに、債務が自然に法定相続割合で分割されて、それぞれの法定相続人に帰属する、と理解されています(最高裁昭和34年6月19日判決)。

このような考え方のことを「当然分割」と言います。

2.債務を特定の相続人だけが負担する・全く負担しないことは可能か

例えば「事業のために不動産などの資産もすべて長男に継がせる代わりに、負債もすべて引き継がせたい」と希望することもあるでしょう。

何もしなければ、債務が法定相続分に従って当然に分割されるとしても、遺言書を書けばその割合を変えることができるのでしょうか?

これについては、「債権者との関係」と「共同相続人同士の関係」で分けて考える必要があります。

(1) 債権者に対しては債務の負担指定は無効

債務である以上は債権者がいます。

実は、遺言書で債務を負担すべき相続人を指定しても、債権者に対してはこれを対抗(主張)できません
したがって、債権者は遺言内容にかかわらず、法定相続分どおりに相続人に請求することができ、相続人は弁済する義務があります(民法902条の2本文、最高裁判所平成21年3月24日判決参照)。

例えば次のような例で考えてみましょう。

被相続人:父
相続人:長男、次男
債務:3,000万円

上記のケースで、「長男に債務を全て相続させ次男には債務を相続させない」という趣旨の遺言を書いたとしても、債権者は法定相続分に従い、長男に1,500万円、次男にも1,500万円を請求することができます。

もっとも、債権者の承諾があれば問題なく負担割合を指定することが可能です。

(2) 相続人間では負担割合の指定も有効

相続人間においては、遺言書による債務の相続方法の指定が有効です。

債権者に対してと、相続人間とで扱いが異なるのはどういうことでしょうか。

先ほどの例で考えてみると、まず債権者は長男・次男のどちらにも法定相続分に応じて請求が可能です。
遺言書でどのような指定があっても、長男・次男はそれを拒むことはできず、いったんは債権者に弁済する必要があります。

しかし、仮に遺言書で「債務は全て長男に相続させる」と指定されていた場合、次男は負担しなくてよい債務を弁済したことになります。

したがって、次男としては遺言書で指定されている長男に対して求償することができます。
つまり、「遺言書の指定で負担しないはずの1,500万円を代わりに支払ったから、長男から自分にその1,500万円を支払ってほしい」と請求できることになります。

(3) 遺産分割で債務の負担を定める場合

以上のことは遺産分割協議でも同じことが言えます。

遺産分割協議とは、共同相続人同士が話合いをして、遺産相続方法を決めるものです。

上でご説明したとおり、債務は相続の開始により当然に分割されて相続分に応じて相続人に承継されますので、原則として遺産分割協議の対象になりません。

ですが、遺産分割協議において共同相続人全員が合意をすれば、法定相続分とは異なる割合で債務の負担を決定することが可能です。遺言書があっても、遺産分割協議で遺言書と異なる割合で債務を相続することもできます。

しかし、遺言書による指定の場合と同様、遺産分割で債務の負担を定めても、これを債権者に対抗することはできません。金融機関が法定相続分に応じた支払いを求めてきた場合には、請求された相続人は支払いに応じざるを得ません。

ただし、やはり共同相続人間では遺産分割協議による負担の定めは有効ですから、債権者に支払いをした場合には、協議の決定内容に応じて、支払った分の金額を求償することができます。

(4) 負債の相続方法についてのまとめ

ここまででご説明した債務の相続方法をまとめておきます。

  • 債務は、被相続人が死亡した時点で、当然に法定相続人に対し、法定相続分通りに分割承継される。
  • 遺言や遺産分割協議によって、特定の相続人に債務を集中させたり、負担割合を定めたりすることは可能。
  • ただし、債務の負担に関する定めは共同相続人間のみで有効であり、債権者には対抗することができない(請求があれば、支払いに応じざるを得ない)。
  • 債務を相続しないはずの相続人が債権者に支払いをしたときには、債務を相続すべき相続人に対し求償(返還請求)できる
【被相続人に対する負債の免除は可能】
ところで、被相続人自身が相続人に対する債権者となっていることがあります。この場合には遺言によって、当該相続人に対する債務を免除することができます。債権者自身が債権を処分するので、何の問題もありません。遺言書に債務免除の条項を入れておけば、相続開始後に相続人が負担を負うことは一切なくなります。
免除しない場合はその債権は他の共同相続人にも分割承継され、債務者である相続人が請求される可能性もあります。
なお、こういったケースは、税制上は債務免除をした相手の相続人に対する贈与があったとみなされるため、相続税が発生することには注意が必要です。

3.債務の相続方法を定める遺言書の書き方

遺言によって債務の相続方法を定めたら相続人間では有効になりますので、それなら遺言をしておこう、という方もいらっしゃるでしょう。

以下では、負債の相続方法を定める遺言書の書き方をご紹介します。

(1) 特定の相続人にすべての負債を相続させる遺言

まずは、特定の相続人にすべての負債を相続させる遺言です。

この場合、以下のように記載するとよいでしょう。

包括的に債務を相続させるケース

「遺言者の債務については、すべて相続人〇〇〇〇に相続させる」

債務を指定して個別に相続させるケース

「次の債務については、相続人〇〇〇〇に相続させる」

借入先、金額、弁済期日、利息などを明確に記載し、相続させる債務を特定しましょう。

(2) 特定の相続人には債務を相続させない遺言

次に、特定の相続人には負債を相続させたくない場合、以下のように遺言書を作成しましょう。

包括的に記載する場合

「遺言者の債務については、相続人〇〇〇〇には一切相続させない」

個別に負債を指定する場合

「次の債務については、相続人〇〇〇〇に相続させない」

被相続人に対する債務を免除する場合

「遺言者は、相続人〇〇〇〇に対して有する次の貸金債権を放棄する」

この場合も、やはり金額や弁済期日などを明記しましょう。

(3)「すべての遺産を特定の相続人に相続させる」という遺言の解釈

以上のように、遺言書によって債務の相続方法を定める場合には、はっきりと「債務を相続させる」「債務を相続させない」と明示することが必要です。

ただ、遺言書内に「すべての遺産を特定の相続人に相続させる」とのみ書かれていることもあります。この場合、債務の取扱いはどうなるのでしょうか?

これについては、判例があります。

相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり,これにより,相続人間においては,当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。

最高裁判所は、相続人のうち1人に「すべての遺産を相続させる」という遺言がある場合、原則として相続債務もすべて相続させるものと解すべきと判断しています(最高裁平成21年3月24日判決)。

ただし、遺言全体の趣旨等からして、債務についてはすべてを相続させる意思のないことが明らか等の事情がある場合は、例外的に債務は除外して解釈されます。

つまり、例えば借金をしている人が遺言をするときに「遺産をすべて、妻〇〇〇〇に相続させる」と書くと、原則として債務についてもすべて妻の負担となってしまうということです。

そこで、債務については別の人に相続させたい場合には、遺言書に別途、債務の相続方法を定めておく必要があります。

たとえば、以下のような記載をしましょう。

「遺言者は、債務を除くすべての財産を妻〇〇〇〇に相続させる。」
債務については、法定相続分通りに相続人に分割承継させる」または
債務については、長男〇〇〇〇にすべて相続させる」

なお、繰り返しになりますがこのような債務の定めは債権者には対抗できません。

4.特定の相続人が借金を完全に相続しない方法

では、債権者にまで債務の相続方法を対抗するには、どのような手段があるのでしょうか?以下で、その方法をご紹介します。

(1) 免責的債務引受契約を締結する

1つは、債権者との間で「免責的債務引受契約」を締結することです。

免責的債務引受契約とは、特定の人がすべての債務を引き受け、これまでの債務者が債務を免除してもらう契約です。

たとえば、相続が発生して長男と次男が相続人となり、債務を長男に集中させたい場合(次男を借金から解放したい場合)は、長男(引受人)・次男(債務者)・銀行など(債権者)が話合いをします。

そして、長男が次男の債務を引き受ける代わりに、債権者から次男への負債を免除してもらうのです。

免責的債務引受は、上記のような三者での話し合いの他、①引受人と債権者で合意して債権者から債務者に通知する、②債務者と引受人で合意して債権者が引受人に対して承諾するといった方法でも可能です(民法472条2項、3項)。

いずれにしても、免責的債務引受契約を締結するためには、必ず債権者の同意や承諾が必要です。次男への債務を免除できるのは、債権者だけだからです。

たとえば、長男に資力がない場合や不安がある場合などには、債権者が免責に同意しないこともあります。その場合、免責的債務引受契約はできません。

(2) 相続放棄する

債権者と話し合っても債務の集中(免責)に同意してもらえない場合には、どのような方法をとればよいのでしょうか?

まずは債務を相続すべき相続人に立て替え払いをさせればよいのですが、当該相続人が応じないこともあります。

その場合、最終的には相続放棄をすることにより、債務を免れることができます。相続放棄をすると、資産も負債も含めて、初めから相続しないことになるからです。

ただし、相続放棄をすると、借金だけではなく預貯金や不動産などの資産も一切相続できなくなるので、注意が必要です。

遺産の内容が債務のみであり、相続する意味が全くない場合や、資産の相続にも関心が無いケースでは相続放棄が有効でしょう。迷ったときには弁護士がアドバイスいたしますので、お気軽にご相談ください。

(3) 生前に債務整理をする

相続開始後に相続人に迷惑をかけない一番の方法は、被相続人が生前に債務整理をしておくことです。

きちんと債務整理をして生きている間に借金を完済していたら、債務の相続方法などということで悩む必要もありませんし、相続人らに負担や迷惑をかけることもなくなります。

5.まとめ

以上のように、遺言によって債務を相続させる人を選択すること自体は可能ですが、金融機関やサラ金などの債権者に対抗することはできません。

相続人の負担を軽くするためには、被相続人が生前に債務整理をしておくのが一番です。そうすれば、「相続放棄すべきか?」と相続人が迷うこともありません。

債務整理が終わったら、その後に積み立てた資産を子供達に受け継がせることも可能となります。

借金があって将来の相続が気になる場合には、弁護士がお力になりますので、お早めにご相談ください。

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