相続税対策で借金をすることは有効なのか?|借金と相続の関係
相続税対策として「銀行からお金を借りる」という話を聞いたことがある方はいらっしゃると思います。
しかし、相続税対策として銀行からの借入をすること(借金をすること)は本当に有効なのでしょうか?
今回は、なぜ借金が相続税対策になるのか、その基本的な仕組みを分かりやすく解説します。
1.相続税について
相続税とは、「相続財産にかかる税金」です(ここでいう相続財産とは「プラス」の相続財産に限られます)。
昔から「三代相続すると財産がなくなる」と言われるほど、日本の相続税率は高く設定されています。
相続税は、相続する財産の額が大きいほど税率も高くなります。
逆に言えば、相続する財産が少なくなれば、その分だけ相続税も少なくなる、ということです。
しかし、相続税対策で相続財産を減らそうとして、生前に財産を使ってしまうのは意味がありません。また、家族に先に財産をあげてしまうと贈与税がかかります。
そこで登場するのが「借金」をするという手法です。
2.銀行からの借金が相続税対策になる理由
もちろん、ただ単に借金をすれば相続財産がマイナスになるわけではありません。
たとえば、現在、1,000万円の財産を持っている人が、銀行から追加で1,000万円を借りたとします。
銀行に1,000万円借りるということは、現預金が1,000万円増えるということです。つまり、手持ちの財産1,000万円と銀行から借りた1,000万円で、プラスの財産は2,000万円になるだけです。
このように、借金しただけでは何の相続税対策にもなりません。
相続税対策となり得る借金は、「借金で財産を取得し、かつ、取得した財産の評価額が借金の額よりも低くなるようすること」です。
簡単な事例で説明してみましょう。
たとえば、Aさんが1億1,000万円の銀行預金を保有しているとします。
もしAさんが亡くなり相続が発生すると、1億1,000万円に対し「40%」の相続税が適用されます(国税庁が定める相続税の速算表による)。
ところが、1億1,000万円の借金で買った土地は、相続税を計算するうえではぴったり1億1,000万円とは評価されず、一般的に何割か低く評価されます。
たとえば、1億1,000万円の借金で買った土地が「8,800万円」などと評価されれば、速算表により適用される税率は「30%」に下がります。
3.借金による相続税対策の具体例
それでは、次のような事例をもとに相続税対策の方法を解説します。
【事例】
銀行からの借入で土地(路線価がある市街地の土地)を購入し、その土地上にマイホームを新築する。
この事例の場合、「土地」と「建物」で別々に相続税の評価額を計算します。
(1) 土地の評価額
土地の評価額は「路線価×面積」で算出されます。
「路線価」とは、相続税などの評価用に国税庁が公表しているもので、一般的には、市場で流通する土地価格の70~80%程度になると言われています。
現在、マイホーム用の敷地を購入する場合には「小規模宅地等の負担軽減措置」という制度があり、この軽減措置が適用されると、土地の評価額は80%も低く評価されます(敷地の面積が330㎡までの場合に限る)。
つまり、1億円の借金で買った土地が、相続税を計算する際は2,000万円で評価されるということです。
(2) 建物の評価額
建物の場合は、「固定資産税評価額」で算出されます。
「固定資産税評価額」とは、固定資産税を課税するために市町村が設定した評価額です。こちらもやはり、不動産市場で流通した場合の概ね60~70%程度になると言われています。
つまり、借金をして1億円で新築したとしても、そのまま評価額が1億円となるのではなく、その60~70%程度で評価される、ということです。
これらの具体例で明らかなとおり、借金で土地とマイホームを取得すると、土地は最大で80%、建物も30~40%ほど評価額が低くなります。
つまり、借金で財産を取得することで相続財産が低く評価され、その分だけ相続税も少なくなるのです。
4.まとめ
こういった借金を利用する相続税対策は、専門的で緻密な計算が必要であり、難度の高い作業です。
専門家の助言をもとに進めないと、本来納めるべき相続税以上の金利を銀行に支払うことになる可能性もあります。
こうした事態にならないよう、借金を利用した相続税対策は、必ず専門家に相談されることをおすすめします。