国民年金を未納・滞納したら差し押さえられるか|リスクと対処法
「年金」と聞くと、「払う余裕なんてない」「支払っても将来年金をもらえるかわからないから支払わない」と考えてしまう方が多いのではないでしょうか。
たしかに、老後に受け取ることができる額については、今後、現状より厳しくなる可能性は否定できません。
しかし、年金をきちんと支払うことには、「老齢基礎年金」のほかに、「障害基礎年金」「遺族基礎年金」を受け取ることができるなど、さまざまなメリットがあります。
また、もし年金を滞納してしまうと、最悪の場合差し押さえによる強制徴収に発展してしまいますので、そうなる前に早めの対応が必要です。
この記事では、年金を滞納してしまった場合の流れ・年金の滞納状態を解決するための方法などについて解説します。
1.国民年金保険料は自分で納付する必要がある
会社などに勤務している方は、厚生年金に加入することになります。
厚生年金保険料は、会社などから受け取る給料から天引きされるため、自分で納付の手続きを取る必要はありません。
これに対して、自営業の方などは国民年金に加入する必要があります。
国民年金は、市区町村や組合などの保険者に対して、加入者が自分で納付を行います。
2.国民年金保険料を滞納するとどうなる?
国民年金に加入している方の中には、国民年金保険料を滞納している・未払いの方が数多くいらっしゃるのが実情です。
では、国民年金保険料を滞納した場合、どのような事態が生じてしまうのでしょうか。
(1) 延滞金がかかる
国民年金保険料を滞納すると、納期限の翌日から納付の日の前日までの期間について、延滞金がかかってしまいます。
延滞金の利率は以下のとおりです(2021年11月現在)。
期間 | 納期限の翌日から3ヶ月間 | 納期限の翌日から3ヶ月経過後 |
---|---|---|
平成26年12月31日以前 | 年4.3% | 年14.6% |
平成27年1月1日から 平成28年12月31日まで |
年2.8% | 年9.1% |
平成29年1月1日から 平成29年12月31日まで |
年2.7% | 年9.0% |
平成30年1月1日から 令和2年12月31日まで |
年2.6% | 年8.9% |
令和3年1月1日以降 | 年2.5% | 年8.8% |
原則的な延滞金の利率は、「納期限の翌日から3ヶ月間は年7.3%、それ以降は年14.6%」です(国民年金法97条1項)。
しかし、租税特別措置法に定められた特例基準割合により、上記のとおり延滞金の利率が軽減されています。
なお、延滞金が発生するのは納期限の翌日からとなります。
これに対して、督促状が発行されるのは滞納が発生した後です。
そのため、督促状の指定期限までに納付したとしても、納期限を過ぎた日数については延滞金がかかってしまいます。
よって、もし国民年金保険料を滞納して督促状が届いてしまったら、督促状で指定された期限を待たずに、できるだけ早く滞納分を納付しましょう。
(2) 財産の差し押さえがされてしまう
さらに、国民年金保険料を滞納した場合、最終的には滞納処分によって財産の差し押さえがされてしまう場合があります。
詳しくは次の項目で解説します。
3.財産の差し押さえまでの流れ
滞納処分によって財産が差し押さえられてしまうと、滞納者の生活に大きな影響が生じてしまいますので、そうなる前に適切に対処する必要があります。
以下では、どのような場合に財産の差し押さえが行われるのか・差し押さえの対象となる財産とは何か・財産の差し押さえに至るまでの流れについて解説します。
(1) 財産の差し押さえが行われるケース
法律上は、督促状により指定される期限までに国民年金保険料を納付しない場合には、国税滞納処分の例により強制徴収を行うことができます(国民年金法96条4項)。
国民年金保険料を滞納している人の数が多いため、徴収の事務が間に合わず、実際には滞納者の一部に対して強制徴収が行われているに過ぎないのが実情ですが、法律的には指定期日以降いつ差し押さえられてもおかしくないのです。
なお、国民年金を運営する日本年金機構は、定期的に「国民年金保険料強制徴収集中取組期間」というキャンペーンを設定しており、この期間中は強制徴収の件数が増える傾向にあります。
特に、所得額300万円以上かつ未納月数7ヶ月以上の方は、期間中に強制徴収の対象となる可能性が高いようです。
年収が高いほど差し押さえられるという噂もありますが、これはあながち間違いではないでしょう。
(2) 差し押さえの対象となる財産
差し押さえられる可能性がある財産は、一部の差し押さえが禁止されている財産を除いて、滞納者の所有する一切の財産です。
たとえば、銀行口座内の預金・給与債権(上限額あり)・自宅の土地・建物・車・家財などが差し押さえの対象となります。
なお、差し押さえられる財産は滞納者本人の名義のものだけであり、親や家族の財産が差し押さえられるということはありません。
(3) 財産の差し押さえに至るまでの流れ
では、実際に国民年金保険料の強制徴収(差し押さえ)が行われる流れについて見ていきましょう。
①納付督励(催告状の送付など)
国民年金保険料の滞納者に対しては、まずは法的な手続きではなく、事実上の通知などによって納付を促す運用がなされています。
これを「納付督励」といいます。
納付督励は、電話や戸別訪問、催告上の送付などの方法により行われます。
特に催告状については、段階に応じてより厳しい文言のものになっていきます。
最終段階になると「最終催告状」が送付され、これ以上滞納が続けば法的手段に移行する旨が通知されることになります。
②督促
最終催告状の送付によっても国民年金保険料が納付されない場合には、法律上の措置である「督促」が行われます(国民年金法96条1項)。
督促は、督促状を送付する方法により行われます(同条2項)。
督促状には、滞納分の国民年金保険料を納付する期限が記載されています。
この期限までに滞納分を納付しない場合、その後はいつでも強制徴収の手続きを取られてしまう可能性があります(つまり、いつでも差し押さえが可能となるのです)。
③さらなる納付督励、差し押さえ予告
実務上の運用として、督促状が送付された後でも、納付督励が行われるケースが多いです。
この段階では、既に督促状で納付期限が指定されているので、一刻も早く滞納分の国民年金保険料を納付しなければなりません。
督促状で指定されている納付期限を過ぎてしまった場合、差し押さえ予告が行われます。
差し押さえ予告の通知書には、強制徴収を行う期日が記載されています。
ただし、差し押さえ予告も法律上義務付けられた手続きではないため、督促状の納付期限を過ぎればいきなり強制徴収をされてしまう可能性もあるので注意しましょう。
[参考記事]
税金滞納で差し押さえ!「差押予告書」が届いたらどうなる?
④差し押さえ
強制徴収の期日までに滞納分が納付されない場合、差し押さえが実行されます。
[参考記事]
借金滞納で給与差し押さえ!解除・回避のために必ず知っておくべき事
4.国民年金保険料を支払えない場合の対処法
所得が少なく生活に余裕がない場合など、国民年金保険料をどうしても期日までに支払えないという場合には、
①保険料納付猶予制度
②保険料免除制度
を利用することを検討しましょう。
これらの制度の利用は、住民票がある市役所や町村役場の国民年金担当窓口で申請することが可能です。
(1) 保険料納付猶予制度・免除制度
20歳から50歳未満の方で、本人・配偶者の前年所得(1月から6月の申請の場合には前々年所得)が一定額以下の場合には、申請により国民年金保険料の納付を一定期間猶予してもらうことができます。
猶予の対象となるのは、前年所得が以下で計算した金額の範囲内である時です。
(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円(※令和2年度以前は22万円)
また、本人・世帯主・配偶者の前年所得(1月から6月の申請の場合には前々年所得)が一定額以下の場合や、失業した場合などには、申請して承認されると国民年金保険料の納付を免除してもらうことができます。
免除される額は、全額、4分の3、半額、4分の1の4種類があります。
猶予・免除される金額や承認基準については、以下の日本年金機構HPをご覧ください。
参考:国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度|日本年金機構
(2) 猶予・免除の制度を利用する場合の注意点
保険料納付猶予や保険料免除を受けた期間がある場合、将来受け取ることができる老齢基礎年金の金額が減ってしまうという点に注意が必要です。
この状態を解消するには、国民年金保険料の追納を行いましょう。
保険料納付猶予や保険料免除を受けた後、10年以内であれば、猶予・免除分を追納することができます。
その場合、国民年金保険料を納付したものと取り扱われますので、将来受け取る老齢基礎年金の金額を満額に近づけることができます。
国民年金保険料の納付義務は、納付義務が発生した時から2年が経過すると時効により消滅します(国民年金法102条4項)。国民年金の未納者が多数であることから、時効期間内に強制徴収が行われない例もしばしば見受けられます。
しかし、消滅時効が完成した場合、国民年金保険料を追納することもできなくなります。その場合、将来受け取ることのできる老齢基礎年金の金額が減ってしまうことに注意しましょう。
5.差し押さえられた方・借金問題の解決は弁護士へ
国民年金は、老後の生活だけでなく、障害を負ってしまったり、万が一死亡してしまったりした場合への備えとなる大切な制度です。
そのため、国民年金保険料は滞納せずにきちんと納付しましょう。
もし国民年金保険料を支払うことができない場合は、保険料の納付猶予や免除を申請しましょう。
また、他の借金があるなどの理由により国民年金保険料の納付が難しいという場合には、泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
債務整理により他の借金を減らしたり支払い義務を免除してもらったりすれば、国民健康保険料の滞納が解消できる可能性があります。任意整理、自己破産、個人再生など、依頼者の方の状況に合わせた解決策をご提案いたします。
借金に関する相談は何度でも無料となっておりますので、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。