離婚相手に養育費の支払い能力がない場合はどうすればいい?
離婚をすることになると「離婚後、子どもが成人するまで、しっかりと養育費を払ってもらうことができるのか?」という不安を持つ方は多くいらっしゃいます。
実際のところ、養育費は、子どもが成人するまでに支払いが止まってしまうことも多く、きちんと支払ってもらうためには様々な工夫が必要です。
また、支払いが滞った場合に備えて、効果的な対処方法も知っておく必要があります。
今回は、①養育費の支払いを確実に受けるため離婚時にすべきこと、②離婚後に養育費を請求する方法、③「養育費が払えない(払わない)」と言われたときの対処法について、弁護士がご説明します。
なお、離婚後の養育費が払えないことでお困りの方は、以下のコラムをご覧ください。
[参考記事]
養育費が払えない!借金が理由で離婚後の養育費は減額・免除できる?
1.養育費は支払いの「義務」がある
親は、子どもに対する扶養義務を負っています。
未成年の子どもに対する親の扶養義務は絶対的なものであり、単に生活を助ける「生活扶助義務」ではなく、生活を保持しなければならない「生活保持義務」です。
つまり、義務者と同じ程度の生活を保障しなければなりません。
離婚したとしても親子の関係がなくなるわけではないので、離婚後に親権者とならなかった側の親も、扶養義務の履行として養育費を支払わなければなりません。
これは、借金があるからといって免除される義務ではありません。扶養義務者は、借金があっても養育費を支払う義務があるのです。
ただし、扶養義務者(養育費を支払う側)の最低限度の生活水準も同時に維持する必要があります。「養育費は、支払い能力がない人が借金をしてまで払わなければならない」ということにはなりません。
したがって、義務者が生活できなくなるほどの養育費支払い義務はありません。
養育費については、法律的に「適正な金額の相場」が決まっています。家庭裁判所が定める「養育費の算定表」と呼ばれる基準による数字です。
養育費は、基本的に子どもが20歳になる月まで、支払い義務が続きます。
相手が借金している場合、例外的に養育費算定の際に考慮される借金があります。それは、住宅ローンや車のローンなど、夫婦の共同生活について発生した借金です。
特に、妻と子どもが住んでいる家の住宅ローンを夫が支払っている場合には、そうした支払いを「特別経費」として相手の収入から一部差し引いて計算する運用となっています。
2.養育費の支払いを受けるため離婚時にすべきこと
離婚時にいったん養育費の取り決めをしても、後日支払われなくなってしまうケースが多いことが実情です。
では、確実に支払いを受けるためには、どのような工夫をすべきなのでしょうか?
(1) 書面で合意する
まずは、離婚時に養育費の取り決めを書面に残すことです。
離婚時に養育費の取り決めをしなかった場合でも、離婚後に養育費の請求はできます。
しかし、取り決めをしなかったり、単なる口約束を交わしたりしただけでは支払われなくなる可能性が高いため、離婚時には、相手と話し合って養育費の金額や支払い方法、支払い時期などについて細かく取り決めをしたうえで、「協議離婚合意書」を必ず作成しておきましょう。
また、協議離婚をするときには、単なる協議離婚合意書にとどまらず、公正証書にしておくべきです。
公正証書とは、公証人が公文書として作成する書面です。非常に信頼性が高く、紛失や偽造変造などのおそれがありません。
離婚公正証書を作成して「強制執行認諾条項」をつけておくと、後日債務者が金銭債務を支払わない場合において、債務者の財産や債権を強制執行(差し押さえ)することができます。
離婚後に養育費を請求できる期間は、基本的に子どもが20歳になるまでの間ですが、いったん決まった養育費の金額が不相当になったケースでは金額の変更をすることもできます。
たとえば、離婚後相手の収入が大きく上がった場合や、養育者が失業した場合、あるいはどちらかが再婚した場合などには、事情もかなり変わるため金額を変更すべきでしょう。
この場合、相手方とコンタクトを取り、養育費についての新たな取り決め書を作成して公正証書にします。こうすれば、相手が不払いを起こしたときでも、変更後の養育費の金額によって計算し、相手の資産を差し押さえることができます。
(2) 調停離婚をする
公正証書を作成するためには、相手の協力も必要です。
しかし「強制執行認諾条項つきの公正証書は作成したくない」と言われることや、養育費の金額に合意してもらえないこともあるでしょう。
そのようなときには、家庭裁判所で離婚調停をするのも一つの方法です。
離婚調停では、裁判所の調停委員が間に入って話を進めてくれるので、夫婦が直接顔を合わせて話合いをする必要がありません。
調停では、基本的に、上記でご紹介した養育費の算定基準に従って養育費を決定することになります。
調停が成立すると、家庭裁判所で「調停調書」が作成されます。調停調書にも、離婚公正証書と同様に強制執行力が認められるので、相手が支払いに応じない場合には、調停調書を使って相手の財産や給料を差し押さえることができます。
3.離婚後に養育費を請求する方法
では、離婚時に養育費の取り決めをしなかった場合、離婚後はどのような手順で養育費を請求すれば良いのでしょうか。
離婚後に養育費の話合いをするときには、基本的にメールや電話などで事前連絡を入れて話合いをします。
合意に至れば、養育費についての取り決め書を作成して公正証書にしましょう。この点は離婚前の取り決めと同じです。
ただ、実際には離婚から時が経過すると、相手は養育費の取り決めに応じないことが多いため、その場合には、以下のような方法をご検討ください。
(1) 養育費請求調停を申立てる
まずは、家庭裁判所で「養育費請求調停」をすることが考えられます。
養育費請求調停をすると、離婚調停と同じように、調停委員を介して相手と養育費についての話合いをすることができます。
自分で連絡したところ無視されてしまっていても、裁判所からの呼び出しであれば、出頭して話し合いに応じてくれるケースも少なくありません。
また、子どもの成人までは養育費支払いが必要なことや、養育費の金額の決め直しが必要であることなどについて調停委員が説明してくれるため、相手も合意してくれやすいと言えます。
合意によって調停が成立すると、家庭裁判所において「調停調書」が作成されます。相手が支払いをしない場合には、調停調書によって強制執行することができます。
(2) 審判で決めてもらう
養育費請求調停をしても、相手がどうしても支払いに応じない場合や、養育費の金額についてお互いに合意ができない場合には、調停は不成立となり、「審判」という手続に移行します。
審判では、裁判所の審判官(審判を行う裁判官)が、ケースに応じた適正な養育費の金額を決めて、相手に対して支払い命令を出してくれます。
この場合も、基準となるのは、先に紹介した「養育費の算定表」の金額になります。
審判が出ると「審判書」が作成され、家庭裁判所から自宅宛に送付されます。
審判書にも強制執行力があるので、相手が審判に従わない場合には、相手の財産や給料を差し押さえて養育費を取り立てることができます。
4.養育費を払えない・払わないと言われたときの対処法
(1) 強制執行
養育費の取り決めや調停・審判などがあっても、離婚相手が「生活が苦しく、養育費を支払えない」「新しい家庭を支える必要があるから払わない」などと言い出すことがあります。
相手がどうしても払わないのであれば、「強制執行(差し押さえ)」をしなければなりません。
養育費取り立てのために有効な差し押さえ対象は、まずは「給料」です。養育費の場合、毎月の給料や賞与の2分の1まで取り立てを行うことができます。
しかも、毎月新たに申立をしなくても、将来的にわたって継続的に取り立てることができるため、手間がかかりません。
この場合、もし離婚相手の勤務先が分かっていなければ、特定する必要があります。
また、相手がサラリーマンや公務員ではない場合には、預貯金や生命保険の差し押さえも効果的です。
預貯金については、金融機関名と支店名が必要になり、生命保険については生命保険会社を特定すれば足ります。
強制執行を行うための手続きは複雑ですので、一度専門家に相談してみることをおすすめします。
特に弁護士から連絡を入れると、相手も強制執行(差し押さえ)のデメリットを現実的なものと感じ、途端に誠実な対応を見せることも珍しくありません。
制執行の前に自己破産手続きが開始されると、相手の資産はほとんどすべて(生活に必要な最低限を超える部分)がなくなってしまうので、取り立て対象の資産が失われるリスクがあります。そこで、相手が借金をしているのであれば、早めに相手の資産を探して差し押さえをした方がよいでしょう。
また、自己破産前に給料などの強制執行をしていた場合には、破産手続開始決定により、強制執行が停止される、もしくは失効してしまいます。そのため、破産手続開始決定後は、給料からの養育費支払いが止まります。
ただし、養育費は非免責債権なので、破産によっても免除されず、後日改めて取り立てることができます。
参考:自己破産しても養育費は免除・減額されない!滞納したらどうなる?
(2) 離婚相手に借金がある場合は債務整理を勧める
相手方に多額の借金があるなどで本当に養育費を支払えない様子なら、仮に強制執行をしてもお金はとれません。
そこで、自己破産や個人再生などの債務整理によって他の借金を減額・免除したうえで、養育費を支払ってもらうのも得策です。
養育費の支払いは自己破産しても免除されることはないので、滞納している養育費や、新たに発生する養育費についても問題なく請求することができます。
5.まとめ
養育費は、借金をしているからといって支払いを免れるものではありません。
子どもが成長していくための大切な権利ですので、20歳になるまで、確実に支払ってもらうべきです。
そのためには、まずはきちんと離婚時に養育費の取り決めをして公正証書または調停調書の形に残し、相手が支払いを怠った場合には、強制執行を利用することも検討すべきです。
相手が借金をしているなら、自己破産するタイミングとの関係で問題が発生するケースもありますので、専門家に相談の上、慎重に対応することをおすすめします。