借金返済 [公開日]2020年1月17日

生活保護費の返還金を払わずにいたら督促状が届いた!?

日本国憲法では、第25条には次のように書かれています。
「(第1項)すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。(第2項)国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」

この実現を目指す手段の1つが「生活保護」です。
憲法第25条の理念に基づいて「生活保護法」というものが作られており、生活に困窮している人はこの法律に基づいて公的扶助を受けることが出来ます。

生活保護の制度は、社会のセーフティネットとして欠かせない役割を担っているのです。

しかし、生活保護を受給している人のところに、行政から「返還金を支払ってください」と連絡が来ることがあります。
「公的扶助を支給されている側がお金を払う」ことに納得出来ない人もいるかもしれません。

一体、返還金とはどういったものなのでしょうか?また、なぜ支払わなければならないのでしょうか?
そして、支払わなければ、どうなってしまうのでしょうか?

1.生活保護費の返還金について

(1) 返還金とは?

生活保護は、何らかの事情で十分な収入を得られない人に現金やサービスを支給して、健康で文化的な最低限度の生活を送れるようにするための制度です。
したがって、もし、十分な収入を得ているにも関わらず生活保護を受け取っていた場合、それは「不正受給」となってしまいます。

生活保護の原資は税金であり、生活保護を不正に受給するということは、血税を不正に受け取るということに他なりません。
不正受給が発覚した場合、生活保護法の規定に基づいて「徴収金」というものが不正受給者に請求されます。

この徴収金の規定は厳しいもので、その後の生活保護の支給額から徴収金相当額を毎月少しずつ天引きされることもあり得ます。

しかし、生活保護を受けている人が、たまたま生活保護の基準より多くの収入を得て、それをケースワーカーに報告するなどの手続が遅れてしまうなど場合もあるでしょう。

そういった、悪質性がないと見られるケースでは、徴収金ではなく「返還金」を納めるように督促が来るのです。

返還金の督促とは、平たく言えば「多く貰った分の生活保護費を行政側に返してください」という請求です。
返還金は徴収金と違って生活保護費から天引きされず、請求書などによる請求しかしてはいけないことになっています。

なお、かつては返還金をも天引きしていた自治体が複数あり、問題になりました。
もし行政から返還金を生活保護費から天引きします」と言われたら、それは違法です。弁護士に相談するといいでしょう。

(2) 返還金が適用される条件

悪質な不正受給は徴収金、そうでない場合は返還金が適用されますが、もう少し具体的に説明します。

以下のようなケースでは、返還金が適用される可能性が高いです。

  • 不正受給する意図がなかった
  • 自分から収入を申告した
  • 収入を申告出来ない理由があった
  • 福祉事務所による調査に誠実に対応した

例えば「交通事故に遭った場合」などがイメージしやすいでしょう。

交通事故で示談金や賠償金をもらった場合、生活保護受給者にとってそれは収入と同一視されます。
収入があれば申告しなければなりませんが、本人が入院しているなどの事情で申告が遅くなることもあるでしょう。

その間に生活保護費が振り込まれてしまうと、「収入があったのに申告せず生活保護費を受け取った」ことになってしまいます。

後で本人が福祉事務所に「示談金を受け取ったのですけど…」と申告したようなケースでは、徴収金を適用するのは厳しすぎます。
このようなケースでは返還金が適用されることが多くなるでしょう。

上記の他にも様々な例が考えられますが、「自分から申告する」「福祉事務所の調査に誠実に対応する」ことを心がければ、徴収金よりも返還金が適用される可能性が高くなるはずです。

【返還金と徴収金を見分けるには?】
自分のところに督促が来ても、一体それが返還金なのか徴収金なのかわからない人もいるかもしれません。
そういった場合は、請求書などに書いてある法律の条文の番号を見ればわかります。
・返還金…生活保護法第63条
・徴収金…生活保護法第78条
どちらの条文に基づいた請求なのかがわかれば、すぐに見分けることができます。

(3) 返還金の額

生活保護法第63条には「受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額」という記載があります。

基本的には不正受給してしまった生活保護費を全額返さなければなりませんが、実際には請求された額を支払えば足ります。

また、医療費も生活保護から出ているので、その分も返還しなければなりません。

いずれにしろ、あくまで生活保護で受け取った部分のみが返還の対象となります。

一方で、不正受給の要因となった収入(前述の例で言えば、交通事故の示談金等)自体は、返還金制度による返還の対象となりません。
しかし、もし、徴収金が適用されてしまった場合は、受け取った金額に加えて更に4割増しで請求されることもあります。

徴収金になることを避けるためにも、収入の申告は適切に行なって下さい。

2.生活保護費の返還を無視するとどうなる?

不正受給をすると返還金の請求が来ることは、これまで述べてきた通りです。
それでは、この請求を無視していると、一体どうなるのでしょうか?

詳細は自治体によって異なりますが、ここでは1つの例を挙げていきます。

(1) どの程度で督促が来るか

最初の督促が来るのは、不正受給が発覚してからです。
発覚してからも、不正受給が悪質なのかそうでないか、返還金を適用すべきか徴収金を適用すべきかなどを、行政側が判断するのに時間がかかります。

「発覚してから何日で督促が来るか」については、自治体ごとまたはケースバイケースで違うため、一概には言えません。

(2) 督促の流れ

大まかですが、督促は以下のように行なわれます。

①通知や請求書の到着

行政側から受給者宛に、返還金があることの通知や、返還金を納付するための請求書が届きます。

②督促や催告

①の書面で示した納期限から半月~1ヶ月以上経っても支払っていない場合、追加で督促状や催告書が届きます。
このとき、督促手数料が加算されることもあるようです。

③以降も継続して無視した場合

自治体によっては、行政側の担当者が自宅にまでやってきて、生活の実態や財産状況などを調べることもあるようです。
一括返還が困難な場合に、分割払いをするように指導される場合もあります。

それでもなお滞納を続けていると、行政側が本格的に処分を検討し、裁判所に訴訟を提起されることもあり得ます。

訴訟に負けて判決を取られた場合は、次に強制執行が行なわれ、財産を没収されるかもしれません。

3.返還金の請求を受けたときの対処法

ここからは、現実的に返還金が支払えない人のために、対策を考えていきます。

(1) 分割払い

行政側に事情を説明することで、分割払いを認めて貰えることがあります。

そもそも、生活保護を受けているということは、それだけ経済的に苦しい筈であり、行政側もその事情は汲んでくれます。
毎月少しずつ支払って解決していきましょう。

ただし、もし長期間支払いを滞納する等した場合は、分割払いが取りやめになって、改めて一括払いを請求されるかもしれません。

分割払いを認めて貰ったら、忘れないように支払いを続けて下さい。

(2) 免除

生活保護法第80条には、「返還の免除」に関する決まりがあり、法律上は、免除も可能ということになっています。

しかし、果たして現実的に免除して貰えるかどうかは、話が別です。
自治体によっては、「支払いが出来ない状態が10年続いたら、免除することも出来ます」というように定めているところもあるようです。

免除を申請しても、「分割払いなら支払えますよね?」と行政側に言われ、なかなか免除して貰えないことも考えられます。

これについては、地域差などもあるので、生活保護関連に詳しい専門家に一度相談してみることをお勧めします。

(3) 時効

返還金にも、消滅時効はあります。
生活保護受給者が不正に保護を受けた日の翌日が起算日で、そこから数えて5年で時効を迎えます。

しかし、「じゃあ、5年間支払わなければ時効で消える!」と喜ぶのは早計です。
通常、行政側は、返還金の請求権が時効にかからないように、様々な方法を実行します。

例えば、返還金の支払請求の訴訟を提起され、確定判決を取られると、時効中断後の時効期間が5年から10年に延長されてしまいます。

加えて、裁判に負けてしまえば、そのまま強制執行を受けて財産を没収されることすらあり得ます。
そのため、時効が成立する可能性(何事もなく時効期間が経過する可能性)は、行政側が余程怠慢でない限り、現実的にはかなり低いかと思われます。

4.返還金の督促は無視しないことが大切

生活保護の返還金は、支払わないで放置していると、最悪、裁判に発展することもあり得ます。
返還の免除や時効消滅も、可能性はゼロではありませんが、実際には、かなり難しいと言わざるを得ません。

返還金の督促が来たら無視しないで、出来ればすぐに支払うことをお勧めします。

一括払いが難しい場合は、分割払いを認めて貰えることもあるので、ケースワーカーなど行政側の担当者に相談してみましょう。
行政側も、出来るだけ無理なく返還金を支払えるように配慮してくれる筈です。

無視や滞納は最悪の選択肢だと考えて、とにかく相談することが大切です。

また、もし生活苦の原因が借金だという場合は、借金問題を解決するために、弁護士に相談してみることもお勧めです。

弁護士に相談をすれば、借金問題の解決手段である債務整理を検討してくれるでしょう。

[参考記事]

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