執行官送達で裁判所から書類が届いたらどうなる?
皆さんは「執行官送達」という言葉をご存知でしょうか?
借金の滞納があり、督促なども無視しているという方は、一定数いらっしゃいます。
しかし、無視をしていると、いつかは裁判を起こされてしまう可能性が高いです。
それでも、裁判所からの通知を「受け取らなければ大丈夫」と考えている人もいるかもしれません。しかし、実際はそれほど甘くありません。
裁判における重要書類を確実に届ける方法の1つとして行われる「執行官送達」が用いられた場合は、受け取らざるを得ない可能性が高くなります。
今回は、執行官送達についての概要や、どのようなケースで実施されるのか、ペナルティなどはあるのか、受け取った後の対処法までわかりやすくご説明します。
1.執行官送達
(1) 執行官送達とは
民事訴訟では、裁判を行う際、必ず裁判書類を相手方に渡さなければいけません。
もし、相手が裁判を起こされていること自体を知らなければ、反論の機会も与えられぬまま判決に至ってしまいますが、このような事態は当事者間の不公平を招きます。
そこで、民事訴訟では「交付送達の原則」があり、基本的には、相手方への直接の書類の手渡しが必要なのです。
もっとも、実際には、相手方に直接手渡しすることは難しいケースも多いため、差し置き送達や書留郵便による送達方法などが規定されています。
その中の1つの制度として存在するのが、執行官送達です。
通常、裁判書類であっても、書留郵便などで記載された住所に郵便局員が届けますが、執行官送達の場合は、執行官と呼ばれる地方裁判所所属の公務員が、指定された住所に直接行って届けます。
(2) 執行官送達が行われるまでの流れ
直接手渡しが難しいとしても、書留郵便にて送達を行うことはそれほど難しくないように感じます。
なぜ、わざわざ地裁の公務員が足を運んでまで、送達を行なうのでしょうか。
裁判は、原則として、相手方に現実に裁判書類が届かないと始めることが出来ません。
そのため、有効な住所であっても、相手が受け取り拒否をしているケースでは困った事態になってしまうのです。
中には、裁判所からの郵便物だとわかって、居留守を使う人もいます。住所は合っていて、その住所に住んでいることは明らかであるのに、「いつも家にいない」「居留守を使う」「鍵をかけて受け取り拒否をする」などの問題がある場合に、執行官送達が実施されます。
まず、通常は、郵便書留で書類が送付されます。もっとも、相手方が家に居ない場合には、通常の宅配と同じように不在票が入れられ、これに連絡しない限りは受け取ることは出来ません。
しかし、これでは、受け取りたくないと思っている方は、いつまで経っても受け取らずに済んでしまいます。
そのため、次の手段として、休日送達があります。
相手方が家にいる確率が高いであろう休日に書類を送付して貰えますが、これも、受け取り拒否の場合は受領して貰えません。
この次にとられる措置が、付郵便送達です。これは、住所に実際に名宛人が居住していることを確認してから実施されます。
例えば、表札があるか、公共料金のメーターが回っているか、近所に住んでいるかどうかの聞き取り調査を行うなどの確認作業を行ないます。
これらの調査から、その住所に相手方が現に住んでいると推認できる場合に、付郵便送達が行なわれます。
付郵便送達では、書留郵便を送るだけで、相手方に書類が届いたもの(相手方が書類を受け取ったもの)とみなされます。執行官送達の場合でも、付郵便送達が行われるケースが多く、この場合、相手方が居留守を使っても、執行官が書類を発送した時点で、送達が完了したものとみなすことが出来ます。
ちなみに、相手方の現住所すら不明の場合は、公示送達という方法が実施され、裁判所に書類を保管している旨を掲示し、掲示から2週間の経過で、送達完了の効果を認める(相手方に送達がされたものとみなす)方法となります。
この方法は、名宛人が送達の事実を知ることが出来る可能性がかなり低いため、最終手段と考えられています。
(3) 執行官送達が用いられるケース
それでは、具体的にどんなケースで、執行官送達が実施されるのでしょうか。
借金が原因で執行官送達が行われる場合、考えられる内容としては、支払請求の裁判や、支払督促が申し立てられたケースが挙げられます。
この場合、相手に裁判書類を届けなければいけないため、通常の方法では相手方に届かなかった場合に、執行官送達が用いられることがあります。
これらの裁判等は、滞納している借金を強制的に回収するための手続です。
つまり、放置して、裁判が始まり、何の反論もしなければ、原告(債権者)の言い分を全て認めたものとみなされ、原告の主張する内容通りの支払命令(判決)が下ります。
判決や支払督促等の債務名義を取得すると、債権者は、強制執行に移ることになりますが、強制執行で差し押さえが出来るのは、預貯金、給与、不動産、その他の換金できる資産(自動車、株式、保険etc)です。
このうち、給与差押えの場合は、借金全額が充当されるまでの間、原則として給料の1/4が、毎月差し引かれ続けます(これに対し、預金差押えの場合は、あくまで差押命令が銀行に届いた時点での預金のみが差押えの対象となり、その後に口座に入金された預金を差し押さえるには、新たに差押手続を取らなければなりません)。
[参考記事]
借金滞納で給与差し押さえ!解除・回避のために必ず知っておくべき事
なお、(控訴しなければ)判決の言い渡しから2週間ほどで判決が確定し、確定判決を用いた強制執行が可能となってしまいます。
強制執行をするための裁判は、突如行なわれるのではありません。それまでに督促状などで支払いを受けてきたにも関わらず、これを無視して支払を行なわなかったことが引き金です。
借金の返済を遅滞して、期限の利益を失うと、借金の元本全額に加えて、遅延損害金も直ちに支払わなければいけなくなってしまいます。
[参考記事]
強制執行に必要な債務名義とは?取得されてしまった場合の対処法
2.執行官送達を受けたことのペナルティ
それでは、執行官送達が行なわれたことで、ペナルティ等はあるのでしょうか。
結論から言えば、執行官送達にしたからといって、通常の郵便送達と比べて何か特別なペナルティが課されるなどということはありません。また、居留守を使って受取りを拒否したからといって、その後の裁判で不利になるということはないでしょう。
もっとも、休日送達や執行官送達などを利用すると、その分の費用が余計にかかります。これは、その後の裁判にて請求されることになるでしょう。
3.執行官送達で書類を受け取った後の対応
最後に、執行官送達で裁判書類を受け取った後の対応方法をお伝えします。
(1) 書類の内容を確認し、弁護士に相談
裁判所から書類を受け取ったら、すぐに書類の内容を確認してください。
複数の借入先から借金を行い、返済していないような場合は、まずは、一体どこの債権者が裁判を起こしたのかを確認しましょう。
内容を確認した後も、そのまま放置してはいけません。どうしたら良いかわからず、見なかったことにしたい、という方もいますが、放置していても事態は悪化するだけです。
裁判所から書類を受け取り、内容を確認したら、出来るだけ早い段階で弁護士に相談して下さい。強制執行をストップするための対応方法をアドバイスしてくれるでしょう。
[参考記事]
裁判所から届く「特別送達」にはどう対応すればいい?
(2) 債務整理で強制執行を止める
裁判で判決が確定する前であれば、債務整理を行なうことで裁判をストップ出来る可能性があります。
債務整理にはいくつかの種類がありますが、それほど借金が大きくない場合や1つの借入先の支払い負担を軽くすればなんとか返済出来るという場合は、「任意整理」という手続が向いています。
利息を法定利率に引き直し、借金総額全体から減額することができます。
これに対し、借金額が大きく、任意整理では解決が難しい場合は、住宅ローンの返済を続けて自宅は残したまま、住宅ローン以外の借金を概ね5分の1程度まで減額して分割弁済する「個人再生」や、手持ちの財産を債権者に配当した上で、残った借金全体の免除を裁判所で認めて貰う「自己破産」の選択肢もあります。
判決が確定してしまうと、任意整理で対応することは難しくなりますので、出来るだけ早い段階で弁護士に相談することが大切です。
借金問題を根本的に解決するためには、借金を全て支払って清算するか、それが難しいならば、専門家の力を借りて減額や免除手続が出来る債務整理を検討することがお勧めです。
債務整理は、メリットだけでなくデメリットもありますが、現状よりも生活が楽になるケースが多くあります。
4.借金の滞納で裁判を起こされたら弁護士に相談を
借金の滞納は、放置していても何も良いことはありません。返済が出来ないならば、何らかの対応をする必要があります。
先にご紹介した債務整理を行なえば、借金の減額や免除を行なうことが出来るため、これ以上問題を膨らませずに済むでしょう。
借金が返済出来なくなり、執行官送達等で裁判書類を受け取ってしまったら、すぐに弁護士にご相談下さい。借金問題は、弁護士と一緒に解決していくことがお勧めです。