破産者マップ・モンスターマップとは|自己破産は周囲にバレる?
重い債務負担を解消し、生活を再建するために有効な手段となる「自己破産」ですが、借金や自己破産をした事実を周囲に知られたくないと考える方は非常に多いです。
一時期、「破産者マップ」や「モンスターマップ」といった、破産者に関する情報をデータベース化したウェブサイトが存在しました。
これらは一度閉鎖されましたが、2022年6月に新たな破産者マップが出現しています。
こうしたサイトが存在し得ることは、自己破産を躊躇する要因になってしまうかもしれません。
借金などの事実を周囲に知られたくない方は、どのような形で債務整理を行うかについて、一度弁護士へのご相談をお勧めいたします。
今回は、破産者マップ・モンスターマップ事件の概要や、自己破産をすると周囲にバレてしまうのかどうかなどについて解説します。
1.破産者マップとは?
「破産者マップ」とは、破産者・再生債務者に関するデータベースサイトです。
(1) 破産者マップに掲載されていた内容
最初に破産者マップが公開されたのは、2018年12月頃のことです。
その後、2019年3月に入ってからインターネット上で炎上騒ぎとなり、同月19日の未明には、破産者マップが閉鎖されるに至りました。
そして、2022年6月には、2009年から2018年までに自己破産をした破産者の情報が掲載されている新しい破産者マップが出現しています。
この破産者マップでは、情報の削除に6万円〜12万円のビットコインの支払いを要求しています。
破産者マップでは、破産手続きを経て債務を免責された者、および再生手続きを経て再生計画に基づく弁済を開始した者についての情報を、官報の記載を基にデータベース化しています。
官報には、破産者・再生債務者の名前・住所・破産等の日時・破産等の理由などが掲載されますが、破産者マップではこれらがまとめて閲覧できる状態になっていたのです。
さらに破産者マップでは、破産者・再生債務者の住所がGoogle Mapに関連付けされています。
例えば、自分が住んでいる住所の近辺をGoogle Mapで表示すれば、その地域に住む破産者・再生債務者の氏名や住所を簡単に把握できてしまうのです。
破産者マップの公開は、短期間でも多大な社会的影響を及ぼすことが窺えます。
(2) 過去の破産者マップによって発生した被害
過去の破産者マップはインターネット上で多くの人々の興味を引き、一時期は1時間当たり230万アクセスを集めていたことが、当時の運営者のTwitter投稿によって明らかにされています。
自己破産や個人再生は、法的に認められた手続きであるものの、社会的にはマイナスの印象を持たれることが多いのが実情です。
そのため、過去に自己破産や個人再生をした人々は、破産者マップの公開によって周囲の人々にその事実を知られ、誹謗中傷を受けることになった可能性があります。
実際に、破産者マップの運営者に対しては、掲載情報の削除請求が殺到したうえ、掲載対象者が損害賠償請求訴訟を提起するに至りました。
また、破産者マップに掲載された情報を削除してほしい破産者・再生債務者の弱みに付け込んで、本来無料である削除請求を行うに当たり、金品を要求する詐欺業者も発生しました。
2.モンスターマップとは?
破産者マップの反響を受けて、2019年9月頃には、破産者マップの類似サイトである「モンスターマップ(Monster Map)」が公開されました。
モンスターマップでは、掲載対象者を「破産者」などと明示していない点や、サイト自体が「フィクション」であるとされていた点などが破産者マップと異なります。
しかし、モンスターマップに掲載されている情報の内容は、破産者マップとほぼ同じであったことから、破産者マップを模倣して制作されたサイトと考えられます。
その後モンスターマップは、2020年8月に閉鎖されるに至りました。
3.破産者マップ・モンスターマップの法的な問題点
破産者マップ・モンスターマップのように、破産者等の情報を無断で掲載するウェブサイトには、個人情報保護法違反およびプライバシー権の侵害に関する法律上の問題点があります。
(1) 個人情報保護法違反
個人情報保護法23条1項では、事業者に対して、保管する個人データを本人の同意を得ずに第三者へ提供することを、原則として禁止しています。
「個人データ」とは、個人情報データベース等を構成する個人情報のことです(同法2条6項)。
データベース上の破産者等に関する情報は個人データに該当するため、事業者が第三者に対して提供する際には、原則として本人の同意が必要になります。
破産者マップやモンスターマップは、破産者等に無断でその情報を掲載しているため、個人情報保護法違反に該当する可能性が高いです。
実際に、破産者マップの運営者に対しては、個人情報保護委員会による行政指導が行われました。
(2) プライバシー権の侵害
破産者等の情報をデータベース化して、一般公衆に向けて公開することは、破産者等本人のプライバシー権の侵害に該当する可能性があります。
破産者や再生債務者に関する情報は、官報によって公開されたものです。
しかし、公開情報であるとしても、その情報をみだりに再配布することは、プライバシー権の侵害を構成する場合があります。
この点について参考となるのが、犯罪の前科に関するプライバシーが問題となった、最高裁昭和56年4月14日判決です。
犯罪の前科は、公開の刑事裁判によって言い渡される有罪判決によって発生するため、検索は困難であるものの、公開情報であると言えます。
最高裁は以下のように判示し、「プライバシー権」という言葉は避けたものの、前科等をみだりに公開されない法律上の利益を肯定しました。
「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」
自己破産や個人再生は犯罪ではありませんが、社会的にマイナスのイメージで捉えられることが多い点を考慮すると、前科等と同様に「人の名誉、信用に直接にかかわる事項」と評価できます。
また、検索困難な公開情報である点についても、前科等と自己破産や個人再生の事実は類似しています。
上記の各点を踏まえると、自己破産や個人再生をした事実をみだりに公開されないことは、法律上の保護に値する利益であると考えられます。
したがって、破産者マップやモンスターマップによる破産者等の情報のデータベース化は、上記利益の侵害に当たる可能性が高いです。
4.自己破産をすると周囲にバレてしまうのか?
破産者マップやモンスターマップは既に閉鎖されているとはいえ、周囲にバレることを恐れて、自己破産をすることを躊躇してしまう方は非常に多いです。
実際に自己破産をした場合、周囲の人に自己破産の事実がバレるきっかけとしては、どのようなものが考えられるのでしょうか。
(1) 自己破産の事実は官報に掲載される
前述のとおり、自己破産の事実は、政府発行の機関紙である官報に掲載されます。
官報は誰でも入手できますが、日常的に官報を閲覧している人はほぼいません。
業務上の理由で官報を閲覧することがあるとしても、最初から探すべき情報が決まっていて、その情報を見つけるためだけに閲覧するケースがほとんどです。
また、官報掲載情報を検索できるような機能は、(破産者マップ等の私的なサイトを除けば)提供されていません。
したがって、官報の記載から自己破産の事実が周囲にバレてしまう可能性は、限りなく低いと言うべきでしょう。
[参考記事]
自己破産・個人再生で官報に載るとどうなる?
(2) 自己破産が周囲にバレるきっかけ
自己破産の事実が周囲の友人や近隣住民などにバレるとすれば、官報への掲載ではなく、以下のきっかけによるケースが多いと考えられます。
ただし、いずれのきっかけについても、自己破産をしたという事実の確証にはならないため、それほど気にする必要はないでしょう。
自宅や車など、目立つ財産が処分された場合
自己破産をすると、債務者(破産者)が所有する処分価値のある財産は、一部の自由財産を除いて処分されてしまいます。
自己所有の自宅の土地・建物や自動車なども、破産手続きによる処分の対象です。
例えば突然引っ越しが決まったり、自動車が処分されたりすると、周囲の友人や近隣住民からも、その事実を確認することができるケースがあります。
その場合は、自己破産によって財産が処分された可能性を疑われることがあるかもしれません。
資格制限により一時的に屋号を取り下げた場合
自己破産をすると、一部の職業については資格制限が発生します。
特に、個人事業主として独立している以下の士業の方は、資格制限に伴い、一時的に屋号を取り下げることを強いられます。
弁護士・弁理士・公認会計士・税理士・司法書士・行政書士・土地家屋調査士・社会保険労務士・通関士など
破産免責が確定した場合などには、資格制限が解除されるため、再び屋号を構えることができます。
しかし、一時的に屋号を取り下げていた事実から、自己破産の事実を疑われることがあるかもしれません。
[参考記事]
自己破産と仕事の関係|制限を受ける職業・資格一覧
【自己破産を家族に秘密にすることは難しい】
自己破産の事実を家族にまで秘密にすることは、現実的にかなり難しいと言わざるを得ません。家全体の家計の状況を裁判所に報告する必要がある、大きな財産が処分される、自己破産後数年はクレジットカードを使えないなど、家族が自己破産を知るきっかけは山ほどあるからです。
借金や債務整理の事実をどうしても家族に秘密にしたい場合には、任意整理など他の債務整理手続きを検討すべきでしょう。
5.自己破産をすべきかどうかは弁護士にご相談ください
自己破産が周囲にバレるリスクは低いですが、任意整理などと比べれば高いと考えられます。
債務整理を行う際には、各手続きのメリット・デメリットを比較し、ご自身の状況に合った手続きを選択することが大切です。
弁護士にご相談いただければ、依頼者のご状況を丁寧にヒアリングしたうえで、最適な債務整理手続きは何かについてアドバイスいたします。
借金の負担が重く、債務整理をご検討中の方は、お早めに弁護士までご相談ください。