債務整理 [公開日]2018年6月11日[更新日]2021年12月10日

債務整理をすると生命保険はどうなる?

多額の借金を抱えている人にとって、債務整理は非常に有用なものです。

しかし、債務整理の中には、自分の財産を一部処分しなければならないケースや、自分の財産額によって減額率が下がってしまうケースがあります。
財産が多い人は債務整理を躊躇うかもしれません。

「財産」というと、現金や預金、不動産、車などというイメージがあるかもしれませんが、目に見えないサービスである「生命保険」の解約返戻金も立派な財産の1種です。

「いざというときの備えである保険なのに、債務整理のせいで解約されたら困る!」
このような不安をお持ちの方のために、債務整理における生命保険の扱いについて解説していきます。

1.債務整理の際に生命保険が問題となり得る理由

債務整理とは、裁判所を通すか、債権者と債務者による話し合いを経て、借金を減免・返済期間を再調整するものです。

債務整理が認められるのは、基本的に「このままではどうしても借金を支払えない」といった場合のみです。
手持ちに現金がなくて支払えない場合でも、現金以外の財産を換金するなどで支払える状態であれば、返済資金を捻出することができると考えられ、換金を求められることがあります。

そして「現金以外の財産」には、生命保険も含まれます。
生命保険には「解約返戻金」がある場合があり、これが債務整理の際に「財産」としてカウントされるのです。

しかし、実際に保険を解約しなければ、解約返戻金として現金をもらうことは基本的にできません。

このため「債務整理をする際は解約返戻金を返済資金に充てるために、保険を解約しなければならないの?」という疑問が湧いてくるでしょう。

実際に解約の必要があるのかどうかを、次の章以降で説明していきます。

2.解約の可能性がある生命保険

実は債務整理をしても、生命保険の解約が必須というわけではありません。いくつかの限定的なケースに関してのみ、保険の解約が必要となります。

(1) 積立型(貯蓄型)保険

保険には「掛け捨て型」と「積立型」があります。
債務整理のときに問題となるのは、「積立型」の生命保険です。

掛け捨て型は、その名の通り解約しても解約返戻金がゼロまたは少額に過ぎません。
貯蓄を目的としたものではなく、財産になりにくいため、債務整理のときに問題となるケースはほとんどないのです。

一方の積立型は、資産形成も視野に入れた保険です。満期時などの解約返戻金の額が比較的高額になります。

このため、債務整理の際に解約の可能性が上がってしまうのです。

(2) 解約返戻金が高額

「積立型で解約返戻金のある保険は全てアウト」というわけではありません。
解約返戻金のある保険であっても、返戻金額によっては問題にならない場合があります。

各裁判所の運用にもよりますが、債務整理のときに解約の可能性があるのは、「債務整理の時点で解約返戻金の総額が20万円を超える場合」がほとんどです。

個々の保険の解約返戻金の額を合算して20万円を超えなければ、解約を迫られることは基本的にありません。

(2) 契約者名義と支払者が違う場合の問題

原則として、解約返戻金を受け取るのは保険契約者(名義人)のみです。
例えば夫が契約し支払いをしている保険の保険金受取人が妻である場合、妻が破産をしても夫の保険には影響ありません。

しかし、生命保険などの場合、契約者と実際に保険料を支払っている人が違うケースがあります。

例えば、契約者の名義を子供にしているものの、保険料を払っているのが親であるケースです。

債務整理のときに問題の対象となるのは、原則として本人名義の保険です。
あくまで契約者の名義を参考にして「誰の財産であるか」が決定されますので、お金を積み立てたのは親であっても、その生命保険は破産者本人(子供)の財産とみなされ、解約の必要が生じる可能性が高いでしょう。

契約者と支払者が異なるケースの判断は非常に複雑なので、名義人・支払元の銀行口座名義などを確認すると共に、一度弁護士までご相談ください。

3.債務整理の種類によって異なる生命保険の扱い

債務整理には「任意整理」「個人再生」「自己破産」があります。

どの債務整理を選ぶかで生命保険の扱いに影響が出てくるので、それぞれの違いをご紹介します。

(1) 任意整理

任意整理は債権者と債務者が直接交渉を行い、将来の利息のカットや返済期間のリスケジュールを行うものです。

この場合、債権者が「返済のために保険を解約して解約返戻金を支払いに充ててください」と主張することはまずありません。
基本的に保険を解約する必要はないでしょう。

(2) 個人再生

個人再生は、裁判所に申立てを行うタイプの債務整理です。
個人再生に成功すると、借金を大幅に減額してもらった後で、その借金を原則3年の分割払いにしてもらえます。

個人再生の場合、生命保険を解約する必要も、財産が裁判所によって処分されることもありません。

しかし、個人再生には「清算価値保障の原則」というものがあります。
これは「自己破産をしたときに債権者へ配当される金額以上は、個人再生でも弁済しなければならない」という規定です。

この原則があるため、解約返戻金が高額な生命保険がある場合は、個人再生後の支払額が上がってしまうことが予想されます。

解約の必要がないのは安心ですが、支払額の部分で問題が出てくる可能性があるので注意が必要です。

(3) 自己破産

自己破産も裁判所に申立てをして行う債務整理です。
自己破産の場合、当面の生活に必要な分を除いて、申立人の財産が裁判所によって換価・処分・債権者へ配当されます。それでも残った借金については、支払義務が免除されます。

この「処分される財産」には、生命保険も含まれます。

前述したように、解約返戻金の総額が20万円を超える場合は、生命保険を解約して換金する必要が出てくるでしょう。

4.自己破産で保険を解約したくない場合の対処法

このように、解約返戻金の総額が20万円以上ある状態で自己破産をすると、生命保険を解約する必要が発生します。

しかし、持病があるなどで保険を解約したくない人や、一度解約すると再加入が難しい事情がある人もいるでしょう。

どうしても保険契約を継続したい場合は、どういった対応をするべきなのでしょうか?

(1) 自由財産の拡張を裁判所に認めてもらう

自由財産とは、自己破産をしても手元に残せる財産のことです。
基本的には以下のものが該当します。

  • 99万円までの現金
  • 生活必需品(家具家電、調理器具、寝具や衣類など)
  • 新得財産(破産申立後に得た給料など)
  • その他、評価額20万円以下の財産(裁判所によって異なる)

この中に含まれていない財産について、どうしても手元に残したいのであれば「自由財産の拡張」を裁判所に求めることになります。

ただし、自由財産の拡張として保険契約の継続を認められるのは、特殊な事情があるケースに限られます。
例えば保険から出るお金で生活している場合や、高齢や持病で保険への再加入が困難な場合などです。

解約によって生活に支障が出るような理由が必要なので、弁護士に相談して見込みがあるかどうか予測してもらうことをおすすめします。

[参考記事]

自由財産とは|自己破産しても財産が残せる!拡張は可能か?

(2) 契約者貸付を利用する

解約返戻金の範囲で保険会社からお金を貸してもらうことを「契約者貸付」と言います。
これは「解約返戻金の前払い」と判断され、自己破産の財産評価では「解約返戻金の額から契約者貸付を受けた額を引いた額」が用いられます。

そのため契約者貸付を利用すれば、保険の解約を回避できる可能性があります。

例えば解約返戻金の額が50万円だったとします。
このまま自己破産をすると解約の必要がありますが、契約者貸付を利用して40万円借りたとします。

そうすれば解約返戻金の額は「50万-40万」の結果である10万円となり、自己破産しても保険を解約する必要がなくなります。

ただし、自己破産直前に契約者貸付を利用すると、債権者に配るべき資産を意図的に減らしたとして場合によっては免責に影響が出るおそれがありますので、独断では行わず弁護士に相談するようにしてください。

(3) 解約返戻金相当額を納付する

生命保険の解約返戻金相当額の現金を納付することで、生命保険の解約による換金を回避できる可能性があります。

資力がある場合は、この方法を実行するのもご検討ください。

[参考記事]

自己破産をすると生命保険を解約される?

5.債務整理後の加入はできる?

「債務整理後は保険にも加入できなくなる」と思っている人もいるようです。

実際は、債務整理後はもちろん、債務整理の手続き中でも問題なく生命保険に加入することができます。

債務整理はあくまで借金問題を解決するために行うものであり、債務整理をしたからといって保険への加入を断られることはありません

もちろん健康上の理由がある場合などは保険に入れないかもしれませんが、少なくとも債務整理が審査の問題となることはないのでご安心ください。

6.債務整理と生命保険について不安があれば弁護士へ

弁護士は、債務整理をお考えの方が加入している保険に合わせて、適切なアドバイスをしてくれます。
保険以外の心配ごとがある場合も、弁護士に任せることで最善の方法で借金問題を解決できるでしょう。

[解決事例]

個人再生手続を選択したことで、保険を解約せずに済んだ事例

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