違法な給料ファクタリングに注意|最新の金融庁見解や裁判例を紹介
緊急でお金が必要になった時や、日々の生活費が足りないと感じた時、勤務先の会社からもらえる給料を事実上「前借り」できる給与ファクタリング(給料ファクタリング)は、お手軽で魅力的なサービスに映るかもしれません。
しかし、給与ファクタリング業者には違法なファクタリングを行っているところもあります。
こうした違法な給与ファクタリング業者を利用すると、法定外の利息を請求された上に苛烈な督促・取り立てを受けることになりますので、絶対に避けなければなりません。
令和に入ってからは、給与ファクタリングに関する判例が多く出されています。
令和2年には、金融庁から「貸金業法の解釈からして、給与ファクタリングは貸金業に該当する」という解釈が発表されました。
「給与ファクタリング」の利用により、本来受け取る賃金よりも少ない金額しか受け取れなくなるため、経済的生活がかえって悪化し、生活が破綻するおそれもあります。
借金問題でお困りの方や、給与ファクタリングの利用を考えている方は、本記事を参考にして生活難の根本的な解決を計りましょう。
1.給与ファクタリングの仕組みとは?
給与ファクタリングは、「利用者が勤務先の会社に対して有する将来の給与債権(給料を受け取る権利)を給与ファクタリング業者が買い取る」という、債権譲渡の仕組みにより行われます。
債権譲渡の際、給与ファクタリング業者から利用者に対して債権譲渡の代金が支払われます。
この代金は、給料の額から手数料を控除した金額に設定されるので、手数料相当額が給与ファクタリング業者の利益になります。
そして、利用者が勤務先の会社から給与の支払いを受けたら、その全額を給与ファクタリング業者に支払うことになります。
つまり、給料を毎月25日に受け取るサラリーマンが15日に緊急でお金が必要になった場合、給与ファクタリング業者に将来の給与債権を譲渡することで、給与ファクタリング業者から現金(給料額から手数料を引いた金額)を受け取ることができます。
サラリーマンは、実際に会社から給料を受け取った25日以降、その給料を弁済額として給与ファクタリングに支払うのです。
このように、利用者は手数料の支払いと引き換えに、事実上一定の期間給料の前借りができるというのが給与ファクタリングの仕組みです。
譲渡される債権の債務者(勤務先)はファクタリングに関与しません。
2.給与ファクタリングは貸金業とされている
給与ファクタリングについて「違法か・違法でないか」を判断するにあたり、法律上の最も大きな問題は、「給与ファクタリングが貸金業に該当するかどうか」という点にあります。
この論点については、給与ファクタリングの実質に着目した議論が展開され、以前からさまざまな見解が提示されていました。
最終的には、令和2年に金融庁から「給与ファクタリングは貸金業に該当する」という解釈が発表されました。
(1) 給与ファクタリングは貸付けと同じ
給与ファクタリングは、形式的には債権譲渡により行われます。
しかしその実態は、以下のように捉えることができます。
- ファクタリング業者から利用者に対して貸付けが行われる
- 一定期間が経過した後に、利用者がファクタリング業者に対して手数料という名目の利息を上乗せして返済する
この実態に着目して、給与ファクタリングは貸金業に該当するという見解が有力に主張されていました。
これに対して、貸金業に関する規制が及んでしまうとビジネスが成り立たない給与ファクタリング業者側は、「給与ファクタリングはあくまでも債権譲渡であり、貸金業には該当しない」という主張をしていました。
上記の議論について、2020年3月5日、まず金融庁がノーアクションレターへの回答の中で見解を示しました。
ノーアクションレターの質問文:
https://www.fsa.go.jp/common/noact/ippankaitou/kashikin/02a.pdf
金融庁の回答:
https://www.fsa.go.jp/common/noact/ippankaitou/kashikin/02b.pdf
金融庁は、給与ファクタリングは「経済的に貸付けと同様の機能を有している」ことを理由に、貸金業に該当するとしました。
貸金業法に関する規制権限を有する金融庁が、公式にこのような見解を示したことは大きな意義を持つといえます。
(2) ファクタリングが貸金業に該当すると判断された裁判例
これ以降、各裁判所(東京地裁・東京高裁・大阪地裁・名古屋地裁・札幌高裁など)が、給与ファクタリングに関する訴訟について「取引が貸金業に該当する」などの判決を下しました。
裁判例の内容としては、以下が一例です。
- 債務者の不払いリスクをほとんど負っていない、債権の 額面とは無関係に金員の授受がされていたといった事情等を考慮して、金銭消費貸借契約に準じる
- 債務者が弁済しなかった場合、売主が債権額以上の金額をファクタリング業者に支払う旨の公正証書を作成するなど、ファクタリング業者が負担すべき不払いのリスクを負担していないといった事情等を考慮して、貸金業法上の貸付けに当たる
- 債務者における不払いの兆候等がないことについて、売主において表明保証することとされており、売主に債務の保証を求めているのに等しいといった事情等を考慮して、金銭消費貸借契約に該当すると判断
裁判所も金融庁と同様で、給与ファクタリングが貸付けと同様の機能を有することを理由として、貸金業に該当すると判断しました。
金融庁と裁判所という2つの公的機関が給与ファクタリング=貸金業という図式を示したことは、実務上非常に大きな意味を持っています。
今後は、給与ファクタリングは貸金業に該当することを前提として、実務の運用を考えていく必要があるでしょう。
3.給与ファクタリングが違法とされるケース
給与ファクタリングが貸金業に該当する場合、貸金業に関する規制の対象となります。
よって、この規制を破った給与ファクタリング取引は違法となると言えるでしょう。
(1) 貸金業に関する規制の内容
典型的な問題となるのは、貸金業の登録・出資法の上限金利の2点です。
まず、貸金業を行うためには、貸金業者としての登録を受ける必要があります(貸金業法3条1項)。
もし無登録で貸金業を行った場合は違法行為となり、刑事罰の対象となります(同法11条1項、47条2号)。
また、給与ファクタリングが貸付けに該当するならば、出資法5条2項に規定される上限金利規制の適用を受けます。
この場合、給与ファクタリングの手数料を年率に引き直した場合に、20%を超えるときは違法な高金利ということになります。
(2) 違法な給与ファクタリングの事例
違法な給与ファクタリングの代表例としては、手数料の金額が出資法の上限金利を超過している場合が挙げられます。
金利面から違法となる給与ファクタリングの事例を見ていきましょう。
以下は、過去の東京地裁の判決で問題となった事例の一つです。
譲渡対象:7万円の給与債権
債権譲渡代金:4万円
債権譲渡から4日後に、7万円の給与全額を給与ファクタリング業者に支払う
これは、利用者が給与ファクタリング業者から4万円を4日間借りて、7万円にして返す取引と同義です。
この場合、利息は4日間で3万円、元本に対して75%ということになります。これを年率に引き直すと、なんと6843.5%となります。
これは出資法の上限金利である年率20%を大きく超過しており、違法なファクタリング取引ということになります。
4.違法なファクタリング業者から借りたらどうなる?
給与ファクタリングが違法となる場合、契約が無効になり、返済義務もなくなることがあります。
違法なファクタリングの被害に遭ってしまった方にとっては、給与ファクタリング業者に対してどのような主張をするか?というのが重要なポイントになります。
(1) 手数料が年率換算109.5%を超える給与ファクタリング契約は無効
給与ファクタリングの手数料が年率換算で109.5%を超える場合には、給与ファクタリング契約は無効となります(貸金業法42条1項)。
したがって、給与債権は利用者の元にある状態のままということになりますので、給与ファクタリング業者に対して給与相当額を支払う必要はありません。
また、既に給与相当額を支払ってしまった場合には、その全額の返還を請求することができます。
仮に給与ファクタリング契約が無効とならない場合であっても、手数料が出資法上の上限金利を超える場合(年率換算で20%超~109.5%以下)には、上限金利を超過した分の手数料は過払い金として、給与ファクタリング業者に対して返還を請求することができます。
(2) 利用者に支払われた債権譲渡代金は返還不要に
給与ファクタリング契約が無効となる場合、利用者は給与ファクタリング業者から受け取った債権譲渡代金を返還しなければならないのが原則です。
ところが、東京地裁の判決によれば、刑事罰の対象となる違法な給与ファクタリングについては、給与ファクタリング業者から利用者に対して支払われた債権譲渡代金は「不法原因給付」(民法708条)になるとされています。
不法原因給付をした者(=給与ファクタリング業者)は、給付の目的物(=債権譲渡代金)の返還を請求することができません。
したがって、利用者は給与ファクタリング業者に対して債権譲渡代金を返還する必要がありません。
なお、利用者が既に給与ファクタリング業者に対して、任意で債権譲渡代金を返還してしまった場合には、その代金を取り戻すまではできないことに注意しましょう。
(2) 違法な給与ファクタリング業者は刑事罰の対象
さらに、貸金業の登録なく給与ファクタリングを行ったり、違法な手数料を設定した給与ファクタリングを行ったりした業者は、刑事罰の対象となります。
それぞれの場合についての法定刑は以下のとおりです。
違反事由 | 法定刑 |
---|---|
無登録での貸金業 | 10年以下の懲役もしくは3000万円以下の罰金またはこれを併科(貸金業法47条2号) |
上限金利超過(20%超109.5%以下) | 5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはこれを併科(出資法5条2項) |
上限金利超過(109.5%超) | 10年以下の懲役もしくは3000万円以下の罰金またはこれを併科(出資法5条3項) |
5.違法な給与ファクタリングの被害にあったら弁護士に相談
もし、違法な給与ファクタリングからお金を借りてしまったら、すぐに弁護士に相談してください。
以前は給与ファクタリングの法的な位置づけが曖昧だったため、グレーなファクタリングビジネスが横行し、利用者が破産に追い込まれてしまうなどの事例も多くありました。
しかし、今は金融庁や裁判所により給与ファクタリングが貸金業に該当するとの見解が示されています。
そのため、適切に対処すれば給与ファクタリングの支払い負担を免れることができる可能性があります。
[参考記事]
給料ファクタリングによる破産も弁護士へ相談できる?
弁護士は、貸金業法その他の法令の内容を踏まえて、違法な給与ファクタリングの被害に遭ってしまった方が業者に対して正しい権利を主張することをサポートしてくれます。
また、違法な給与ファクタリング業者との交渉の矢面に全面的に立ち、依頼者の精神的な負担を軽減してくれます。
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