信用取引・FXの追証が払えないとどうなる?対処法は?
信用取引やFX(外国為替証拠金取引)では、含み損の拡大により、証券会社から「追証(追加証拠金)」の入金を要求されるケースがあります。
追証が入金できないと、保有中の建玉が強制的に決済されるだけでなく、最悪の場合、証券会社による訴訟提起や強制執行に発展することもあるので要注意です。
今回は、信用取引・FXの追証が払えない場合に発生する事態や、追証が入金できない場合の対処法などを解説します。
1.期限までに追証を入金できないとどうなる?
証券会社が追証の入金を求めるのは、投資家によって入金済みの証拠金が「必要証拠金」の額を下回った場合です。
追証が発生するタイミングは証券会社によりますが、マーケットがクローズした段階で必要証拠金維持率を下回っていると、追証を請求されることが多いです。
追証が発生すると、多くの場合、翌営業日または翌々営業日までに、追証を入金することが求められます。
期限までに追証が入金できないと、どのような事態が生じてしまうのでしょうか?
(1) 保有中の建玉が強制的に決済される
もし追証を入金できないと、建玉が強制的に決済されてしまいます。
この場合、投資家としては、不本意なタイミングで建玉を決済しなければなりません。
保有建玉を維持したい場合には、期限までに追証の入金を行いましょう。
(2) 強制決済の結果証拠金がマイナスになってしまうことも
また、強制決済の際に激しい相場変動が発生していると、証拠金がマイナスになってしまうこともあるので要注意です。
証拠金がマイナスとなった場合、マイナス分は、いわば証券会社に対する「借金」であり、投資家は返済を迫られることになります。
なぜ証拠金のマイナスが発生するのかについては、次の項目で解説します。
2.証拠金がマイナスになってしまうのはなぜ?
証拠金がマイナスになると、投資家は身の丈に合わない「借金」を背負うことになりかねません。
その一方で、証券会社の側としても、マイナス分を回収できないリスクを負うことになります。
そのため、証拠金がマイナスとなる事態をできる限り避けられるように、各証券会社の取引システム上で工夫がなされています。
しかし、急激に相場が変動するなど、通常想定される範囲を超える事態が発生した場合には、証拠金がマイナスとなってしまうケースもあるのです。
具体的には、以下の場合に証拠金がマイナスとなってしまう可能性があります。
(1) 相場の急激な変動により、ロスカットが間に合わなかった
証拠金がマイナスとなる事態を防ぐため、各証券会社では「ロスカット」の仕組みが導入されています。
ロスカットとは、証拠金維持率がロスカットラインを下回った時点で、追証の入金期限を待つことなく、強制的に全建玉を決済する仕組みです。
証拠金維持率は、以下の計算式により求められます。
証拠金維持率=実際の証拠金額÷必要証拠金額×100
ロスカットラインは、証券会社や取引する商品の種類にもよりますが、証拠金維持率50%に設定されているケースが多いです。
取引時間中に相場が変動して、証拠金維持率がロスカットラインを下回った場合、その時点でロスカットが行われます。
ロスカットラインは、証拠金がプラスのまま残る水準に設定されています。
そのため、通常時であれば、ロスカットによって証拠金のマイナスが生じることはありません。
しかし、ロスカットは成行注文によって行われるため、ロスカットラインちょうどで建玉が決済されるとは限りません。
特に、相場が急激に変動している状況でロスカットが発動すると、実際の約定価格がロスカットラインから大きく乖離する可能性があります(スリッページ)。
つまり急激な相場変動により、ロスカット時にスリッページが発生した結果、証拠金がマイナスとなる水準で建玉が決済されてしまうことがあるのです。
(2) 取引時間外での相場変動により「上窓」「下窓」が発生した
取引時間が限定されている金融商品についての信用取引は、証拠金のマイナスが発生するリスクがきわめて大きく危険です。
たとえば、信用取引によって国内株式を売買している場合、原則として、証券取引所の取引時間の間しか売買を行うことができません。
現状では、国内株式の取引時間は、午前9時から11時半および午後0時半から3時と、非常に狭い時間帯に限定されています。
多くの方はご存じかと思いますが、国内株式については、ある営業日の終値と翌営業日の始値は同じではありません。
なぜなら、翌営業日の始値には、取引時間外で発生した相場変動を引き起こす要因が反映されるからです。
特に、市場の予想と乖離した決算発表や、グローバルな金融不安などが取引時間外で発生した場合、ある営業日の終値と翌営業日の始値が大きく乖離することがあります。
(俗に、翌営業日の始値が大きく値上がりした場合の乖離を「上窓」、大きく値下がりした場合の乖離を「下窓」と呼びます)
上窓や下窓が発生した結果として、証拠金維持率がロスカットラインを下回った場合、市場がオープンした時点でロスカットが行われます。
しかし、上窓や下窓によって、ロスカットラインから遥かに乖離した水準でロスカットが執行されてしまい、結果的に証拠金がマイナスになってしまう可能性があるのです。
このように、取引時間外で不測の事態が発生した場合、証拠金のマイナスが生じてしまうリスクがきわめて高いと言えます。
しかし、取引時間が開始しなければ売買を行うことはできないので、投資家としては、証拠金のマイナスの発生・拡大を阻止する手立てがありません。
したがって、取引時間が限定されている金融商品についての信用取引は、資産を大きく失ってしまうリスクが高い取引であると認識すべきでしょう。
3.マイナスの証拠金を補填できないとどうなる?
証拠金がマイナスになった場合、投資家は証券会社に対して、マイナス分に相当する金銭を支払わなければなりません。
(1) 証券会社から督促を受ける
マイナスの証拠金を回収するため、証券会社は投資家に対して督促を行います。
近年ではコンプライアンスが厳しいため、乱暴な取り立てに遭うことはまずありません。
しかし、頻繁に電話がかかってきて生活に支障が生じたり、家族から不審な目で見られたりするおそれがあるので要注意です。
(2) 証券口座が凍結され、弁済に充当される
差金決済取引以外の取引に用いている証券口座がある場合、その証券口座は凍結され、預託している資産は、マイナスの証拠金の補填に充てられてしまいます。
保有し続けたいと思っていた株式や投資信託なども、強制的に換価・処分されてしまうことになります。
(3) 裁判や強制執行に発展する可能性も
マイナスの証拠金を投資家が補填しない場合、証券会社は法的措置を講ずる可能性が高いです。
具体的には、証券会社が投資家に対して訴訟を提起し、マイナスの証拠金を補填するよう求めることになります。
投資家としては、適合性原則違反(金融商品取引法40条)や説明義務違反(金融サービスの提供に関する法律4条、6条)を理由に、証券会社に対して反論を行う余地はあります。
しかし、有効な反論ができない場合や、送達された訴状を無視して裁判を欠席した場合には、証券会社側の請求が認められてしまいます。
その場合、最終的には証券会社から強制執行の申立てが行われ、投資家の預貯金や給与等が差し押さえられてしまうので注意が必要です。
4.追証の入金・マイナスの証拠金の補填ができない場合の対処法
追証の入金ができない場合や、マイナスの証拠金を補填できない場合には、以下の対処法が考えられます。
(1) 保有中の建玉を決済する
証券会社から追証を請求された段階で、自主的に保有中の建玉を決済すれば、強制決済を避けることができます。
建玉のボリュームを下げれば、必要証拠金の額も下がるため、追証の請求が解消されるためです。
強制決済の前に建玉を決済することで、許容範囲を超える損失の拡大を防げます。
「損切り」になってしまうことに抵抗があるとしても、冷静な判断に努めましょう。
(2) 証券会社に分割払いの相談をする
証拠金がマイナスとなり、マイナス分をすぐには補填できない場合には、証券会社に対して分割払いの相談をすることも考えられます。
証券会社としても、投資家が破産してしまって全く回収できないよりは、分割払いでも支払いを受けた方がよいと考えるケースが多いです。
支払いのスケジュールや、資金確保の見込みなどを具体的に示したうえで、証券会社と交渉してみましょう。
(3) 自己破産をする
証拠金のマイナスがどうしても補填できない場合には、自己破産をすることも有力な解決策となります。
自己破産をすると、価値ある資産の大半が処分されてしまいますが、最終的に債務全額が免責されます。
なお、信用取引やFXによって借金を背負った場合は「免責不許可事由」に該当し、自己破産による免責が認められない可能性もあります(破産法252条1項4号)。
しかし、裁判所に対して反省の態度や経済的更生の見込みを示すことにより、裁量免責が認められることが多いです(同条2項)。
信用取引やFXにより借金を作ってしまい、自己破産を検討する場合は、お早めに弁護士までご相談ください。
[参考記事]
FX投資の危険性|借金地獄は自己破産で解決!
5.まとめ
信用取引やFXを行う際には、急激な相場変動などによる、追証の支払いリスクを常に負うことに十分注意しなければなりません。
もし証券会社から追証を請求された場合には、保有中の建玉を決済するなどして、損失リスクを限定することを検討しましょう。
また、万が一証拠金がマイナスになってしまい、証券会社から督促を受けている場合には、自己破産などの選択肢を含めた検討が必要になります。
信用取引やFXで過大な債務を背負ってしまった場合には、お早めに弁護士までご相談ください。
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