増加するワーキングプアの原因と対処法とは?-借金が嵩んだら債務整理-
「こんなに一生懸命働いているのに、ずっと貧乏生活……」
NHKが「ワーキングプア」を取り上げ話題になってから、10年以上が経過しています。しかし、その数は昨年まで4年間連続で1100万人を超えているそうです。
働いても一向に豊かになれないワーキングプア。今回は、そうした状況に陥る原因、問題点、脱出方法を解説します。
1. ワーキングプアとは
2000年代に入り「ワーキングプア」という言葉が登場して以来、その言葉は現在に至るまで大きな注目を集めています。
ワーキングプアとは、文字通り働いているにも関わらず貧困状態に置かれている層のことです。
正確には正社員並み、もしくはフルタイムで正社員として働いているのにも関わらず、ギリギリの生活を維持するのも困難、もしくは生活保護以下の水準の収入しか得られない就労者を指しています。
ワーキングプアの定義の目安は非正規で年収200万円以下、または正社員で年収300万円未満の人です。
年収200万円以下であれば、平均月収は15万円程度。家賃、光熱費、食費などを出したら残るお金はほとんどありません。
その状態では、趣味や娯楽は控えめになり、将来に向けて自己投資をすることも叶いません。
国税庁「民間給与実態調査2017年」によると、1年を通じて働いても年収が200万円以下に留まっている人は1132・3万人で、前年の1130・8万人から1.5万人増加しています。
労働者人口も前年比で増加傾向にあり、2017年平均の役員を除く雇用者は5460万人で、前年に比べ69万人増加しています。その内訳は以下の通りです。
全体
正規 の職員・従業員:3423万人→56万人の増加
非正規の職員・従業員:2036万人→13 万人の増加男性
正規の職員・従業員:2310万人→23万人の増加
非正規の職員・従業員:647万人→4万人の減少女性
正規の職員・従業員:1114万人→34万人の増加
非正規の職員・従業員:1389万人→16万人の増加
上記の数字を男女別にみると、男性に比べ女性は非正規での就労が大幅に増加しています。
雇用形態は主にパート、アルバイトで、その大半は35歳以上の子育て世代の女性です。
全体的には雇用者が69万人増加しており、そのうちワーキングプアは1.5万人の増加です。
この数字が多いか少ないかはさておき、以前から社会問題になっているにも拘わらず、この1年を通じても決して就労条件が良いとは言えない環境で新たに働き始めた人がいることが分かります。
ワーキングプアが1100万人を超えるのは4年連続。実に全国の雇用者5460万人のうち、5人に1人がギリギリの生活水準に置かれているのです。
・ 高学歴ワーキングプアと官製ワーキングプアの登場
昭和の頃は大学さえ出ればよい仕事に就ける、という社会的な風潮がありましたが、現在は高学歴でもワーキングプアに陥る人が増えています。
また近年は官製ワ―キングプアなる言葉も登場。絶対的な安定が約束されているはずの官公庁の現場で一体何が起きているのでしょうか。
2. 増加した原因
高学歴であってもワーキングプアに陥るのは、いくつもの原因が複合的に重なっているからです。その内容を見てみましょう。
(1) 労働市場の規制緩和・自由化
昭和の頃は就職をすれば終身雇用が当たり前の時代でしたが、その社会構造は20世紀の終わりに大転換を迎えます。
そのきっかけとなる出来事は主に2つです。
1つは1990年代のバブル経済崩壊後の日本経済の長期に渡る低迷。もう1つは世界中で人、モノ、お金のグローバリゼーションが進んだことによる国際競争力の激化があげられます。
特に製造業では新興国の追い上げもあり、激しい価格競争にさらされることになります。その一方で、付加価値が勝負のサービス業は成長をしました。
サービス業のミッションは相手のニーズに応えることにあり、業界の成長に伴って、より柔軟な働き方を求められる職場が増えたのです。
こうした状況の中で、政府主導の下で労働市場が規制緩和され、雇用の自由化が進みました。
規制緩和、自由という進歩的な言葉とは裏腹に、新しい雇用システムの下、労働者はいつクビにされるか分からない不安定な立場に置かれることになったのです。
(2) 非正規雇用の制度拡大
労働市場の規制緩和によって、それまで通訳やアナウンサーといった専門職のみで認められた派遣労働が、あらゆる分野で認められるようになり、製造業などの分野でも非正規労働者が生まれました。
雇用者は非正規であれば経済状況に合わせて、自由に解雇することができます。
また、人件費を押さえながら、必要に応じて労働力を調達することができます。
こうしたシステムは雇用者側にとって好都合であることから、制度は拡大の一途をたどります。
その結果、いくら働いても貧困から脱出できないワーキングプアの層が生まれました。
(3) 就職氷河期
1990年代に日本経済が悪化したことにより、特に1993年卒の学生から2005年度までの13年間は就職が非常に厳しい状況でした。
この期間は一般的に就職氷河期と呼ばれ、特に1970年代生まれの「団塊ジュニア」と呼ばれる世代には、非正規やフリーターとして社会人としてスタートをせざるを得なかった人が多く存在します。
団塊ジュニアは人口も多く、受験も就職も非常に激しい競争にさらされた世代です。
こうした社会状況で不本意な働き方を強いられた団塊ジュニア世代は「ロストジェネレーション」と呼ばれ、現在でもワーキングプアの層の中核を占めています。
(4) 企業の人件費削減
1990年代以降の厳しい経済状況の中、企業側は人件費の削減を目指しました。人件費を抑えるには正社員の採用を限定して、非正規の採用を増やすことが近道です。
そのため、多くの企業で新卒を非正規で採用するケースも見られました。
正社員と非正規の賃金格差は20代ではあまり目立ちませんが、40代になると300万円も所得格差が生じます。
日本の就職市場では新卒の価値が高く、そこで失敗すると、その後も正社員になることが難しい社会です。
一度ドロップアウトしてしまうと、その後は非正規での労働を繰り返し、いくら働いても豊かになれないという状況に陥るのです。
(5) セーフティネットの穴
セーフティーネットの不十分さもワーキングプア層の増大に拍車をかけています。
日本のセーフティーネットは正規雇用者向けの雇用保険および健康保険と、自営業者、失業者、非正規雇用者向けの国民健康保険、生活保護の二重構造で成り立っています。
生活保護はセーフティ―ネットの最後の砦ですが、非正規雇用者はフルタイムで働けるので、生活保護の受給は現実的ではありません。
雇用保険や健康保険加入者と同じように雇用されているにも関わらず、そうした保険の恩恵はなく、自営業者のように高所得を得られる可能性もありません。
一度健康を損なったり、仕事を失ったりしたときには即生活に窮する状態に常に置かれているのです。
(6) ブラック企業の増加
ブラック企業とは、パワハラやいじめが蔓延し、長時間労働を強いられる会社です。ブラック企業は正社員で採用し、労働者を使い倒すのが特徴です。
通常であれば、そのような会社にいたいと思う人は少ないはずですが、退職をしたら非正規雇用しかない社会情勢の中では簡単に辞めることもできません。
ブラック企業はそうした従業員の心理を利用して、正社員でも低賃金で働かせ続け、ここでもまたワーキングプア層が生まれます。
(7) 公務員でも非正規が拡大
近年は公務員でも民間同様に非正規が増えています。
特に多いのは図書館、保育園、ケースワーカー、消費者相談業務、特別支援教育支援員で、公務員の非正規雇用の人たちは労働契約法も公務員法も適用されません。
公務員でも非正規職員は正規職員に比べて賃金は低く、保証も十分に受けることはできません。民間のパート、アルバイトと変わらない立場に置かれています。
3. ワーキングプアの問題点
ワーキングプア層の増大は社会的にも問題視されています。
(1) 結婚できない
ワーキングプアは低収入で生活も安定しないことから、結婚を先送りにする傾向があります。
もう少しお金が溜まってから…と思っても一向に収入は増えず、状況も改善されずに年齢を重ねてしまいます。
また、結婚しても経済的な理由で子供を持つのを躊躇するケースもあります。
その間に、日本の少子高齢化はどんどん進行します。経済的な理由で家族を持てないことは、個人の問題に留まらず、社会にとっても大きな損失です。
(2) 将来に向けた生活設計ができない
ワーキングプアになると常時生活を維持するだけで精一杯になります。貯金もできないので自己投資もままなりません。
仕事を休むと生活できないので転職も不利になります。その悪循環でいつまでたっても将来に向けての生活設計ができません。
(3) 病気のリスクが高く生活保護が必須に
ワーキングプアになると、生活費を切り詰めるので食事も簡素になりがちです。
栄養状態が悪いと病気になりやすく、貯金もない状態で大病になると生活保護を受けなければ生活できなくなります。
貧困、独身、病気…こうした要素が重なると社会的に孤立しやすくなります。ワーキングプアはリスクと背中合わせの状況に置かれているのです。
(4) 借金まみれになる可能性がある
常にギリギリの生活をしていると、突発的な出費に対応できなくなり、借金をして急場をしのぐことも多くなります。
一度借金をするとクセになり、気が付いたときには多重債務に陥っている人も少なくありません。
そうなると結局借金を返せず、最後は自己破産で住居を失うこともあります。
(5) 老後、ホームレスになる可能性がある
ワーキングプアだと家を購入することも叶いません。
賃貸生活のまま60歳を迎え、年金を十分にもらえず、老後に仕事先がなくなったとき、最悪はホームレスになる可能性もあります。
老後の借金に不安がある方は「他人事ではない!悲惨な老後破産の現実と実態・今からできる対策」もご覧ください。
(6) 貧困の固定化
ワーキングプアの増大は貧困の固定化にもつながります。
人生の3大出費の1つは子育て。子供1人につき大学を出すまでに3,000万円かかるとも言われています。
ワーキングプア層の人が十分な収入がないまま結婚をして子育てをしても、十分な教育をすることができず、学歴も職業技能もないまま子供を社会に送り出さなくてはなりません。
そうなると子供も低収入層になりやすく、貧困は連鎖、固定化することになります。
4. 脱出方法
もし今現在ワーキングプアであれば、何とか脱出する方法を考えましょう。
仕事を変える、収入を増やす、借金を減らすなど、何をすべきかは人によって異なるので、自分の状況をよく分析して、行動に移すことをおすすめします。具体的には以下の方法を検討してみましょう。
(1) 転職活動
2000年代までは就職氷河期でしたが、現在はその状況も様変わりし、人手不足の業界も少なくありません。
もし20代、30代であれば、自己分析をしっかりして積極的に転職活動を行いましょう。
また40歳以上の場合、事業課題解決を目的としており、そのニーズに合致していれば採用される可能性はあります。
また高年齢の場合は、思考に柔軟性のある人が採用されやすい傾向にあります。
(2) 副業を始める
非正規を繰り返し、転職で武器になるようなスキルが身についていない場合は副業を始めるのもおすすめです。
最近ではインターネットを利用したネットワークビジネスも登場し、誰でもお金をかけずに起業できる時代です。
こうした社会環境の変化に目を向け、自分に出来そうなことは何か考え、少しでも収入を増やす道を探しましょう。
(3) 支援団体への相談
もし今すでに貧困状態にある場合は、ワーキングプアの支援団体に相談するのも1つの方法です。
また、もし病気で仕事ができない場合は、生活保護を受けられる可能性もあるので、市町村の窓口で相談することをおすすめします。
(4) 借金がある場合、債務整理
もし借金があって、返済に追われていることでワーキングプアから脱出できないのであれば、債務整理をしましょう。
債務整理には任意整理、個人再生、自己破産の3つがあり、特に任意整理であれば誰にもバレずに借金を減額することもできます。
債務整理は借金返済に困っている人を救済する制度なので、ワーキングプアから脱出するきっかけにすることもできます。
5.まとめ
このように、ワーキングプアの人たちは、紙一重の状態で暮らしています。また、今現在は、ワーキングプアでなくても、いったん落ちてしまったら、なかなか抜け出せるものではありません。
もし、そこで借金が嵩み、返済が滞りがちになってしまったら、一度泉総合法律事務所の弁護士にご相談してみてください。
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